大粛清 四

・エンターテイメント


映画


映画会社の経営者や幹部役員、出資者、プロデューサーなども真罰の対象であった。真罰名"架空の罰"。彼らが制作に関わった映画の中の一登場人物として作品世界に放り込まれる。もちろん主役ではなく、無残に殺害されるキャラクターがほとんどだった。映画が上映、もしくは放送される度に彼らの苦痛は繰り返された。


末端のクリエイターは十分すぎるほどの報酬を受け取ることとなった。報酬に関しては逆ピラミッドの形をなしている。役職があるもの、地位のある者は低く、現場の一クリエイターが最も高い、これは他の業界でも同じである。


アニメーション


日本のアニメは世界一のクオリティを誇っていたが、労働環境が劣悪であり問題になっていた。アニメ制作会社の経営者、幹部役員、テレビ局員、広告代理店の営業マンに至るまで搾取に関わるものすべてが姿形をアニメ調に変えられた。


真罰名"次元の罰"。ペラペラになった彼らは死ぬことはなくなった。だが食べる事も寝る事も出来ず人生に何の楽しみも見いだせなくなった。自殺も出来ない彼らは一刻も早く二次元世界の住人から脱却する為、今も善行を積み続けている。



ゲーム


ユーザーから搾取する事しか考えていないゲームメーカー社長以下幹部役員、納期優先で駄作を連発するゲームプロデューサー及びディレクターは大幅な減棒ならびにその肉体をドットもしくはポリゴン化された。


真罰名"電遊の罰"。見た目が面白いので子供達にはウケたがすぐに苦痛が訪れた。なぜか空腹を感じるのだが何も食べる事が出来ない。眠くなるのだが寝る事が出来ない。子供たちに夢を与え、既存ユーザーが喜ぶものを提供する事でしか肉体のドット・ポリゴン化の解除は出来なかった。


政治家の天下り団体であるGERA(ゲーム・エンターテインメント・レイティング・アソシエーション)の役員たちも真罰を受けた。"永戯えいぎの罰"。1日24時間延々とゲームをし続けなければいけない罰である。勿論途中でやめる事は出来ない。


受罰者はゲームに興味のない者がほとんどだったが、そんな彼らでもプレイをやめようとしなかった。プレイするゲームが極度の中毒性を持つものだったからである。最低限の食事や睡眠は許可されているが、食事中もゲームの中断は出来ず、睡眠中は必ずプレイしているゲームの夢を見る。


受罰者の網膜上部には”ゲームは1日24時間!”のキャッチャコピーがテロップのように繰り返し流され続ける。プレイの邪魔になる為、ストレスがハンパない。


多くの受罰者が耐えきれず途中で自律型植物人間(後述)と化すが、中にはゲームをクリアし最終形態であるゲーム機の姿に変化する者もいる。


このゲーム機"ラムライン"は内臓を思わせる外形デザインが不気味で世界にわずか2台(日本に1台。1台海外に流失との未確認情報あり)しか存在せず、永戯の罰に使用されるゲーム"エスカトロジー5"を唯一プレイ出来るマシンとあって世界中のゲームマニアが手に入れようと血眼になっている。



芸能界


コネと枕営業が横行する色と欲の世界にも真罰の嵐が吹き荒れた。"醜美しゅうびの罰"。顔や体が醜くドロドロと溶けたようになるこの罰は見た目にこだわる芸能人にとってある意味死よりも恐ろしかった。美容整形では肉体を元の状態に戻すことは不可能だった。


大手芸能事務所やプロダクションなどタレントを搾取し支配する会社は強制的に閉鎖され関係者は”欲亡よくぼうの罰”を受けた。体の肥大化が止まらず遂には破裂するという罰である。破裂後はまた散らばった肉片が集合し、再生され同じ事が繰り返される。回数は罪の深さによって違った。


業界としてはアメリカと同じくエージェント制度が導入され主流になる。キャスティングに関してもコネや伝手での採用は一切禁止されオーディションによる厳正な採用が義務付けられた。



・賭博


宝くじ

発行元が売り上げの5割を搾取するシステムを修正、売上の2割を発行元が運営費に充てる事が許された。残り2割が慈善団体に寄付、6割が当選金として購入者に還元された。


パチンコ

パチンコ屋自体の数が激減された。そして利益を貪るパチンコ屋経営者の多くが真罰"銀玉の罰"を受けた。銀玉の罰とは一日一回銀の球を口から大量に吐き出す罰である。嘔吐の苦しみは筆舌に尽くす苦痛であり、その苦痛から逃れる為自殺を図った者もいた。



・その他


産業廃棄


悪質な産廃業者も当然真罰の対象になった。”人廃じんはいの罰”。産業廃棄物を放棄された場所に肉体を埋められる。だんだんと肉体は腐り朽ち果てていく。その苦しみは筆舌に値した。死を迎える手前で肉体は再生され罰は繰り返された。


・犯罪


犯罪者に下される真罰は基本的に"三倍返さんばいへん"と呼ばれるものである。文字通り被害者が受けた苦痛の三倍の苦痛が加害者に与えられる。犯した犯罪によって真罰の内容は変化する。


犯罪者の顔面には犯した犯罪名が刺青のように記される。例えば強姦魔であれば顔面全体に"私は強姦魔です"という文言がくっきり浮き上がる。消す事はおろか隠すことも出来なかった。だが私利私欲の為に犯したものでない一部の犯罪行為には適用されない。


殺人

被害者が殺害される実体験を被害者になりきり仮想体験させられる。一人殺害すれば三回殺害される体験を繰り返す。その後、”変化へんげの罰”という真罰を与えられその姿を醜い生き物に変えられ、いずこかへ飛ばされる。


強姦

男性の加害者の場合、一週間かけて段々とペニスが老化していき最後は腐り落ちる"陰茎の罰"が下された。その後レイプされた被害者の体験を仮想体験させられる。強姦に関しては三倍返ではなく九倍返が適用された。


窃盗

何かを盗むときき手が消失する。次に盗むと残った手が消失する。さらに盗むと内臓が消失していく。真罰名"盗失とうしつの罰"


横領

体が硬貨と同じ素材の青銅や亜鉛になる真罰"貨弊の罰"が下された。食事は鉄くずしか受け付けず、最後には硬貨そのものに変化し人間の意識を保ったまま市場に流通する。


詐欺

口と肛門が入れ替わる真罰"喋黙ちょうもくの罰"が下された。当然何もしゃべる事が出来ない。口から排泄物を日常的に排出する行為は人類史上初めての試みであったが当人にとっては地獄の苦しみにしか過ぎなかった。

達成感など微塵も感じる事はなくただただ気持ち悪かった。

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