【祝3万PV】1000万体討伐帰還者《オメガ・エグゼクター》のRE:スタート -異界帰りの最強冷遇少年、問答無用の“実力チート”で、学園一の美人公女の裏教官となり、魔術皇国を影から導く-

紫奈城 シュン

◆第一章 皇国の臥龍 (★付きの回は PV・応援が特に多い OR 著者お気に入りエピソード)

第1話 英雄ならざる者の帰還 ★★★

 そこは異界。

 一面が、嵐の世界だった。

 空は奇妙な紫の光、大地は赤い砂に覆われ、灰色の雲が、激しくうなる強風にちぎり取られて、一気に吹き散らされていく。


 突然、稲光が空中を走り抜けた。

 閃光の中、一瞬だけ明るく照らし出されたのは、二つの影だった。


 一つは、この場所にふさわしい異形いぎょうである。四つの腕と四つの眼球を持つ、巨神きょしんともおぼしき、大きな人型の存在。そしてもう一つは、それよりずっと小さな……マントをひるがえし、踊るように舞う小柄な姿だ。


 巨人はすみ色の肌を持ち、まるで鎧のように隆起りゅうきした異常な筋肉で全身を覆っている。通常の人型生物では持ちえないだろう四つの眼球は、不気味な赤銅しゃくどう色の炎が燃え上がっているかのように、いずれもがぎらぎらと光っている。


 対する小さな影は……まだ顔にどこか幼さの欠片かけらが残る、一人の少年だった。顔立ちは整っているが、眼差まなざしはまるで氷剣ひょうけんのように冴えて鋭い。


 四腕しわんの巨人が吠えたけり、力任せに丸太のような腕を振るった。

 少年は、続けざまに繰り出される剛拳の連打を、いずれも俊敏しゅんびんかつたくみな動きで回避していく。


 ふと、少年が背中へと手を伸ばし、何かを引き抜くような動作を見せる。

 同時、嵐の暗がりを切り裂くような、鋭い閃光が発せられた。いや……それは、二振ふたふりの剣の輝きだ。


 いずこからか取り出されたのは 禍々まがまがしいフォルムに神秘的な赤い輝きをまとう長剣と、冷たい青色の光を宿らせる短剣。少年がそれを構えた次の瞬間。


 両拳りょうこぶしを組んで作られた巨人の鉄槌てっついが、激しく地面を叩きつけ、赤い土煙つちけむりを周囲に噴き上げる。少年の体躯たいくでは、まともに喰らえばひとたまりもないであろう一撃だ。


 だが、もうもうと周囲に舞っていた土煙が晴れた一瞬……

 少年の姿は、いつの間にか巨人の肩の上にあった。驚いたように、巨人の四つ眼の片側一対かたがわいっついが、ギョロリとその姿を追う。それを最後まで待たず、少年の腕が、勢いよく振りかぶられ……


 直後、異形の巨人の怒りたけった咆哮ほうこうが、風音かぜおととともに周囲にとどろく。

 少年が手にした青白く光る短剣を巨人の目の一つに振り下ろし、思い切り刺し貫いたのだ。


 同時に少年はもう片手に持つ長剣を振りかざす。直後、その長い刀身は刃ごと真っ赤な光を帯びて、明るく輝いた。


 続いて振り下ろされた長剣が巨人の薄黒い肌を切り裂くと同時、大きくぜた紅蓮ぐれんの炎が、あっという間にその身体を覆いつくしていく。


 やがて、炭と化したその巨躯きょくが倒れ伏せると同時。

 少年は音もなく着地すると、前方を見据みすえた。

 そこに現れたのは、新手の化け物たちの群れだ。


 狼のような獣の姿があれば、不気味な蟲のような姿もある。触手だらけの正体不明の存在もいれば、翼を持ち、金切り声を上げる猛禽もうきんのような風貌ふうぼうを持つものまで。


 だが、そのいずれもが、獰猛どうもうな捕食本能のままに、ぎらつく瞳を不気味な赤や青に染めて、小さな獲物を見つめている。


 対する少年の唇が不敵に歪み、強い意志に、瞳が燃え上がるかのように輝いた。

 彼が大きく長剣をかかげると、無数の異形の群れに向けて、まるで魔神の振るうむちのように、長大な炎がほとばしった……


 数刻後。

 焼け焦げ、異臭を放つ異形の群れの只中ただなかに、その少年の姿があった。

 彼は汗一つかかず、ただ、腕に付けていた奇妙な魔導装置の面晶体めんしょうたいを、天にかざすようにしてあおぎ見る。

 それから、まるで他人事たにんごとのように、無感情につぶやいた。


「これで……合計40万と3236階層を踏破とうは、か。敵殲滅数せんめつすうは……ふん、501万7832体……たく、ふざけた数字だ。どんだけ広大なんだよ、このクソ魔領域まりょういきは」

 

 ほとんど独り言のようなその言葉に、答えるものは誰一人いない。

 だが、足元に踏みしめた異形の死体が次々と実体化を解かれ、黒い光となって消えていく中……彼は、唇の端に歪んだ笑みを浮かべつつ、こううそぶいた。


「だが、俺は生きてかえってやる……必ず、必ずだ……」


* * *


「ユーリ! ユーリス・ロベルティンッ!」


 イゴル教授のしわがれた声が、華麗な石柱で支えられた壁を揺らすかのように、1年銀星組ぎんせいぐみの教室中に響き渡った。

 ここ、ロムス皇国・マギスメイア電理魔術学園でんりまじゅつがくえんには、窓という窓から、午後のうららかな日差しが差し込んでいた。


「どこにいる! ユーリッ!」


 皇国魔術史まじゅつしを担当する老教授の怒声どせいに応じるかのように、おずおずと教室内から、一本の白い手が挙げられる。


「セリカ・コルベット!」


 まるで指揮棒でも振るかのように、手にした電理魔導杖でんりまどうじょうで、その女生徒を指す老教授。

 女生徒は、静かに挙手した腕を下ろすと、そっと立ち上がった。


 薄く光る銀苺色ストロベリーブロンドの髪を、品の良い髪留めで綺麗にまとめている。夏川なつかわの清水のような澄んだ目に、人目を惹くには充分な、整った顔立ち。


 すらりとした体つきで肌は白く、全体に、どこか高貴さを感じさせる雰囲気。


 確かな胸のふくらみをやや気にしているかのように、し包むようにして合わせたえりと、S字の丘のようなくびれた曲線を描く、柔らかく丸い腰……そんな優美な姿は、年頃の少女として、男なら誰もが惹きつけられずにはいられない魅力をたたえていた。


 そんな彼女の胸には、趣味の良い小さな紅玉こうぎょくのペンダントが光っている。上品さと活力が同居した少女の魅力に花を添えるように、緋石ひせき表面ひょうめんは、窓から差し込む陽光を映して、きらりと輝いた。


「はい、イゴル教授。……たぶんまた、パラディーノの丘だと思います」


「ふむむ……あやつめ……」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる老教授。

 セリカと呼ばれた少女のすぐ後ろ、毛先にアクセントのついた金髪で浅黒い肌の女生徒が、どこかとぼけたような声で後を続ける。


「こりゃまた、サボリ確定ですかね~……にひひ。しっかしユリっちも、みんなより少し遅くきた転校生のわりに、ずいぶん大胆っちゅーか」


 ちょっとティガ、とたしなめたセリカの言葉を他所よそに、その浅黒い肌の少女は、少しソバカスの浮いた顔に、人の悪い笑みを浮かべた。


 この少女――ティガは、頭の後ろで手を組んで椅子にもたれ、胸元は第一ボタンを外し、こちらも豊かな胸を誇示するように少しはだけられていて、どこかユルんだ服装である。

 一方、セリカの方は、いかにも優等生然とした、折り目正しい学園制服姿だ。


「きっと、ユーリ君にも何か事情があるのよ……。そもそも、一年の入学式が終わった二週間後に転入してくるなんて、普通ならタイミングが悪すぎるもの」


「そっすかね~、ホラ、何事にも間が悪いオトコって、結構いるっしょ~?」


 そんな二人のやりとりはさておき。


「またしても、サボタージュというわけか! まったく転入早々、どうにも態度が悪い奴だと思っておったら……本当にどうしようもない落ちこぼれだなッ!」


 見事に禿げあがった頭から、ほとんど湯気をき出させんばかりにして、老教授は顔を真っ赤にして叫んだ。


「諸君! 次の中間試験で、あやつ……ユーリス・ロベルティンの末路まつろを、よく見ておけよ。あのふてぶてしいまでの怠慢ぶりで、真っ先に落第するだろうからな。落伍者らくごしゃのよい見本だッ!」


 そこまで言って、教授はクルリと生徒たちの方に振り返った。


「学生諸君! 君たちの本分はなんだッ!? ……さあ、貴君きくん!」


 再び杖で、教授は最前列の男子生徒をびしりと指し示す。

 指された男子生徒は、椅子をガタリと鳴らして立ち上がると、真面目くさった口調で声を張り上げる。


「はい、魔装騎士まそうきしとして学び、人々を襲い喰らう幻魔げんまを壊滅させ、世界を人間の手に取り戻すべく力を尽くすことです!」


「その覚悟や、良し! だが幻魔を生み出す魔領域まりょういきはまだ、大陸の各地に大小合わせて無数に存在し、今も増え続けておる。


 だからこそ、このロムス皇国は、領内各地から優秀な素質を持つ子女を集め、幻魔との戦いに備えて訓練する場を設立した。その名は⁉︎」


「はい! それこそが、僕らの学び、このマギスメイアです!」


「その通り! 皇国が世界に誇る電理魔術の殿堂にして、英雄の鍛錬場たんれんじょう! 皆、一流の魔装騎士になるべく、ここで三年間しっかり励むのじゃ! 我らの未来は、貴殿きでんらにかかっているのじゃからな!」


「はい、心しておきます! 皇国を幻魔の脅威から守りぬく……それこそが、我々の任務であり大義であると、心に刻んでおります!」


 まるで暗記した書物の聖句せいくをそらんじるかのようにこう言ったのは、先程さきほどの男子生徒である。


 その返事を聞き、老教授は満足そうに微笑んだ。

 それから彼は、話は終わったとばかり、セリカ・コルベットと呼ばれたさっきの少女を再び指名すると、何事かを告げたのだった。


* * *


 小高い丘の上には、まるで青インクを流したような澄んだ空が、どこまでも広がっていた。


 あちらこちらに薄綿うすわたのような雲が浮かび、高空こうくうを吹き渡る風に、ゆったりと流されていく。


 ロムス皇国の中心地・皇都パラディーノの外れにあり、その名の由来となった雄大なるパラディーノの丘。


 そんな場所で、こんな風にのどかな春の風景だけ切り取ってみれば、今も続く幻魔との激しい戦いと、この地は一切無縁のようだった。


 だが……はるか眼下を見渡せば、皇都の周囲を囲む、輝く電理ブロックの壁と巨大な魔導城門まどうじょうもんが、いやでも目に入る。


 それらは、幻魔の侵攻から皇都を守る、電理魔術の英知の結晶だ。


 突き出た胸壁上きょうへきじょうには、槍や長剣、刺槍銃しそうじゅうといった電理魔装でんりまそうで身を固めた守備騎士が配備されている。


 しかしそんな厳重な障壁も、その力を完全に発揮できるのは、皇都を含む各城塞魔導都市ポリスと魔導鉄道の路線周辺の、ごく限られた範囲のみ。

 いわば、「点と線」を支配しているに過ぎない……それ以外の場所は、荒廃野こうはいやとして、人類に見捨てられ打ち捨てられたままだ。


 魔領域から現れた幻魔たちは、かつていったん人間に押し返され、地上には束の間の平和が訪れた。


 だが、実は幻魔の侵攻自体は終わっていない。だからこそ、この平和な光景は仮初かりそめのもの。


 そんな光景の中に、ひとりの少年の姿がある。彼はくつろいだ格好かっこうのまま、草の上に仰向けに寝そべっていた。


 顔立ちは整っていてまだ幼さを残しているが、その目つきは鋭い。加えて、蒼黒そうこく色の髪の中には、一筋の神秘的な銀灰ぎんかい色の毛筋が混ざっている。


 まるで年相応の少年らしさと、長い人生を経た老成者ろうせいしゃの落ち着きが同居したような、不思議な印象を形作かたちづくっているのだ。


 穏やかな午後を満喫する小鳥の鳴き声に混じり、どこからともなく、教会の鐘の音が響いてくる。色とりどりに咲き乱れる花に、蝶がたわむれれかかるように舞い踊っている。


 そんなのどかな光景の中、少年は身じろぎ一つしない。

 生い茂る青草の中にゆっくりと身を横たえ、彼は行く雲の姿の移り変わりを、どこかいつくしむように見つめていた。


 そんな空の一点にふと、夢尾鷹ゆめおだかが一羽、悠々ゆうゆうと舞っているのが見えた。


 風の中でそれが姿勢を反転するたび、羽毛がきらりきらりと陽光を反射させるその姿を、少年はひときわまぶしそうに見上げていた……


 ふと、少年――ユーリス・ロベルティンの耳に、頭上から銀の鈴がりんと鳴るような、涼しげな声が降ってくる。


「ユーリ君……」


 彼は上体だけをゆっくりとわずかに起こし、無造作むぞうさにその声の主を見上げた。


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お読みいただき、ありがとうございました。

なお、見出しタイトルに「★★★」が付いている回は、特にPVが多かったか、著者が個人的にお気に入りの回になります。


当分は毎日朝7:00か夜19:00ごろ更新の予定です。つたない作品ですが、システム上、目次の最新話下にある★にて評価いただけますと、より時間をさいての更新や内容充実を図れますので、大変助かります!


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