第一の宴

浄化

1999年。

ノストラダムスの大予言によれば、恐怖の大王が降臨すると言われている年。

第三次世界大戦の勃発がささやかれている年。それは突然に表れた。

いや、突然というには語弊があるかもしれない。確かに予兆はあった。


人々が心の奥底に無理やり押し込めた言い知れぬ不安。

とてつもない何かが起こるはずだという直感。


人類史上に残るであろう大事件が発生した。

神の降臨である。日本時間にして9月29日13時45分。

神はその姿を見せず、全世界の人々の心に向け精神感応(テレパシー)で語り掛けた。

「みなさんこんにちは。私は神です」


世界中の空に壮大なオーロラが出現していた。多彩な色の光のカーテンがたなびく。通常、オーロラは北極もしくは南極にしかその姿を見せはしない。色も2、3色程度だ。


だが、世界中に現れたオーロラは12色を有していた。ありえない光景が神の実在証明を示しているのか。


神は全世界の人々の心に向け表明を発する。


「私がなぜ今地球に降臨したのか?それはこの世界がもはや終焉を迎えそうだからです。膨らんだ人々の悪意はもはや限界に達しており、このままでは破滅は免れない。大いなる力を持った第三者の介入が不可欠なのです。残念ながらあなた方人間を創造した神ははるか彼方へと去ってしまいました。ですので彼の友である私が代わりに降臨したのです」


聞く者の年代によって声の調子は変化していた。

神の言葉は各国それぞれの言語に翻訳され各々の心に届けられた。

英語圏の国では地域によって微妙にイントネーションが違っているが、神はすべての地域に対応させた言語変換を行っていた。その術はまさに神の業を感じさせる。


大国の軍関係者の一部はこれは神の声と偽った新種の音波兵器ではないかという疑いを持った。


だが世界中の人間の心に同時に語り掛ける装置など一体どうやって開発するのか?合理的な説明がつかずただ沈黙するしかなかった。

人々は周りにいる者たちと顔を見合わせ驚愕し神の声を聞くことしか出来ない。


「とりあえず私の呼称ですが、"神"だとあなた方を創造した神と混同しやすい。皆さん私をどう呼びたいですか?心に思い描いてください」

少しの間、神は沈黙し再び心の声を放った。


「、、、"真神しんじん"ですか、、、いいでしょう。真神という呼称を思い浮かべた人々の気持ちの強さが最も強かったので真神を採用致しますね」

まるで企業の人事担当者のような口ぶりで真神は事も無げに言った。


「私は人間世界の浄化を行いたいと思っております。いわば治療です。出来れば全世界同時に治療を行いたいのですが、、、まずは日本に注力させてください」



なぜ日本なのか?多くの人々の脳裏に当たり前の疑問が浮かんだが真神は意に介さず言葉を続けた。

「危険な独裁国家に関しては早急の介入が必要ですから、既に対処はしておきました」


世界に存在するいくつかの独裁国家の指導者及び幹部連中は既に真神の罰を受けていた。後に"石化の罰"と言われる最高レベルに分類される真罰であった。


「アメリカ、ロシア、中国の三大国についてですが、完全なる浄化には時間がかかりそうなのでこちらも取り急ぎ三国の軍や警察、及び反社会的勢力が所持している武器や兵器の無効化だけ済ませておきます」


三国に点在するマフィアやストリートギャング、カルテル等の反社会的勢力及び犯罪者が所持している全ての重火器類、警察や軍が管理している武器や陸、海、空、全ての攻撃兵器が一瞬で無効化された。一切作動しなくなったのだ。だが以外にも誰も慌てたりはしなかった。ただただあっけに取られていた。


「最初の浄化に日本を選んだ理由を知りたがっている方が多いのでお答えします。ただ単にランダムに選択しただけです。どうぞお気になさらずに。他の国々にもいずれ介入いたしますので」


人類を創造した神に成り代わり、新たなる神が病みきった世界への対症療法を行おうとしていた。世界中の国々が日本に注視する中、それは行われた。日本国民の多くが不安に感じる中、真神が毅然とした態度を感じさせる話し方で前代未聞のイベントの開始を宣言した。


「それでは浄化を開始します」

 

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