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 見上げても月は見えない。


暗すぎて見えない雲の先にあるものが、満月なのか、新月なのか、私にはまだわからない。


たとえすぐに晴れたとしても、私はこの傘を開いたまま、空を見ることはせず、


「まだわからない」


と言うのだろう。


やはり、夜の雨は好きだ。


 しかし、これから先、雨が止んで雲が退いた時、空に浮かぶ月の形を私は知らなくてはならない。


そして、知りたいとも思う。


たとえ傘で隠したとしても、足元に広がる水溜りには綺麗な月が映るはずだ。


そこに映る月がどんな形か、私は知らなくてはならないし、知りたい。


でも、それでも今は






私はまだ、もう少しだけ、この長い夜を、一人で歩いていたい

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長い夜を歩くということ 放馬 舜 @shhouma

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