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 彼が埋めた小さな種は硬く乾いた地面に芽を出し、何度道行く人に踏みつけられようとも立ち上がり、他の雑草に養分を取られそうになれば駆逐し、そして、花を咲かせた。


最初は小さく、誰にも見向きもされないような小さな花だった。


花が散り、数えきれないほどの冬を越えて、柔らかく緑色をした茎は分厚く岩のように頑丈な幹になった。


今やその樹を目当てに人が集まり、無数に伸ばした枝には風と遊ぶ若々しい葉と繊細に揺れる桃色の花びらがあった。


それは彼が目指した「名家の創設」が形になったということだった。


 彼の会社は業界トップの大企業へと成長を果たし、念願としていたテレビ事業への参入を前会社の吸収合併という形で行った。


労働問題でバッシングを受け業績の傾いた前会社のマイナスを一気に取り戻し、一躍彼の名は世に知れ渡ることとなった。


彼の合併提案には自社内はもとより、前会社からも批判が殺到していた。


「会社の私的利用だ」「情に流された決断はいつか自分の身を滅ぼすことになる」そんな言葉を毎日のように聞かされ、辞めていく社員もいた。


根気強く説得を続けるも届かない想いは彼にとって苦しいものではあったが、彼の心に傷をつけたものはそれくらいであり、今の彼には些細なことだった。

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