Ep3 Rudolph the Red-nosed Reindeer
「Hi!マシュー」
会社の廊下にある自販機の前でトムと出くわした。
改めて見ると、ぷっくりした頬が少し紅潮して、特殊メイクなんかしなくても十分サンタらしい。
やはりトムは凄い。
コインを入れて落ちたコークを軽くパスする。
「この前の礼だよ!俺が合格出来たのは君のお陰でもある」
「俺、何かしたっけ?でも受かって良かった。コークで乾杯だ! 」
二人で同時にキャップを捻るとシュワっと炭酸の弾ける音がして、ペットボトルを触れあわせてからゴクゴクと喉を潤す。
「プハー!それにしても気付かなかったよ。後で聞いてビックリした。マシュー・クローバーだったなんて。代々サンタやってて創設者のクローバー家の?って。随分、上手く化けるよね。ホントにサンタそのものだったから合格出来たんだろうね」
「やっぱ反則なのかな?合格して嬉しいけど……」
トムに全く悪気がないのは承知していたが、オーディション会場で他の参加者に責められた事を密かに気にしていた。
「うーん。気にする事ないんじゃないかな。君のソリの走りは凄かったし、トナカイにも懐かれてたから合格出来たのは見た目だけじゃないよ。受かった以上は頑張ろう。俺達は他の参加者達の夢も背負ってるんだから」
「トム、いい奴だな。ところで君は何でサンタになりたいって思ったんだい? 」
ふと気になっていた事を思い出した。
「ああ、俺の叔父さんがサンタだったんだ」
「え?そうなの? 」
「うん、俺、両親を四歳の時に交通事故で亡くしてて、独身の叔父さんが引き取ってくれたんだ。その叔父さんが特殊メイクした時のマシューに似てるんだよ」
「へえ……」
「叔父さんは頑張って面倒見てくれたけど、それでも両親がいないのは寂しかったし、色々と不便もあったから他の子達と較べてしまってね。クリスマスの日が楽しみだった。毎年、ツリーの下や枕元にプレゼントが置いてあって、それだけは他の子供達と同じだからね。サンタは親がいようといまいと平等にプレゼントをくれるんだって」
マシューはコークを口に含んで俯いた。
「叔父さんが実はサンタだって知った時、両親がいない寂しさは薄らいだ。本当に誇らしくて嬉しかったよ。だから今度は俺がサンタになって多くの子供達にプレゼントを届けようって思ったんだ」
マシューは袖でそっと涙を拭った。
「そんな事情があったなんて。トムと較べて俺の理由は安易だな。でも父がサンタだって知った時、やっぱり嬉しかった。父は役目を終えた。だから俺が代わりにサンタ役を引き継ぐ。クローバー家のサンタを俺で途切れされるのは嫌なんだ」
「十分過ぎる理由だよ。サンタの伝統を背負ってるんだ。カッコいいよ」
トムは親指をぐっと突き立て「いいね」をしてくれた。
「そういえば、もうトナカイ選んだ? 」
「あ、まだ選んでない」
「早く選んだ方がいいんじゃない。うちの本社でも俺達以外に数名受かってるから走りの良さそうなの取られちゃうよ」
マシューはトムに言われて、慌てて社外のトナカイ飼育場に足を運んだ。
「Hi! 」「Hi! 」「Hi! 」
マロンベージュの体毛に覆われたトナカイ達が、マシューの姿を認めた途端に軽快な挨拶で迎えてくれた。
「Hi!俺はマシュー・クローバー。君達のリーダーってもう決まっちゃってる? 」
マシューも挨拶を返し笑顔で話し掛けた。
「ぜーんぜん!あんた、来るの遅くて良かったわよ。リーダー決まってる子達は此処にはいないわぁ。残りもんには福があるっていうじゃなぁい? 」
首を突き出すトナカイ達の左側の方から、ハスキーな声がした。
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