第3話 友達とサークルに
実家からの仕送りを開けてみると、10キロのお米とレトルト食品が2セット、チャーハンの素とインスタント味噌汁、調味料やマヨネーズ、チョコレートなどのお菓子が適当に入っていた。
詰め替えのシャンプーとコンディショナーも入れてある。
お米は地元のミルキーヒカリだった。やはりお米は地元産が一番美味しいと思う。
「お母さんったら。」
父は税理士の仕事をしていて、母は私が大学に出るのと同時にパートに出ていた。
私が一人暮らしで家を出たため、家族の面倒をみることがなくなり父が帰るまでの時間をもてあました結果…介護専門の人材派遣会社のパートの事務で働き始めた。朝9時から3時までの仕事で週4日が丁度いいらしい。父は母が働くのを反対したが、母はそれをおして働きに出た。
父の稼ぎだけでも十分なのだが、母はせわしなく働いていたい人なのだ。
《私もその血を受け継いでいるのか、十分な仕送りをもらっているのにバイトしてるけど》
母の給料は母が自由に使えるので、私への仕送りが趣味みたいな感じだった。いきなりお母さんの名前でネットショップから服が届いたりする。今着ているジェラルタピクの部屋着も、母からの贈りものだった。
「あ。」
母の手紙が入っていた。
ー栞へー
あなたの事だからきちんと食べていると思うけど、買い物も大変だろうから食べ物を送りました。あとお気に入りのシャンプーとコンディショナーも入れておきましたよ。ではお正月に帰ってくるのを楽しみにしています。
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簡単な内容だった。いつもSNSで連絡とってるから特に手紙なんていらないような気もするが、心がこもっている感じがして温かかった。
「とりあえずご飯作るか。」
仕送りの食べ物をしまい込んでダンボールをたたみ、ご飯の支度をはじめる。お米はまだ前のが1キロくらいあるが虫のつかない米びつを買ってよかった。10キロ食べるのに何ヶ月かかる。
「また、お米買ってもらっちゃったな。」
とりあえず前のお米を食べ終わったら今回のお米を入れようと思う。お米はいつも夕方に2合炊いて残った物をフリーズ室に入れ、次の日の朝食にレンチンして納豆とお味噌汁やコンビニで買ったサラダと一緒に食べるようにしている。
お米をといで炊飯器のスイッチを押した。
ピッ
部屋に戻ってスマホを触ると SNSに通知が来ていた。
大学の友達のなっちゃんからだった。
ーしおりん今どこ?
家ー
ーくつろぎタイム?
そっー
ー行っていい?
いいよー
ーじゃ行くね
ご飯食べた?ー
ーまだ
じゃ一緒に食おうぜ!ー
ーわーい
まってるよん!愛しのなっちゃんー
ーわかったよハニー
SNSのやりとりを終えてなっちゃんを待つ事にする。なっちゃんとは入学からの友達で1番の仲良しだった。名前は真中夏希。わたしと同い年のピチピチの女子大生だ。
「じゃあなに作ろっかな?」
私はそれほど料理が得意ではなかったが、一人暮らしをはじめて少しは上達した。ありきたりな料理しか作れないけど、せっかく友達がくるし・・
冷蔵庫の中を見ると鶏肉が置いてあった。
「鶏肉かあ・・じゃあ。」
野菜室を見ると玉葱とネギ、ピーマンと、プチトマトが入っている。
「よし!決まり!」
野菜室から玉葱とピーマンを取り出して刻み始める。それをフライパンで炒めいったん皿にとりだした。次は鳥のささみを細かく刻んでフライパンで炒め塩コショウで軽く味をつけておく。火が通ったのでコンロのつまみをひねりガスを止める。
「なっちゃん来るまで待つか・・」
しばらくスマホでパズルゲームをしていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
「はーい。」
「しおりん!来たよ」
「入ってー」
一階のドアロックを開けてあげてから、なっちゃんが部屋にあがってくるまで玉葱とピーマンを温め始める。
ピンポーン
部屋のインターホンがなった。
ガチャ
「どうぞどうぞ!」
「おじゃましまーす。」
「部屋で待ってて。」
なっちゃんがコートを脱ぐ。
だいぶ元気な格好をしていた。セクシーなんだけどいやらしくない。黒に白ロゴの入ったゆったりシャツと、ダメージデニムパンツをはいていた。腰のあたりが透けて見えるので、中は紐パンをはいてるんだと思う。
「なっちゃんーずいぶんセクシーやね?」
「そっかい?」
「何飲む?ミルクティーか麦茶だけど。」
「あ、わたし買ってきたよ!無糖紅茶!」
「あ、飲む―!」
なっちゃんは無糖紅茶2リットルと、クリームブリュレを二つ買ってきてくれた。
「これ好きー!」
「でしょでしょ。」
なっちゃんに買ってきてもらったクリームブリュレを冷蔵庫にしまう。
「なっちゃん座っててよ。」
「はーい。」
なっちゃんを部屋で待たせて手早く料理を作っていく。
「よし・・あとはケチャップでハートを描いてと。コンソメスープをそそいで・・」
よし!
ガラリと部屋のドアを開けて料理を運ぶ。
「お待たせ―!」
「うわぁ!おいしそう!ハートマークのオムライスじゃん!」
「特製の愛情入りよ。」
「しおりん・・俺に惚れてるな。」
「なっちゃん好きー♪」
女子大生ふたりの馬鹿会話が続く・・
「いただきます。」
「どうぞ!」
「んーおいしい。」
「よかったー!」
ふたりでオムライスを食べながらいろんな話をした。そして以前、私の身に降りかかった事の話になる。
「それよりさあ、しおりん大丈夫なん?」
「なにがよ。」
「あのこと・・」
「ああ、あれなー。」
それは少し前・・今から数ヶ月前の出来事だった・・
私は入学してまもなく夏希と一緒に軟式テニスサークルに勧誘され興味本位で入った。
高校の頃は進学校で部活はしていなかったのだが、軟式テニスサークルは初心者でも出来るという謳い文句を聞いて入ったのだった。
《今思えば、どんなスポーツも初心者から始めるんだけどね。》
サークルはみんな趣味程度にやる子たちばかりで、私たちも多分に漏れず緩くやっていた。男女混合のサークルで上手な人は大会に出たりもしていたが、部長は緩く参加している私達を盛り上げるため頑張っていた。
ある日、私達は学校の敷地内にあるテニスコートにいた。6面あるうちの2面を使って練習していたのだった。
「君たちは筋がいい!これから頑張って一緒に大会に出ようよ!」
「ま、まあ頑張ります。」
2人で基礎を教わっていくところからはじまった。
「と、まあ基礎はこんな感じかな?」
3年生の女子先輩からルールや基礎を聞いた私達が、早速素振りなどから初めてみる。
「じゃあコートに出てやってみようか?」」
「はい。」
とにかくうまくサーブが打てるかな?
「えい!」
スカッ!
思いっきり空振ってしまった。
「ハハハ。」
コートの外で誰かが笑った。
《だってしょうがないじゃない…初心者なんだから》
「笑うなよ!栞ちゃんは球技初心者なんだぞ!」
言ってくれたのは3年の男子の先輩で畑山陽治先輩だった。茶髪のイケメンで女子部員に人気の先輩であった。
でも正直そんなに怒る事じゃない。
「いやまさかあんなに見当違いのところ打つなんて、球からかなり離れてたから…つい笑っちゃったのよ悪気はないわ。長尾さんごめんね。」
「はい。気にしてません。」
2年生なのに3年生の畑山陽治先輩にタメ口をきいているのは、川村みなみ先輩だった。
「まあまあ、楽しくやろうじゃないか!」
仲裁したのは部長の3年生高田健先輩だった。
まあ私もそれほど気にしているわけでもないし、まあ初心者なのは事実なのでどうでも良かった。
「しおりんはそれほど気にしては・・・」
なっちゃんがフォローを入れる。そう!そのとおり!イグザクトリー!それほど気にしてないんです。おおごとにしないでほしい。
「ははっ・・」
「いや、健!そこは簡単に流すとこじゃないぞ!」
・・ながすとこです・・
「いえ・・」
陽治先輩が食い下がるが正直やめてほしい。どうでもいいことで私の傷口がなんか広がっていく。
「なんでそんなことで噛みつくの?うーん気分じゃないわ。今日は帰るわね。」
みなみ先輩がさらりと帰ってしまった。
「陽治せんぱーい。早く練習しましょうよー」
すると隣から2年の音無公佳(おとなしきみか)先輩が言う。
「よし、やろうやろう。」
健先輩が皆をうながした。
「しおりんどーする?」
もちろんこのどーするは、続ける?辞める?のどーするだった。
「まあ来たばかりだし別に私は気にしてないよ。ほんっとどうでもいいし。なっちゃんがいいならやってかない?」
「いいよー。やろやろ!」
結局練習には参加した。今日参加したのは11人だったが、部員は20人いるらしい。
1年はまだ私たち2人だけだそうだ。
その日は簡単な基礎練で終わった。
それからは週一で練習があったが、上手い人達は毎日自主練してるようだった。大会に出れそうな実力者は、高田健先輩と川村みなみ先輩とあと2人くらいいた。
私となっちゃんはそんなレベルには達していなかったけど、友達と一緒に汗を流すのは楽しかった。
「しおりん、いっくよー!」
「はーい。」
パコン
パコン
パコン
スカッ
空振り・・
「あー!」
でも私はラリーが続くようになってきてうれしかった。
「うまくなってきたわね!」
最初わたしを笑った、みなみ先輩が声をかけてきた。
「いいえ、まだまだです。」
「初心者にしては上達がはやいわ。」
と言ってニコっと微笑んでくれた。川村先輩は綺麗なひとだった。日焼けも気にしないスポーツマンという感じで好感がもてる。
「おい川村、また長尾に絡んでるんじゃないだろうな?」
陽治先輩がまた声をかけてきた。今度は私がはっきり言おう。
「いえ、褒められていたところですよ。」
「そ・・そうか。ならいいんだが何かあったら俺に相談してくれよ。」
「はい何かあればご相談させてください!」
「おう。」
陽治先輩はそう言ってまた練習に戻っていった。するとその後から私に声をかけてきた人がいた。
「あら?陽治先輩となにを話していたの?」
公佳先輩だった。いつも2年の女子たちと一緒にいたが、みなみ先輩とはあまり仲は良くないようだった。
「私がみなみ先輩に褒められたという話です。」
「あ、そうなんだ。ふーん。」
「あ。じゃ私、練習しますね。なっちゃんお願い!」
「あいよー!」
そんなやり取りをして、なっちゃんと一緒に別のコートに移った。正直先輩のいざこざに巻き込まれるのはウザい。なっちゃんと楽しくテニスできればよかった。
そういえば最近もう一人男子の1年生が入ってきた。
「よかったら一緒にやろう?」
なっちゃんが声をかけると、嬉しそうに答える。
「ぜひ!」
彼は同い年、1年生の上原唯人君だ。ちょっと繊細な感じの男の子だけど、結構運動に自信があるみたいでテニスが上手だった。
それからは、私となっちゃんは彼にテニスを教えてもらうことが多くなった。
そしてある日サークルの練習に行った時だった。
部室は夏の合宿の話で持ち切りだった。今年はなんとに那〇高原に行くらしかった。
「なっちゃん、那〇高原だって!」
「楽しそう!しおりん行こうよ!」
「だね!」
ふたりは即決で参加を決定したのだった。
大学生活を充実したものにできると思って、私となっちゃんはめっちゃ盛り上がるのだった。
そのときはあんな事になると思わずに・・
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