第24話 レベルアップとスキルゲットと開けジ〇パー



 ――――テレレレッテッテッテ~♪



「……ムカつくし恥ずかしいけど、あたしもレベル上がった……」


「お、おう、お疲れ瑠夏。パンダその……随分と【霊獣憑依パンダ・インストール】にも【聖獣格闘術パンダアーツ】にも慣れてきたみたいだな……?」


「慣れたくはないんだけどねぇ~……あははは……」


「お、お姉様……! なんとお労しい……!!」



 某国民的RPGそっくりの電子音が薄暗い通路に鳴り響き、瑠夏のレベル――こちらの世界では〝位階〟が上がると言うそうだ――が上がったことを知らせてきた。しかしそんなやり遂げたはずの瑠夏の目には喜びはなく、ただただ遠くの虚無を映していた。



「しょうがねぇだろ? 瑠夏もルナも単体じゃあ攻撃手段が無ぇんだからよ。それに【霊獣憑依パンダ・インストール】した状態で戦えば瑠夏にもルナにも両方に経験値が入るんだから、やるっきゃねぇだろ」


「分かってる……分かってるよそんなこと! でも違うじゃん!? パンダビキニスーツっていう露出過多な格好でしかもプロレスなんだよ!? 乙女心的に受け入れたくないじゃんッ!?」


「分かりますわ、お姉様……。確かに先程の技は密着度も今までよりも段違いでしたものね……!」



 十階層の階層主フロアボスを事故とはいえアッサリ討伐し、ダディのレベルが上がったことが判明してより一時間ほど。せっかくだし全員レベルを上げてから帰ることにした一行は、続く十一階層目を攻略していた。

 そして瑠夏も嫌々ながらもルナと合体して戦闘に参加し、たった今犬頭のモンスター――コボルトナイトを【聖獣格闘術パンダアーツ】を用いて討伐し、レベルが上がったところだった。


 ちなみに、某子爵家令息と五人のチンピラ達は十階層の安全地帯セーフティエリアに置き去りになっている。

 帰ったらこの期に及んでも犯罪行為に走ったことを報告し、捕縛してもらうためにロープでグルグル巻きに拘束された状態だが。



「カレン嬢ちゃん、さっきの技はスリーパンダーホールドスイングって言うんだぜ」


「なるほどですわっ!」


「説明するとだな。背後から腕でノドを絞め上げて、さらにもう片方の腕を掴んで固定する。空いた手は相手の頭を押さえて効果倍増ってな技だ。しかも瑠夏はそこからさらに振り回してたろ? そうすると遠心力が加わってより外しにくくなるし、絞め付けもキツくなるんだな」


「説明しなくていいからぁッ!! まあまだ犬っぽいモンスターだったから耐えられたけど、それでもこの格好でくっつくのは恥ずかしいんだからねッ!? あとスリーパーホールドスイング! パンダ要らないからッ!!」



 つい先程の密着戦を細かく解説され、羞恥に顔を染めて喚く瑠夏だったが、そんな彼女の身体がにわかに輝いたかと思うと、瑠夏は普段のデニムジャケットにデニムのショートパンツといった格好に戻り、その傍らには愛くるしい娘パンダの姿が寄り添っていた。



「ぱんだぁ〜っ♪」


「おうルナ、ルナもお疲れさんだったな! さすが俺の娘だ!」



 ルナのユニークスキル【霊獣憑依パンダ・インストール】が解除され、瑠夏とルナの合体が解かれたのだ。

 ひと仕事終えた感を醸し出す愛娘に対し、抱き上げて労いの言葉を掛けるダディ。しかしルナはそんな父親に対してポフポフと、可愛らしい肉球で何事かを伝えようとする。



「ぱんだぱんだぁ〜っ」


「ぱ、パンダってぇーーーーー!!??」


「な、なによなによ!? どうしたのダディ!?」


「びっくりしましたわ……!?」



 ルナの言葉を受けて突然驚きの咆哮を上げるダディ。もちろん瑠夏やカレンディアにはルナの鳴き声の意味までは分からないため、完全に置いてけぼりの状態だ。

 しかしそんな瑠夏達を放置し、ダディはその巨体を小刻みに震わせる。そして――――



「ルナが……! 俺の娘が……ッ!!」


「ちょ!? ルナがどうしたのよ!? 何かマズイことでもあったの!? ダディってば!!」


「ルナちゃんに一体何が……!?」



 挙句そのつぶらな瞳からポロポロと涙を溢れさせるダディ。瑠夏とカレンディアの不安はより掻き立てられ、涙を流し身体を震わせるダディにさらに詰め寄った。



「ルナが……」


「ルナが!?」

「どうしたんですの!?」



 あまりにも深刻そうなその雰囲気に、知らず固唾を飲んでダディの言葉を待ち受ける二人。そんな二人に、ダディは。



「レベルアップして……新たなスキルを開眼しやがった……!!」


「「……………………は???」」





 ◇





「ほんっとにもう! 紛らわしいことすんのやめてよね!? こっちはルナが大変な事になったかと思ってホントに心配したんだから!!」


「だってよぉ……! まだこんなに小っちゃくてラブリーでキュートで大天使な俺の娘が、新たな能力ちからを得たんだぞ!? そりゃパパ嬉しくて泣くって! 塩っぱい汁出るって!!」


「本当に……。何事も無くて良かったですわ」


「ぱんだぁ〜?」



 全員のレベルが上がったので引き返すことにした一行は十階層のチェックポイントまで戻り、ダンジョンの機構である転移の魔法により地上へと舞い戻った。

 そうしてダンジョンの入口付近の小部屋へと転移した瑠夏達は、夕焼けに染まるドーマの街中を歩き、探索者組合への帰路に就いていた。



「そんなことより瑠夏! 早くルナが新たに得たスキルを調べてくれ! お父さんもう気になってしょうがないんだが!?」


「わ、わかったわよ……! もう地上に戻ったことだしね。ルナ、こっち向いて〜」


「ぱんだぁ〜?」



 ソワソワと浮き足立つダディの背の上で、瑠夏は溜息を吐きながらスマートフォンを取り出し、カメラを起動させる。

 カレンディアに抱っこされたルナへとカメラを向け、首を傾げ見上げている娘パンダ――ルナを撮影した。



「やば、メッチャ可愛く撮れたんですけど!? もう一枚! 今度はカレンも入れて撮らせて!」


「ぱんだぁ〜っ♪」


「お、お姉様……!? は、恥ずかしいですわ……」


「いいからいいから! ほら二人とも笑って〜♪」



 画面に表示される〝守護霊獣ルナ〟や〝カレンディア・フォン・アルチェマイド侯爵令嬢〟などの吹き出しには目もくれず、夕陽に映える美少女や子パンダの撮影に夢中になる瑠夏。

 たちまちキャッキャウフフとダディの背中の上で撮影会となり、三人娘達のはしゃぐ声が雑踏へと流れていく――――



「ぬがァー!! パンダコノヤロー! こんちくしょうめぇ!!」


「きゃあああッ!? ちょっとダディ!? 何すんのよビックリするじゃない!」



 しかしかしましくじゃれ合っていた瑠夏達であったが、突然声を上げて路上にダディが座り込んでしまったため、その背中を滑るようにして地面へと転げ落ちる。

 ルナは元々カレンディアが抱いていたため、その彼女を咄嗟の反応で抱きしめ無事に(?)滑り落ちた瑠夏は、当然の如くダディを叱責する。



「パンダちくしょうめ! お前らばっかりルナと写真撮影なんてズルいだろうが!! パパを仲間外れにすんじゃねえ!! いったいパンダこの仕打ちは!!」


「えぇぇ……!? って、しょうがないじゃん!? ダディはあたし達を乗せて歩いてたんだから!」


「パンダとコノヤロー!? はっ!? まさかこれが……世に言う反抗期ってヤツなのか……!?」


「そんなんじゃないってばぁ!?」



 往来の真ん中で、道行く人々の振り返る視線の中で。け者にされ不貞腐れたダディと瑠夏の言い合いがさらに雑踏の目を招き寄せる。

 それはそうだろう。見たこともないパンダが人の言葉を話し、しかもそれと言い争っているのが瑠夏というこれまた珍しい黒髪の、年端もいかない少女なのだから。



「って、そんなことより瑠夏! ルナの新しいスキルはどうしたんだよ!? さっさと教えろい!!」


「わかったわかったからぁ!! えーと、なになに……? 【異空間収納パンダ・ラ・ボックス】? 効果は……うわ、コレってまんまラノベとかで出てくるアイテムボックスじゃん!?」


「まあ!? 【魔法収納アイテムボックス】のスキルだなんて、すごく希少ですわよお姉様!!」


「ぱんだぁ〜っ♪♪」



 ヘソを曲げ地団駄を踏むダディに気圧され、不承不承スマホを操作する瑠夏。ルナの写真に表示される吹き出しをタップし、見慣れないスキルの説明を読み上げる。


 ――――【異空間収納パンダ・ラ・ボックス】とは、瑠夏が言った通りラノベ等ではテンプレートな収納スキルであり、容量無制限で尚且つ時間停止機能まで有した、まさにアイテムボックスのスキルであった。



「……うちの娘が有能すぎて辛い……っ!」


「だからいちいち泣かないのダディ……! でも確かにこのスキルは助かるね! 荷物を持ち歩かなくて済むもんね!」


「だな。試しに使ってみたらどうだ?」


「そうだね。ルナ、【異空間収納パンダ・ラ・ボックス】を使ってみて!」


「ぱんだぁ〜っ!」



 感涙を流すダディの勧めもあり、早速ルナにスキルを行使させてみる瑠夏。

 ルナは気合いの込もった鳴き声を上げるとほのかに光り輝き――――変わらずにカレンディアに抱かれていた。



「……あれ? 何も起こらない……?」


「パンダと!? いやだが、確かにスキルは発動したみたいだが……」



 取り立てて何の変化も起こらない事態に、瑠夏とダディが首を傾げる。



「お、お姉様、ダディ様……?」



 しかしそんな二人におずおずと、何も起こさなかったルナを抱いたままだったカレンディアが声を掛けた。


 何やらルナの背中を凝視し困惑しているカレンディアの様子を訝しみながら、瑠夏とダディも倣うようにして、ルナの背中を覗き込む。


 そこには――――



「じ、ジッパーだね……?」


「ジッパーだな」



 ルナの背中には、中に物を入れられるヌイグルミのような、ジッパーが現れていたのだった。




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