死神少女の生者殺しHer point of view by死神
スモアmore
第1話 始まりの始まり
3月。桜が咲き始める前。死神は漆黒の鎌を手に、夕日に照らされる街を飛び回っていた。追いかけているのは校舎から逃げ出した怨霊。しかも、今回の怨霊は額から黒よりも黒いモヤを吐き出している『鬼』。ここで逃がすわけにはいかない。だが、今日は満月の日。私が、怨霊になる日だ。
ここでやつを倒さなければ被害が出る。かといって私がここにいても怨霊となって実体化し、新たな幽霊を作ってしまう。日没まであと1時間を切った。死神にはどうすればいいか決断することが出来なかった。
それ以上に、怨霊の動きが妙に思えた。『鬼』なのだから通常よりも何倍も強い力をもっているのに、戦闘意思を一切見せずにただただ逃走するのみ。
何か目論見があるのか?でも怨霊に自我はないはず。それより日が暮れてしまう……頭の中で思考はまとまらない。そうこうしているとビルの隙間を飛び抜け大通り上空に出る。
―――追いついた。
遂に鎌の射程に入った。空中で逃げ場のない怨霊の胴体を鮮やかに一閃する。
「『ヘルサイズ・レクイエム』!」
断末魔と共に怨霊は消え去る、その時。死神は気付いた。怨霊が、まるで悲願を達成したかのような笑みを零した。そして、指差した。その方を見ると、暗くなった空に黄金の月が現れ始めた。
瞳孔が見開かれる。
やらかした。怨霊の目的。それはいつも憎しみや復讐心が原動力であり、生きる目的だ。今の怨霊も例にもれないのだろう。怨霊になると自我を失っても知性は失わない。だから人気の薄いところで姿を表し、生者を襲う。
だから、確実に殺すために策を立てることもある。
今の怨霊は私に対して怨念を抱いていたのだろう。だが、ただ正面からやり合っては確実に負けると考えたのだろう。その結果、私が1番嫌がること―――大人数を私の鎌の被害に合わせ、存在を消させることにした。そうとしか考えられない。
恨まれる理由なら、嫌ってほど思いつく。だって私は何の罪もない人を理不尽に存在を消しておきながら澄ました顔をして、幽霊についてのいろはを教える。そんあ相手に恨みの1つや2つ覚えて当然だ。
日が沈み、月が輝きを強める。
私は月が憎い。いつも暗闇の中で全てが闇に包まれるはずなのに、月だけは輝き続けている。それがいつも、憎い。死神は体を抱き寄せる。内蔵の奥が熱くなるのを感じる。痛い熱い辛い熱い苦しい悲しい憎い憎い憎い―――憎い!
頭が沸騰するほど熱くなりまともに思考出来なくなる。最後に頭に入ってきた情報は周りからのざわめき。それが、最後だった。
突然現れた白髪の少女に周りの人間はスマホのカメラを構えたり、人混みを作っていた。皆SNSなどにツイートをしているのだろう。そこに1人の警官が割って入った。
「えーっと大丈夫?あーキャンユースピークジャパニーズ?」
死神を外人だと思った警官は片言の英語でコミュニケーションを取ってきた。
それが遺言だった。
次の瞬間警官の首から上は死神の鎌に寄って刈り取られた。だが誰も悲鳴を上げない。何故なら警官は死んだのではなく、存在が消えたから。警官など始めからいないことにされたから。
周りの人間は突然現れた鎌に、何かパフォーマンスが始まるのかとカメラを構える。
それからは、虐殺の始まりだった。
死神が憎しみという感情だけで走り、鎌を振り、人間の首を、頭蓋を、胴体を、無惨に切り刻むだけのパフォーマンスが行われた。夕方の駅前の大通り。仕事帰りのサラリーマン、遊びから帰る若者、行き交う車。それら全てが死神の獲物となった。
夜は更けていく。ただ、残酷に―――
□ □ □
満月が雲に隠れる。その時、数時間ぶりに死神は自我を取り戻した。周りを見回すと、そこには死神によって幽霊にされた何百もの人々が
これは、私が作り出した絶望とは頭で理解しているのに、死神は目をそらしその場から逃げ出した。
もう嫌だった。自分は気付いた時には誰かの存在を消していた。知らない人も、嫌いな人も、仲の良い人も、クラスメイトも、はてには自分以外の家族すらも。
皆絶望して怨霊に変わった。それを終わらせるのが自分に出来る唯一の償いだと考えて、1人で背負い続けた。
みーちゃん達クラスメイトは理解して、許してくれた。皆でなんとかしようと色んなことを試した。おかげで『ヘルサイズ』以外の技も編み出せた。
だけど残ったのは私とみーちゃん達だけだった。皆明るく振る舞っていたけど、心のどこかでは絶望していることなんてわかりきっていたはずなのに、自分ではどうすることも出来なかった。涙を流しながら怨霊になっていく友人を自分の手で殺さなければいけない、あの苦しみはもう味わいたくない。味わいたくないのに、また誰かを殺さなければ行けない状況を自分で作る。そのことに自分自身を深く呪った。呪って呪って、そして走り出した。自らを殺してくれる誰かと出会うために。
これは、絶望を生み出す死神が滅びるまでの物語―――
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