雲と泥

甘味屋

雲と泥

 あるところに、とても醜い姿をした生き物がいました。

 彼はいわゆる「怪物」ですが、醜い姿故に人間に忌み嫌われていました。そんな彼も人間を忌み嫌っていました。


 ある日のことです。

 怪物は一目惚れしました。公園のベンチに座り、物思いに耽る一人の女性に。

 怪物は大きな葉に知っている言葉を並べ、彼女にラブレターらしきそれを手渡しました。近くに生えていた野草と共に。彼女は大層驚きましたが、差し出されたそれらを受け取ってくれました。

 翌日。彼女は異形の者の前に現れました。彼女は醜い姿をした彼に臆することなく言いました。

「この言葉はスペルが間違っているわ」

「この草は毒草よ。贈り物にはダメ」

 そう言いながら、彼に直接突き付けました。怪物はとても驚きました。人間とは違う姿をしている自分を見ても怖がるどころか、間違いを指摘してきたのですから。

 その日から二人の交流は始まりました。

 怪物は彼女に指摘された言葉を直し、大きな葉に言葉をしたためます。先日使った種類とは違う、花束に向いている花を組み合わせて彼女に贈りました。

 それでも彼女は何度も何度も、間違いを指摘した上で怪物に直接返しました。

 怪物は何度も何度も間違いを直し、彼女に手紙を贈りました。

 何度も何度も花束を贈りました。

 ある日、彼女は笑顔で言いました。

「貴方には負けたわ」

 怪物はとても喜び、彼女を抱きしめました。いきなり抱きしめられた彼女は大変驚きましたが、すぐに笑みを浮かべて怪物の背に手を回し、優しく抱き返しました。

 その日の彼らはとても幸せでした。


 翌日、彼女は息を引き取りました。

 周りの人間が言います。彼女は随分と前から不治の病にかかり、それが原因で亡くなったのだと。

 誰かが言う。「化け物に見初められたからだ」

 誰かは言う。「あいつが病を持ってきたんだ」

 怪物は首を傾げます。

 彼女が眠る箱の中に、変な入れ物に入れるのか。

 何故、彼女を穴の中に入れるのか。

 怪物には、どれだけ時間が経っても死が訪れません。

 だからこそ、彼女の死を理解できませんでした。

 けれど。

 土の中に埋められていく彼女を遠巻きに眺めながら、一粒の涙をこぼしました。

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雲と泥 甘味屋 @tenmeiya

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