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 「夕食は家で食べようよ」


そう言った彼女に彼は同意した。夕食を作る時間から一緒に居られるなんてことは、どんなに会食が減ったとはいえ、なかなかないことだったので彼は素直に嬉しかった。


彼は「何か手伝おうか」と帰りの車の中で聞いたが「それだと逆にわかりづらくなるからいい」と彼女は笑った。


それはその通りだ。「じゃあ、何か手伝うことがあったら呼んで」と伝え、彼女が指示するままにスーパーで食材を買って帰宅した。


 彼は食事を待つ間、何もすることがなく、かといって気持ちも落ち着かず、ソファに座りながらテレビを眺め、次々とチャンネルを変えた。


どういった理由でチャンネルを変えたのか彼は明確にはわからなかったが、テレビには自社が手がけたCMが幾度も流れ、バラエティに回せば、撮影現場で会った芸人がテロップを出されて大爆笑を掻っ攫っていた。


ドラマでは会食で紹介された女優たちが所狭しと動き回り、画面の中で輝いていた。


初めて消費者という立場から彼は自分の仕事の成果を見ることができた。


その時、外れていた部品が完全にはまったかのように胸に充実した重みを感じた。


「どう?自分の会社が作ったもの見るのは?」


彼女はからかう言葉で彼をくすぐった。


「やっぱりいいものだね。誇りだね」


彼は何も考えず子供みたいに浮かれた声を出していた。彼女も微笑んでいた。


「それじゃあ、ずる休みは今日までで、明日からまた仕事頑張らなきゃね。社長さん」


彼女の声は跳ねて歌っていた。彼はその声を励まして発破をかけているのだと思い「ああ」と沁みるように返した。

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