魔女のさがしもの
りん
プロローグ.魔女の旅立ち
「ラーリア、この家に疫病神などいらぬ。よってお前とは、これより全ての縁を切る。二度と戻ってくれるなよ」
「——かしこまりました、お父様」
そうして、ラーリアは生家を追い出された。16になる前日のことだった。せめてもの情けとばかりに渡された路銀を少しずつ使いながら、気の向くまま南の方へ向かうことにする。
本音を言えばラーリアは、こんな寒すぎる領地に住み続けるのは勘弁だと思っていた。両親や兄弟に対しても、同居人以上の特別な感情を抱いたことはない。
(そう思えば、むしろ今のほうが楽しいかもしれない)
それに、生まれたときから嫌われていたとはいえ、家名に恥じないようにと教育や教養は十分だし、魔女としての魔法や薬学の素養も教師のお墨付きだ。この世界で魔法が使える人は少数派だから、それだけで職には困らない。
『女神の堕とし子』でさえ無ければ、むしろラーリアは出来の良い子として連れ回されたに違いない。
そんな窮屈な日々はやっぱり御免だものと思いながら、ラーリアは夕食に使うキノコをせっせと摘みあげるのだった。
(あ、兎)
白い耳が茂みでぴょこんと動く。
それを見たとき、ラーリアは考えるより先に魔法を放っていた。貴族令嬢として過ごしてきたため命を奪うのは初めてだったが、手元は震えることもなく、目は現実から逸らすことなく、倒れた兎を手に取った。
綺麗に急所を貫いている。
肉として鍋に入れるか、売って路銀にするか、そう考えたところで、ふとラーリアの手が止まった。
「......私、兎の急所なんてどこで知ったのかしら」
急所だけじゃない、魔法の威力や、そのタイミング——何より、食べるために命を刈り取るその行為そのものへの躊躇のなさが、まるで狩りを日課にしているかのように自然だった。
「......これも、『それ』を探し出せば分かるかしらね」
ラーリアが、物心ついたときから探しているもの。何を、いつから、どうして探しているのか。いくら考えても未だに何も分からないが、『それ』を探していることだけは確かで。
「そうね。どうせなら、さがしものの旅ってことにしましょう」
そうひとり決めると、兎を売るため、ラーリアは町の方へ山を下っていく。
——これは、家を追い出されたひとりの魔女が、猫のように気ままに、『それ』をさがす旅路の話。
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