仮初の笑顔

クロノパーカー

仮初の笑顔

いつも俺は本当の自分を誰かに見せることはなかった。

最後に本当の自分を見せたのはいつだっただろうか。

俺の家は長男に厳しい家系であり幼い頃から親父に怯えていた。

集合の10分前待機、言葉遣い、成績も上位、愛想も良くなければならない為ずっと笑顔でいなければならなかった。

うちは比較的裕福な家だ。本当は我儘を言いたい、甘えたい、まだ幼かった俺はそんな事を考えていた。

だが、今はそんな思考は捨て自分で道を切り開く、それを信念に生きていた。

そのおかげで大抵の事は一人で出来るようになった。

俺は小学六年の頃にようやく心を許せる友達というものが出来た。

伊波真式いなみましき。こいつはみんなが知っている俺が偽物であるということを見抜いて本来の自分を認めてくれた。

しかし今は高校生。真式は俺よりも知能はなかった。そのためお互いに離れてしまった。また俺は一人に…そんなことはなかった。真式との関わりで少なからず他人との関係の深め方を学んだようだ。

高校では輝朝結朔てるあさけっさくという関われるやつが出来た。ほかにもよく関わる友はできた。だが、そいつらに見せている自分は少なからず偽物の俺がいるのだ。

そいつらと関わっていても親からの厳しい教育は続いている。反抗をしても俺に勝ち目はない。


「結朔、今日の数学の小テストってどこが範囲だっけ?」

「三角比だな。お前は勉強したか?」

「してないな。範囲が分からなかったからな」

「そう言って満点取ってくるんだろ」

「基本的に授業さえ真面目に聞いていればなんとかなっている」

「まぁそんなもんだよな、小テストって」

外ではこんな一般的な高校生。しかし家にいる時は…

「功次、少し前に定期テストがあったようだが結果はどうだ」

「こんな感じ。お父さん」

俺はテスト結果の表を見せた。二年生では文系を選択している。どちらかというと文系よりだったからだ。そうして親父は結果を見て俺に返した言葉は

「まずまずだな。文系を選択したなら現代国語と古典では満点を取らねばならない。だがお前は両方とも九十五点しか取れていない。やる気はあるのか?」

そんな厳しい言葉が返ってきた。何故だ。平均点は四十五点だ。充分取れているではないか。

「やる気はある。今回のテストは平均点の通り難しかった。だから満点が取れなかったんだ」

今はタメ口で話しても怒られることは減ったが昔はずっと敬語だった。友達との話し方の違いに違和感を持っていた。

「関係ない。難易度がどうであれ得意分野では満点が普通だ。もっと努力をするんだ。数学などの苦手分野でも九割だ、分かったな」

「…はい」

俺は渋々了承した。中学の時よりも難易度が上がっているし俺が進学したのは偏差値70の進学校だ。これだけやれていれば充分ではないのか。

「このまま学年トップを維持しろ」

その言葉を背に俺は自室に戻った。


はぁー世間的に見たら俺は充分な結果を出せているはずだ。親父の一族が古臭い考えが残っているため親父も俺と同じように高いハードルを設けられてきた。親父もいろいろな厳しい教育を受けてきた。それは母親から聞いた。だから少し辛いことがあるけど多少は理解して欲しいと言われた。私からももうちょっと優しくするように言っておく。もし限界が来たら一人暮らしをしても構わない。そう言われたがまだなんとかなっている。人っていうのは他人からの評価を気にするものだ。今まで沢山の大人に褒められるがそれよりも俺は少し位馬鹿でもいいとハードルを下げてほしい。

そんな一人で願望を考えていると

「お兄ちゃん。入っても良い?」

そんな声が聞こえた。

愁那しゅうなか。いいぞ」

そう返事をするとドアが開いた。

「お兄ちゃん。勉強を教えてほしいんだけど」

「分かった。どこだ?」

「今日習った反比例がちょっと理解しきれていなくて」

愁那しゅうな小学六年の妹。関わってきた人の中では真式の次に自分を偽らなくて済む。比較的仲が良い方だと思っている。うちは長男には厳しいがその他には厳しくないのでこいつはいろんな事を強要されることはない。それを羨ましく感じたり妬ましく思ったりすることもあるが幼い頃から俺が厳しくされていることを理解してくれたので自ら努力をして自分だけが楽をすることがない様にしてくれている。だが喧嘩がないと言う訳ではない。多少の口論が起きたりすることもある。その時、母親は原因の方又は両成敗だが、親父は問答無用で俺を叱る。

「ありがとう。これで明日のテストはちゃんと点が取れるよ」

「そりゃ良かった」

そんな俺にとってはむず痒いところもあるがそれなりの日常を送っていた。


「文化祭があるがみんなは何がしたい?」

クラスの中心グループが二ヶ月後にある文化祭について決めていた。いくら進学校だと言っても勉強ばっかではなく行事にも力を入れているようだ。

「なんか結朔はやりたいことある?」

「俺はないな。そう言う功次こうじはある?」

「ないな。準備は長期休みを使うんだろ?難しいのはやりたくないんだよな」

「そうだよなー。休み明けには一学期の総復習テストがあるわけじゃん。それに向けて勉強もしたいんだよな」

そんな話をしていると

「じゃあうちのクラスは疑似遊園地に決定しましたー」

文化祭でのクラスの催しが決まったようだった。

「疑似遊園地か。結構面倒なやつになったな」

「まぁ最低限参加してやるか」

このときはそんな考えをしていた。


「と、言う訳で設計図を作ってくれないか?」

文化祭のメイングループの中心人物が俺に設計図を作るように頼んできた。どうやら遊園地をやるのは決まったものの作るための設計図がないのでクラスの人に頼み込んでいるようだ。

「後はお前しか頼める人いないんだよ。やってくれないか?」

「そこまで頼まれたら断りづらいな、しょうがない。やってやるよ」

「本当か!いやー助かるよ」

「その変わり、設計図は作るがそのあとは頑張ってよ」

「分かった、任せてくれ」


そこから俺は設計図を作るために建設業などと遊園地のアトラクションのシステムの勉強を軽くして設計図を作った。頼まれたことはしっかりとこなしたほうが良いと考えているから俺は頑張った。

そうして設計図も頼まれていた日付までに完成し遊園地の準備日に学校に来た。設計図を渡すためだ。必要な用具、材料も事前に連絡をしておいたのでみんな用意して来ると思う。そして集合時間から一時間経った。一向に来る気配はなかった。俺はクラスのみんなに連絡をした。「今日文化祭の準備の日だけど忘れている?」そんな感じの連絡をした。この時は忘れているだけかと思った。クラスの中心グループはみんなで協力をしようと言っていたのだ。しかし誰からも返事はなかった。俺は諦めて一人作業をした。誰も来ず作業が全く進まないのはマズイと思ったからだ。

次の日もその次の日も来ることはなかった。その間俺は一人黙々と準備をしていた。他のクラスからは楽しく準備をしている声が聞こえる。本来は休みであるはずの日に普通に学校に来る時間と同じ時に来て同じ時間に帰る。休みとは何なのか疑問が出てくる。

そして準備四日目にとうとう結朔が来てくれた。どうやら塾が忙しく来ることが出来なかったという。それならしょうがない。そこからは一緒に製作していった。少しは気分が晴れた。ようやく準備の楽しみというのを多少経験できた。


結局毎回連絡をしても返信はなかった。その事を真式と遊んだ時に相談してみた。

「別に辞めても良いんじゃねえか?そこまで何もないとなると全部お前に投げたりした可能性がある。これ以上お前に負担がかからない道を選んだほうが良い。お前は何でも出来るように教育されているがあくまで人間なんだ。身体は大丈夫でも心が持たないぞ。ただでさえお前の家はお前の心をすり減らすんだ。お前は外に居場所を作るため頑張っているが無理はするな」

そう本気で心配してくれた。確かに今思い返してみればずっと作業をしていて家に帰ったら疲れて寝るだけの生活だった。意外と無理はしていたのかもしれないな。


俺は準備に行くのはしばらく辞めることにした。学校が始まってからも準備はある。なんとかなると信じている。結朔にもその事を伝えた。あいつも疲れてきたから休憩する、そう言って納得してくれた。準備も半分程度は終わった。本来はクラスの半分は来ることを前提に設計したため全く余裕はない。俺の長期休暇も半分は準備で無くなった。


そうして新学期が始まった。一学期総復習テストもあるので勉強はした。そうして準備に入る時に俺は信じたくない言葉が沢山聞こえてきた。「あそこ面白かったね」「バイトのおかげで金が結構溜まったわ」そんな声が聞こえてきた。その言葉で俺の中にあった何かがパキンとなった。こいつらは準備を俺に丸投げして遊びに行ったりバイトをして金を貯めていたのだ。そして他に聞こえてきたのは「功次ならかなり進めておいてくれると思ったから任せて良かった」そう聞こえてきた。それを言っていたのは俺に設計図を作るように頼んできたクラスの中心人物だった。

「ふざけるな!」

俺は気づいたらそう叫んでいた。その声にクラスの視線が俺に集まる。

「どうしたんだよ功次」

そう問われた。何をほざいているんだ。約束破り共が。

「どうしたも何もない!俺が頑張って準備をしている間お前らは呑気に遊んでいたんだな!本来は設計図は俺が作ってそこからバトンタッチする話だったはずだ」

問われたことをしっかり返してやった。これで謝罪をしてきたら完全に許すつもりはないがまだ情状酌量の余地はある。そう考えた。

「でも、功次って何でも出来るから別にいいでしょ」

しかしこいつらから返ってきた言葉は俺を利用していただけという言葉が返ってきた。

「…は…はは」

俺からは乾いた笑いしか出なかった。そうか俺はクラスの人から利用できる道具だと思っていたのか。俺はここでまだ学校があるが家に帰ることにした。


「ま、待て!功次」

昇降口まで行き帰ろうとしていた時に背後から声が聞こえた。

「結朔か…どうしたんだ…」

もう俺の喉からはいつもの声は出なかった。

「彼奴等は確かにゴミみたいなことをした。あいつらに対しては先生に報告すれば多少は解決すると思う。だけど…まぁ…気を落としすぎるなよ」

「…うん、じゃ」


そうして家に帰ってきた。本来返ってくるはずの時間よりも早く帰ってきているので愁那は学校、親父とお母さんは仕事で家にはいない。これからどうしたものか。学校に行けばまた彼奴等に利用されるだけだ。人に頼まれたことはしっかりこなす。そう親父に言われてきた。基本的に親父の教えに賛同できることは少ないがこの考えには賛同できた。人間関係において貰う与えるというのは大事で社会に出ても重要だと思っている。親父は他人に恩を売っておけば自分たちが困難に立ち会った時助けざる負えない。人間というのは恩を仇で返すということが基本は出来ない。そんな事をする人間は人間ではない。そんな考えであって少し俺とは違っていた。しかし今となっては親父の考え方はただの綺麗事にしか思えない。彼奴等の方がよっぽど人間らしいと感じた。他人を利用して自分たちが有利になろうとする。今までの人類も同じ事をして歴史を紡いできた。むしろ俺のほうが間違っていたんだな。


「…んっ?」

気づいたら俺は寝ていたらしい。部屋のドアがノックされた気がしたので起きた。

「…お兄ちゃん帰ってきてるの?」

聞こえてきたのは愁那の声だった。本来は俺のほうが帰ってくるのは遅いので靴があって

疑問に思ったのだろう。

「帰ってきてるぞ。なんか用か?」

「…入っても良い?」

「?、いいぞ」

いつもの愁那と声のトーンが違ったので疑問を持ったが相談事かもと思って入れることにした。本当は俺が相談したいんだが。

「…ありがとう」

「!?は、ちょ、ちょっと待て。お前正気か!?」

部屋に入ってきた愁那の手にはナイフがあった。

「早めに楽にしてあげるから抵抗しないでね」

「な、何を言っているんだ!?何故殺されなければならない!?」

「じゃあ、元気でね」

そう言って愁那は笑顔で突っ込んできた。


「ま、待て!」

俺はベッドから飛び起きた。心臓がうるさい。悪夢だったのか?だが何故こんな悪夢を見たんだろう。

「だ、大丈夫?お兄ちゃん。すごくうなされていたけど」

隣には愁那がいた。一瞬鳥肌が立ったがいつもの愁那だったので安心した。

「いや、悪夢を見ていただけだ。俺は大丈夫だ」

「そう?なら良いんだけど」

「悪いな。心配をかけて」

俺は愁那に心配をかけないように頭を撫で時計を見た。三時か。確かに愁那が帰って来る時間だ。

「真式くんから連絡があってお兄ちゃんを見ていたの」

「真式から?なんで?」

「もしかしたら功次に限界が来るかもしれない。監視しておいてくれって」

…あいつは凄いな。誰よりも俺のことを知っている。もはや予言に近い。

「帰ってきたらお兄ちゃんの靴があったから真式くんの言った通りになったのかもって思ったの」

「そうか。まだ俺は大丈夫だ」


俺は愁那と一階のリビングに降りてきた。そこには仕事から帰ってきたお母さんがいた。料理をしているようだった。

「功次大丈夫なの?無理はしないでね」

「うん。俺は大丈夫」

下手に心配をかけ過ぎるのも良くないな。

「悩みとかがあったら言っていいからね、功次はもっと我儘言っていいと思うよ」

「俺は十分言ってると思うよ」

「功次は分からないかもしれないけど本来はもっと言ってるはずなんだよ。お父さんの教育で基準がずれちゃっているけど」

そお母さんの言葉の一つに引っかかった。基準がずれている。やはり俺は変なのか?普通の家庭で教育を受けてきた訳じゃないから他と違うのは小さい頃から理解している。だが改めて他の人に言われると多少なりともくるところがある。

「…やっぱり俺は変なんだな」

「えっ?」

「いや、なんでもない。悩みが消えただけ」

「あらそう?なら良かったけど無理はしないでね」

「お兄ちゃん…」


自室に戻った俺はこれからどうしていくか決めた。変なのであるならもう完全に消してしまおう。利用される、評価を気にする、そんな今までのことなんか捨てよう。流れに任せてみたほうが生きやすいはずだ。この世に俺の意思なんか必要はない。


あの事件から三日後、功次が学校に来た。それはいいことであるはずなんだ。ただ学校に来た功次はいつもの功次ではなかった。見た目も話し方も変わらない。なのに違和感がある。「じゃあ準備しろよー」

先生からの呼びかけでみんなが準備を始める。功次が作業の半分を終わらせていたのと、功次が頑張って作った設計図を使っているため順調に進んでいる。良くないことはクラスの奴らは先生に元は功次の手柄を奪って報告している。俺も先生に本当の事を伝えたが圧倒的に人数不利がある。だから信じてもらえない。


「功次、お前大丈夫か?」

結朔は何を言っているのだろう。

「何も問題はない」

「そ、そうか」

「おーい功次これやってくれ」

俺はクラスのメインメンバーに呼ばれた。

「分かった。任せてくれ」


「いやーやはりお前と遊ぶのは楽しいな」

今日は真式と遊んでいる。小さい頃からやっているゲームに真式もハマってくれた。

「………」

「どうしたんだ?体調悪いのか?」

「…功次、今からお前の家に行って良いか?」

「いいけど。どうしたんだ怖い顔して?」

「いや、気にするな」


「ただいま。真式連れてきた」

「今日は外で遊んでいるという話ではなかったか?」

そんな声が聞こえてきた。今のは功次のお父さんか。

「なんか真式が急に家に来たいって言ったから」

「なるほど。少し真式くんと話をさせてくれないか」

功次のお父さんは来た理由が分かったっぽいな。

「分かった」

そう言って功次は自分の部屋に向かっていった。俺は功次のお父さんのいるリビングに向かった。

「やぁ真式くん。多分君が言いたいことは功次の様子だろう」

「そう。あいつが何故ああなっているのは分かるんすか?」

「それが分からないんだ。お母さんも愁那も分からない。真式くんは知っているか?」

「多分高校でなにかあったんだと思う。前の長期休暇の時に相談されたんだ」

「それは一体どんな?」

俺はあの時功次に相談されたことを伝えた。

「そうだったのか。そこまで限界が来ていたのか。全く気が付かなかった」

「そうそこだよ。あんたはもうちょっと功次を見てあげるべきだ。功次の心がすり減っているのは文化祭準備だけじゃなくあんたの教育でもあるんだ。自覚したほうがいい」

「そう…だな…いい加減功次を認めなくてはな」

思っていたよりもすぐに了承してくれた。何だ話せばわかってくれるじゃないか。

「すぐに納得してくれるんだな」

「いや、本来は既に認めてはいたんだ。高校入学していた時にはな。ただずっとあの教育をしていた為戻し方が分からないんだ。うちは代々高校まであの教育方法をするんだ、そして功次が非常に優秀だった為普通よりも期待を周囲をかけられていたために余計にあいつの心に負担がかかりすぎていたんだな」

そうかこの教育でほとんどの状況に対応できるようになった。ただ功次は本来の範囲よりも優秀であったが為にそこで出来たハードルが今も重圧になっていたんだな。

「今の功次にはどこにも居場所がない。早めに対応しないと本当に人間じゃなくなるぞ」

今の功次は笑顔でいるが苦笑いでもなければ引きつった笑顔でもない。どう見ても怖い。

「そうだな。すぐに情報を集めて対応しよう」

功次のお父さんは決心をした顔だった。


「功次、お前気持ち悪いぞ、ずっとニコニコしていて」

クラスの人がそう言ってきた。何故なんだろう?

「その言い草はないんじゃないの?」

女の声が聞こえてきた。誰なんだろう?

「あんたは…黒野羽夏くろのうなつ生徒会長!?」

黒野羽夏…この高校の生徒会長だ。二年生の主席らしい。

「紹介どうも。とりあえずこのクラスの人は聞け」

その一言でクラスの人全員が注目する。

「単刀直入に言おう。お前らがこの世垓功次にしたことは全て分かっている。それ相応の対応をさせてもらう」

生徒会長の発言にクラス全体がざわめく。

「いや、俺達はなにもしていないですよ」

ある人達はそう申し立てる。

「何をほざいているか。お前らはこいつを利用だけして捨てそしてこいつの手柄を奪った、違うか?」

その言葉でクラスの全体に冷たい風が吹いた。

「こいつの親から連絡、そしてお前ら使っているこいつの設計図という証拠によってお前らの有罪が分かった」

「設計図なんかが証拠になるわけないじゃないですか。俺らが邪魔だからって親とタッグを組んではめようとしているんですよ」

クラスの人達は生徒会長に反論をする。それを見た俺は何故生徒会長は俺を助けようとしているのか分からなかった。俺という存在はこの世に利用されるだけの存在なのに。

「そんな疑問を持った顔をするんじゃない。お前を助けるのは私という生徒会長の仕事だ。人間関係において貰う与えるというのが重要だと思うのは私も同じ考えだ。それを考えずに生きてきたこいつらは人間じゃない。お前は間違ってない。自分の信念を貫き通せ。たとえ世界を敵に回したとしても対応できるようになってるはずだ。お前の親父さんからの伝言だ」

「へ?親父から?」

「うむ。それと帰ったら話したいことがあるとも言っていた」

「は、はぁ」

「まぁそんな身構えるのではなく今回は受け入れる姿勢で行け」

「わ、分かりました!」

「今から帰ってもいい。むしろそのほうがいいだろう。後は私が片付ける」

「はい、ありがとうございます!」

俺はそのまま荷物を持ち走って家に向かった。


「お父さん?」

家に急いで帰ってきた為息が切れた。

「功次、帰ってきたか」

「うん。話って?」

「そうだな。落ち着いて聞いてくれ。いや、怒っても構わない」

何なんだろう。俺が親父に怒ることは出来るのか?

「とりあえず今まですまなかった」

親父は突然誤ってきた。一体どういう事なんだ?俺がポカンとしていると親父はゆっくり話し始めた。教育自体は高校に入った時点で終わっていた事、俺のハードルが他より高かった事などいろいろ聞かされた。親父に対しては今までの持っていた不満は無くなって行くのを感じた。これからは無理に上にいなければいけないというのが無くなったのが嬉しかった。

初めて親父と笑顔で会話が出来た。作ってきた笑顔でなく本心の笑顔でだ。


「結局、功次を陥れた奴らは停学処分になったんだな」

あの出来事が終わった二日後真式と話していた。俺を苦しめた奴らは停学処分となった。設計図というので証拠になるのかと思った、どうやら俺は多少身につけた専門知識を設計図に記号を使ったようで作ったと偽っていたやつが分からなくてそいつを庇ったやつはみんな処分が降りたようだ。

「ありがとうな。真式。あの時にお前が気づいて親父に申し出ていなければあのままだったか死んでいたと思う」

「いいってことよ。俺もお前に沢山助けられてきたんだ。貰う与えるが人間関係で重要だろ」

「そうだな」


「結朔、ありがとうな。俺がいない間とかに先生などに相談したりして動いてくれてな」

こいつも俺の為に動いてくれたもんな。

「構わんよ。ただ今までの見てきたお前の半分は偽っていうのが引っかかったがな」

「そりゃ申し訳ねぇ」

「まぁいいよ。これから見せてくれればな」


「生徒会長もありがとうございました」

「おー功次か。あの後親父さんとは上手く行ったか?」

「はい。結果は違えど似た教育を受けてきたので合うところもあります。テストの結果も認めてもらいました」

「なら良し!」

「そういえばなんで初対面の俺にあそこまでしてくれたんですか?」

ずっと気になっていた。生徒会長とはいえ初対面のやつに対してあそこまでしてくれるとは思えない。

「そうだな、生徒会長という立ち位置もあるが、個人的に全教科約九割とれる一年主席という存在が気になってお前のことは知っていたんだ」

「なるほど」


ここからはいつも気を張っていた日常が様変わりをした。

居場所が家にも出来たし準備の努力が認められて友達も増えた。

一時的に笑顔を保っていたとしてもいつかは限界が来る。

もし限界が来たときに助けてくれる友は大事だ。

どれだけキツイ状況だとしてもそれを支えてくれる人は一人はいる。

もしいなかったとしても諦めるのではなく一人で切り抜ける道を見つける他ない。

「おーい、いつまで寝てるんだー」

「お前が起きないと行けないだろ」

「真式に結朔と黒野会長?なんのことだったっけ?」

「お前のお父さんに東京まで連れてって旅行する予定だろ?」

「あ、あー!わりぃすぐ着替える」

「生徒会長。あんなのんびりになったけど良いんですか?」

「あれが本来の功次だ。人間は本来の姿でいる事が美しい」

「そんなもんですかねぇ」

「すまねぇ。行こうぜ」

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