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「コークやフライドポテトが好きでないとダメって事か」
クインは両手を上げ首を振り、大袈裟に溜め息を吐いた。
「違うわ!彼等の体型、全員肉厚でしょ? 」
ちょうどその時、二人のテーブルの脇をジュージュー旨そうな音を立てたステーキを運ぶウェイトレスが通り過ぎた。
「確かに──肉汁迸るって感じだな」
「あなたはスレンダー過ぎるの。幾ら白い髭付けたって全然サンタじゃない」
「じゃあ、俺も死ぬ程フライドポテト食わないと。時間がないよ。オーディションまで後一週間しかないんだから」
「焦らないで。私にいい考えがあるの。取り敢えず店出ましょ! 」
扉を開けた途端に外気の冷たさに首を竦める。
「マシュー、マフラー忘れてる? 」
慌てて取りに戻った。
ダークグリーンのマフラーをぐるぐる首に巻き付ける。
温かい。
歩きながら自然に差し出された互いの手が繋がれる。
「あのね。私、メインに昇格したの。もしマシューが受かったら私がサポートするわ」
「凄い!おめでとう! 」
彼女の薄くそばかすの浮いた鼻に軽くキスをする。
ソリを誘導するオペレーターには的確な判断力が求められ、一人のサンタに対してメインとサブの二人がサポートに付く。
猛スピードで進むソリが事故を起こさないように、障害となる建物や大木を素早く見定め方向を指示する。
分割表示されたモニターにはソリの現在位置とリアルなサンタの映像、次の目的地がカラフルな点で示され、状況に応じて画面を切り替える。
25日の0時から陽が昇るまでインカムを付けてモニターと睨めっ子だ。
「まあ、何れはメイン担当になれると思ってたけど、早く上がれて良かった」
「クイン、君はちゃんと夢を届ける仕事に携わっているのに俺は全くダメだ。30歳までにオーディションに受からなかったら諦めるよ。間抜けだからオペレーターは無理だし。今までやってきたのは精々プレゼントのラッピングくらいさ」
クインは項垂れるマシューの瞳を下から覗き込んだ。
「私も実はサンタ役目指して入社したって知ってた? 」
「そうだったの?女性の君が? 」
驚いて顔を上げる。
「やっぱり女性が?って思うでしょ?あなただってイメージに縛られてる」
「ごめん……結局女性はダメって事? 」
「海外支社では知らないけど、私が入社してから女性のサンタは一人もいない。過去にはいたみたいだけど。結局は見た目よね。サンタは男性というイメージが定着している以上、男性に見えるような体型、振る舞いを身に付けなければならない。女性は不利ってとこかな。その不利を克服しようとしてみたんだけど別の問題がね──もうサンタ役は諦めたわ」
オーナメント通りとリース通りの交差点で信号を待つ。
「それじゃあ、サンタはコケーシャンでないとっていう差別はないのかな?オーディションに受かってる連中にアジアンやアフリカンはいないように思うけど。海外支社で落とされないのは、例えば日本ならコケーシャンの数が少な過ぎるから妥協してるだけ? 」
「日本のアニメやファッション誌見た事ある?」
「ファッション誌は無いけど。城が動いて魔女がいたり、巨人が人間を襲うのとか」
「ガイジンが出てきたりするわよね。金髪に青い目の。私には日本人にしか見えない。彼等から見たガイジンなのよね、きっと。例えばハーフなら、私達にはアジアンの特徴が強く目に付くからアジアンにしか見えない。でも、アジアンからはガイジンに見える。ハーフにエキゾチックな魅力を求めていても、私達からすると彼等が求めているものでさえ日本的だわ。私が言いたいのはね。日本人が変装した方が日本の子供達が思い描くサンタのイメージに合うんじゃないかって事。アフリカンでも同じ」
「そっか。暑い国に白い肌のサンタって何かおかしいもんな。赤い服も水着に変えた方がいい。じゃあ俺が日本でオーディション受けたら益々不利だな」
クインの視線が道を挟んで斜め前、ガラス張りのジュエリーショップに止まった。
宝石を扱ってるだけあって、クリスマスシーズンで無くても外装も内装も綺羅びやかだ。
クラクションの音を立ててスカイブルーの車が二人の前を通過した後、信号が青に変わった。
リース通りはオーナメント通りより賑わい、沢山の店が並んでいる。
「あそこの店寄ってかない? 」
ジュエリーショップの事かと思ったら、
クインの指差す先にはお菓子の店があった。
木の小屋を模したポップな造りで、大きな杖の形のキャンディーやチョコ、マカロンにビスケットが壁に貼り付いている。
店の中はバニラやココナッツの甘い香りで満ちていた。
「そういえば、あなたの見た目の事。映画会社に勤める友達に特殊メイクを頼もうと思ってるの」
「特殊メイク!!有難いけど俺の場合は体型だろ? 」
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