第7話 人生初デート
土曜日の朝になっちゃんのアパートに迎えに行った。
なっちゃんは普通のアパートの3階に住んでいた。1階にはオートロックはなかったのでそのまま3階に上がっていく、なっちゃんの部屋に鍵は2つあり普通の鍵と電子カードの二つが無いと開かないようになっていた。
通路側の窓には頑丈な格子がついていて防犯対策はバッチリな部屋だ。
ピンポーン
「はーい」
「おっはよー」
「しおりーん。今日の服もかわいーね」
私はトップスが黒のニットにボトムはライトブラウンのフレアロングスカート。アウターはノーカラーのベージュウールコートだった。靴はエナメル素材の黒ブーツ。地味目だが無難にまとめて出かけてきた。
「なっちゃんは何着ていくの?」
「私はこれー!」
ブラウンのUネックニットに、ボトムスにラフなヴィンテージ風のデニム、アウターはオーバーサイズのブラウンチェックショートコート。茶のブーツを合わせている。バックはベージュ色のレザーポーチを持っている。元気な感じで薄い茶色の髪に凄くあっている。
私達は、まるで姉妹の様にカラーを合わせて買い物に出かけるのだった。
なっちゃんと電車に乗り好きなショップのある駅で降りた。ビル街に入るとビル風が吹き抜けてちょっと寒かった。
「でさ、なっちゃん!私はどこに行けばいいの?」
「シュシュランナに行こう」
「ああ。下着の専門ショップだ。」
「いーっぱいの中から選ばないとね。」
「わかった!じゃあさっそく!」
「まあしおりさん・・慌てなさんな。まずはカフェに行こうよ」
「そ・・そうだね。もっといろいろ相談したい事あるし。」
二人はチェーン店カフェに入った。午前中ということで店内には人がまばらで、ゆったりと話せそうだった。二人でカウンターで飲み物を頼みテーブル席に座る。
「でさ、しおりんはどうしたいの?」
「ど、どうって。普通に・・」
「普通ってなによ」
なっちゃんが笑いながら言う。
「普通にデート出来たらうれしいけど、唯人君の話ってなんなんだろう・・」
「そうよねー。話って改めて言われるとかしこまっちゃうよね。」
「うん、遊ぼう!の方が気楽だったかも。」
「でも真面目な唯人君らしい誘い方で良いんじゃない?」
「でも私なんかでいいんだろうか・・」
「しおりん!なーにいってんのよ!一般的にいったらしおりんは86点いや・・92点くらいの女よ!」
「92点ももらえんの?じゃあなっちゃんは95点じゃん!」
「はぁ?美的感覚どうなってんのよ。私はせいぜい79点よ。」
「びみょー!そんなことないよ!」
二人で不毛な点数付けを始めたりした。
「話かあ・・きっとキャンプの時の話じゃないかなあ。」
「そうだよね。彼が事件現場にしおりんと一緒にいたしね・・それかサークルに戻る戻らないとか?」
「あーありえるわぁ・・」
「そうなったらどーするの?」
「正直言うと行きたくない。」
「だよねー。しおりんの思った通りで良いと思うけどね。」
話しているうちにだんだんと気分が落ちてきた。
「あー!なっちゃん!私の代わりに唯人君に会いに行ってきて!」
「あんたちょっと何言ってんのよ!」
「だって怖いんだもん」
「当たって砕けろよ。誘ってきたのあっちだしきっと悪い事はなさそうだけど・・」
「そうかな?だよね?」
二人は1時間ほど会話した。だんだんと全く違う話になって楽しいティータイムをすごしてしまった。
「しおりん。じゃあ行こうか?」
「そうするー」
カフェを出て繁華街の方に向かって歩く、人通りも多くなりすれ違うのも大変なくらいだった。
「ここだよ」
「うわあ、かわいい。」
下着ショップは白基調の壁に薄ピンク、アルファベットでshushu lannaと書いてある。早速店頭のディスプレイにはおしゃれな下着が上下で飾ってあった。
「さてとーしおりんさん!選びますか?」
「うん」
二人でショップの中に入り店内を物色し始める。あれが可愛いこれが可愛いとはしゃいでいた。
「わたし勝負下着を買いに来たんだったっけね・・」
「どれにすんの?」
「勝負下着とか言われてもなあ。こ・・これかなぁ?」
私が手に取ったのは、前が総レースのスケスケで腰が紐になっている真っ赤なTバックだった。
「あ・・あんたはおっさんかい!!しおりん!そんなのはいてったら唯人君ドン引きだよ。」
「えっ!そうか!そうだよね!」
顔が赤くなる。だって勝負下着っていうから・・こういうのじゃないの?
「しおりん!もっとあざとく、かわいいながらもセクシーさを醸し出したものはこうよ!きっとさ唯人君もそういうことには慣れていないだろうから、薄いピンクとかパープルとか色はそういうのにして、デザインはいかにも可愛い!ってのを選ぼうよ。」
「あ、あう・・わかりました。」
そして二人であーでもねえこーでもねえといいながら、選んだのは脇の一部がレース使いになった薄いピンクのブラとショーツだ。上下で9500円もする、私の下着購入歴からしても一番高い下着だ。
「ああ・・買っちゃった。」
「しおりん、これで万が一の時は大丈夫だね。それを披露するところまでいったら大したもんだ。でも備えあれば憂いなしってだけだから!しょっぱなから期待しすぎないようにね。」
「もちろん!わかってるよ。万が一だから・・たぶんそんなことにならないだろうし、きっとなるとしても先の話だし・・」
「そうそう!とにかく準備はできた。」
「よし!いくぞ!」
「しおりんからがっつく事の無いようにね!まあないとは思うけど・・。あくまでも自然にあざと可愛さをみせて、明日は袖の長いニットで行こう!今日みたいなシックな格好にしないでね!あ・・これからしおりん家いってコーデ決めしようよ。」
「お前は私の姉さんかい!」
「おのれが浮足立ってるからじゃろがい!!」
「「うふふふふふ」」
二人で私の家に向かうのだった。
そして・・唯人君と会う日が来た。
駅の改札は人でごった返していた。
とにかく先に待っていようと思って早めに出てきた。
今日の格好はデコルテを強調したオフショルダーのオーバーサイズの萌え袖感があるオフホワイトのニット。ボトムスはライトピンクのプリーツスカートと黒のブーツ、グレーのスカーフストールをアウターとして着てきた。ボトムに合わせたピンクのバックを持ってきている。
なっちゃんと話した結果、めっちゃくちゃあざと可愛いコーデになってしまった。
「しおりん!これでバッチリだよ!私でもクラクラくるわ」
「い・・行けるかな?良い?」
「良いなんてもんじゃない。これ以上のコーデは思いつかねえ・・」
「わ、わかった!これで行く!」
・・なっちゃん絶賛だしきっとうまくいく、どうしようだんだん緊張してきた。
今日は天気が良かった。
でもぬけるように天気が良かったので朝はちょっと冷えた。
ファッションは気合いだ!寒くても我慢するしかない!
と気合を入れてこの格好で来たのだった。
木枯らしのふくなかを足早に約束のカフェに向かう。ショップのガラスに映った自分のスタイルを気にしながら歩いて行く。
信号待ちをしていると斜め後ろから声をかけられる。
「おねえさん!ねぇねぇ・・」
《また・・ナンパだ。しかしこんなことはもう慣れている、足早にスルーして歩いて行く。》
ひとりで歩いていると声をかけられることが多かった。しかしいつもスルーしている、ナンパしてくる男なんてろくな人はいないと思う。
待ち合わせた約束のカフェについて席に座った。
すると白のワイシャツと黒のパンツをはいた女性の店員さんが水を持ってくる。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「あのアールグレイをホットで」
「少々お待ちください」
時計を見るとなんと50分前だった。ちょっと早すぎたかもしれないが気持ちを落ち着かせるにはこのくらいでいい。
スマホでなっちゃんと連絡を取る。
-なっちゃんお店に来たよ
ついた?まだ彼はきてないよね?-
-うんまだ来ていない。
まあ、落ち着いて息を吸い込んで-
-わかった。落ち着いてる。
寝れた?-
-一応は。
目の下にクマなんて作ってないよね-
-だ!大丈夫コンシーラーとファンデで消してる
やっぱ・・寝れなかったんだ-
-だって仕方ないよ!
そうだよね。でも化粧で隠しちゃえばバッチリだよ-
-ありがとう!とにかく落ち着いて話すようにするよ。
とにかく冷静にがっつかないように-
-了解!
SNSで話しているうちにアールグレイティーが出てきた。
「ありがとうございます。」
まずはお茶に息を吹きかけて少し冷ましながら口をつける。
《おいしい・・おちつくわー》
まずは彼の話を聞かなきゃね?-
-うん!きっと大丈夫。
ファイト!-
-おー!
SNSでのやり取りを終わらせてコンパクトの鏡をみる。
よし!問題ない!
今日は軽く香水もふってきた。クラエのオードパルファム、ローズの香りをほんのちょっとだけつけてきた。
「あー緊張する。」
とにかく落ち着かせようと目をつぶって下を向いていたら声をかけられる。
「栞ちゃん!もう来てたんだ?」
早!!!
「あ、唯人君!おはよう!」
びっくりして立ち上がった。
「俺、少しでも早く来ようと思ったんだけど、栞ちゃんの方が早かったんだね。」
「ちょっとだけ・・たまたま早くついちゃったみたいな。」
「ふふ!そうなんだ。」
唯人君は対面の椅子に座った。唯人君はどちらかというと可愛い系の男の子だった。コートを脱いだらざっくりニットにゆったり目のデニムパンツをラフにはいている。
正直とても可愛い恰好だった。茶色の短髪に凄く似合っていた。
「あ、俺も何か頼もう。すいません!」
「いらっしゃいませ。」
「あの俺も同じもの下さい。」
「かしこまりました。」
そしてお茶が出てくるまで二人で話す事にする。
しかし・・唯人君はなかなか話出さなかった。
《えっと・・どうしよう・・唯人君も緊張してる?》
どうやって会話をきりだそうか迷っているような感じだった。
「「えっと」」
二人の声がそろってしまった。二人同時に声を詰まらせる。
「ああの唯人君どうぞ」
「いや栞ちゃん何かある?」
「あ、話って何ですか?」
「ど・・どうして敬語?」
「そう、そうね。変よね。」
《私!ガチガチじゃねーか!どうすんだよ!これ!》
「あの栞ちゃんは・・サークルには戻らないんだよね?」
「うん。なんか気まずくて行けなくなっちゃって。」
「そうなんだ。実はさ・・俺も辞めちゃったんだ。」
「え!そうなんだ!唯人君も!?」
「うん、栞ちゃんがいなくなってなんだかつまらなくなっちゃってね。」
えー!私がいなくなってつまらなくなった?どういうこと?
「私のせい・・ごめんなさい!」
「いやいや!栞ちゃんのせいじゃないよ!あの合宿であんなことあったから。」
「うん。」
「それで俺もなんだか栞ちゃんと疎遠になっちゃったなって・・ずっと気になっちゃってさ。」
《きた!なっちゃん来たよ!間違いなくこれは!たぶん間違いないよ!》
「それでわざわざ話をしに?」
「う、うん。なんだかテニスサークルの時と違って、今日の雰囲気がすっごく女の子っぽいから緊張しちゃってるよ。」
「私も緊張してたりします。」
「だから!なんで敬語?」
「「ふふ」」
「「あははははは」」
なんか二人で吹き出してしまった。
「お待たせいたしました。アールグレイです。」
「あの・・栞ちゃん。甘い物食べない?」
「食べる!」
「じゃあこの生クリームたっぷりのシフォンケーキなんかどう?」
「食べる―!!」
店員さんは、微笑ましく二人をみて注文を取っていった。
《よし!第一関門は突破したはず!》
私は心の中でガッツポーズをとっていた。
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