第8話 アイテム換金
結局、この新世界に必要な金は持っていなかったので、少量の素材を対価に街の中へと入れてくれた。
「はぁ……なんだか、肩透かしだな」
最悪、プレイヤーと遭遇して戦闘する事になるかも知れないと肝を冷やしたが、そんな事にならない様で、安堵と気が抜けた様子だった。
「プロフェッサー、この後はどうされますか?」
「あぁ、そうだな」
俺は適当に周囲を見渡した。
今、歩いている場所は土色のコンクリートの街道であり、その街道を挟む様に建物が建築されている。
その多くは何処か見覚えのある日本風の作りで、とにかく四角形の建物が多くあるが、その看板は英語だった。英語は文字が丸まっていたり、角ばったりしていて、往来の文字とは言い難い。まるで感性が駄目な方向に振り切ったアーティストが書いた看板みたいだ。
「取り合えず……金が要るな」
俺はそう思って周囲を見渡す。
看板の文字を一つ一つ眺めていきながら歩き出す。
『日本風料理』『ビーフ食堂』『シノビ飯』『アキバ電気街』……なんだか、日本語を半端に覚えた外国人がタトゥにいれてそうな言葉ばかりだな。
『金貸し屋』……ん?金貸し屋?
俺は看板を見て顔を上げる。
何とも、金色の塗装を施された建物だった。成金が作った様な店だ。
丁度良い、何事も金は必要だ。店の中に入る。
『―――■■』
此処でも英語鈍りが激しいブリキ人形が居た。
門番とは違って、そのブリキ人形は太っちょなデザインだった。
ガラクタで作った様な椅子にふんぞり返って座っている。
「金を貸してくれると聞いたんですが……」
……見た目は機械だが、敬語を使うのはどうかと思ったが、一応は金を貸してくれるかも知れないので、敬語を使う事にする。
『―――■■』
「なんて言っている?」
通訳のアルトリクスに聞く。
「一万、十万、百万の中から金を貸す代わりに、えぇと……
パラサイトパーツ?なんだそれは。
そう思うと、太っちょの機械人形は戸棚から瓶に入った機械の配線が一束に纏まった様な機械を見せつける。
『――■■―――■■』
「これを体に植え付ける、利子は十日で五割、払わなければ虫が暴れ出す……と言っています」
「横暴だろそれ」
まあ、金を貸して、そのままふんだくられる事を考えたら、植え付けると言うのは間違いでも無いとは思うが。
「仕方が無い……出るか」
俺はそのまま店から出ていく。
金貸し屋は何も言わなかった。
多分、決められた行動を順守している様にプログラムしているのだろう。
金を貸したら、虫を植え付ける。金を貸さなかったら、何もしない、と言う様に。
「プロフェッサー。提案があるのですが」
「どうした?」
「この素材、売れないでしょうか?」
俺の上着で作ったバッグの中に入った素材を見て言った。
……素材かぁ、売れるかな、これ。
「少々お待ちください……『記録の記憶』に接続して、この街のマップをインプットします」
アルトリクスがこめかみに指を添える。そして数秒程経つと、脳内にマップをアウトプットしたらしい。
「プロフェッサー、この周辺に素材が売れそうな場所があります、此方へどうぞ」
アルトリクスが案内をし始めた。
俺はその案内に乗って、彼女の後ろを歩き出す。
建物と建物の隙間にある路地裏を通っていき、明るい場所から暗くてジメジメする場所へと進んでいく。
上空を見上げれば、枝分かれしたパイプが空を覆っていて、パイプ自体も熱を持っている為に、湿度が高い、あまりに熱くて俺の額に汗が流れ落ちる。
「到着しました。プロフェッサー」
紫色の髪を靡かせながら俺の方に振り向く。
道の奥に当たる場所で、テントを張っている建物を発見する。
「この街での闇市に該当する場所です」
闇市……それって、表向きじゃ販売出来ないものが取り扱っている物品が並んでいると思うのだが……それは利用して大丈夫なのか?
「……まあ、素材が売れないと、体に機械を植え込むハメになるからな」
仕方なく、俺は素材を持ってテントの中に入る。
隣には通訳としてアルトリクスが傍に居てくれている。
テントの中はカーペットが敷かれていて、その上に壺や骸骨の頭と言った一見骨とう品に見えるものがあれば、単純にゴミでしかないと思えるものまで、様々な品が置かれていた。
『―――■■』
「いらっしゃい、と言っています」
「これ、売りたいんですが」
そう言って俺は、頭にターバンを巻いたブリキ人形に素材を見せつける。
ブリキ人形は背中からマジックハンドの様な腕を八本程伸ばすと、俺が持って来た素材をぶん取って、顔面に素材を近づけると、カメラのレンズみたいに目が突起して素材を数秒ほど眺めて隣の箱へと入れていく。
そして、述べ十五個程あった素材の内、三つの素材が俺の元に戻って来た。
『―――■■■』
「粗悪な品で、買い取る価値なし、装飾店で装備に出来たら、それを買い取っても良いと言ってます」
この粗悪品、装備にする事が出来るのか……。
機械人形はそのまま、俺に向けて金を渡して来た、紙幣が三枚程。『10000』と書かれた紙幣が三枚程だ。
「三万円、か?……この街でどれくらいの価値があるんだろうな?」
俺はアルトリクスに聞いてみる。
アルトリクスは情報を提供する為に『記録の記憶』と接続していた。
そして、アルトリクスは答える。
「旧世界で換算すれば、一枚で三万と五千円の価値があるみたいです」
一枚で三万と五千円……じゃあ三枚で十万五千円ほどか。
じゃあ、当面の間はこのお金で生きる事が出来るな。
そう思いながら俺は更にアルトリクスに聞く。
「取り合えず、疲れた、宿とかないか?」
「少々お待ちください……えぇと、街道に戻れば、宿はすぐあります」
分かった、と伝えて、俺は歩き出す。
宿を借りたら、まずはやるべき事があるんだ。
いや、一度仮眠をとるべきか?やる事を先にするか、後にするか、悩みながらも俺は宿を目指すのだった。
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