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「なんだ、最近おかしいと思ってたらそういうことだったのね」
彼は呆気に取られて、ただ彼女の笑いが収まるまでじっと待つことしかできなかった。
一瞬にして思考も感情も飛び抜けた頭には彼女の笑い声だけが響いていた。
「それはまあ、何も知らない人がバーで出会った目の見えない歌手と付き合ってるって聞いたらどんな人でも不審がるに決まってるじゃない。しかもあなたは広仁堂の社長なんだから。心配するわけだよ」
他人事のような言葉を彼は彼女の口から聞きたくはなかった。
諦めてしまったような淡々とした言葉は彼女には似合わず、二人の間を客観的な言葉で空けられる気がして彼は嫌だった。
「でも…ありがとう。真二の気持ちは…十分に分かってるから。それだけでいいよ」
それから彼女は朝食を作り「せっかく休みなら遊びに行こう」と彼を外に連れ出した。
どこか特別な場所に行きたいと彼は思わなかったが、彼女を乗せて車を走らせる時間でさえ、彼にとっては特別な時間になっていた。
昨日のことなどどうでも良いと思えるようになっていた。
やはり、所詮はただの一般論でしかなく、大した問題ではないと今なら昨日の男に笑いながら言える。
彼はそんな気がした。彼女の何種類もの笑顔が彼の誇りさえも照らして、崩してくれた。
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