プロローグ

”かの者”は偽りの母なる大地に佇んでいた。

かつて地球と呼称されていた星の大地。

人類が求めてやまなかった真の静寂。


様々な文明が栄えては滅んだ。

それでも人間は生存本能という名の強固な鎖に縛られつつも日々の生活を謳歌していた。とてつもなく残酷で、ありえない程不条理な世界。

物凄く醜くて、素晴らしく美しい世界。

矛盾と欺瞞だらけの世界。


だが世界は今、変貌している。

大小の瓦礫がまるで出来の悪いオブジェのように並ぶただの荒廃した世界に。

漆黒というに相応しいであろう暗黒に彩られた空。

そこにはまるで月を従えているかのような巨大な星が静止したままその異様な姿をさらけ出している。

禍々しい波動を常に発散しているその星の地表はまるでおどろおどろしい髑髏のようにも見えた。

その様相はまさに凶星と呼ぶにふさわしいものだった。


地球という星の覇者として君臨した人類は滅亡した。

厳密に言えば滅亡一歩手前といったところだろうか。

残されしただ一人の人間である”かの者”だけが生存していたからだ。

だが地球最後の人間である”かの者”ももうすぐその生涯を終えようとしていた。

”かの者”は哀しみと切なさを等分に混ぜ合わせたような複雑な表情で荒廃した大地にただ佇みつづける。

まるで何かが起こるのを待っているかのように。


その時、巨大な異形の生物が遠方から姿を現した。

身の丈200mを超えるであろう超巨大な生物であった。

その見た目はどことなく人間の面影を感じさせる部分もあったが、半身が悪魔、もう半身が天使を思わせる見た目は異様過ぎた。


異形の生物は"かの者"にゆっくりと近づいていく。

だがその足並みは不思議と重量を感じさせない。

地鳴りすらしなかった。

”かの者”は恐れる事なく異形の生物からひと時も目を逸らさずにジッと見つめている。

不思議な事に異形の生物が”かの者”に近づくにつれその姿が徐々に小さくなっていく。

そして”かの者”の前に立つ頃には人間と変わらぬ背丈になっていた。


異形の生物は地上に残されし最後の人間に対し言葉のようなものを発した。

それは人間には到底理解出来そうにない未知の言語を思わせた。

だが”かの者”はしっかりと理解し返事を返す。

「、、、、、、、ありがとう」

そう呟いた途端、”かの者”の体が眩い閃光に包まれた。

”かの者”は遂に人間としての生涯を終えようとしていた。

閃光に同調するかのようにまるで何かの哭き声のようなかん高い超音波が遥か頭上の凶星から放たれる。


約束の時、神にアップグレードする儀式の訪れ。

”かの者”は人としての最後の務めを果たすかのように、絞り出すように感情を込めたメッセージを口にした。

まるで己に対して言い聞かせるように。


「次こそは、、、幸せな、、、世界を、、、真の、、、宗教を、、、」

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