第50話 綠狼、再び
「みんな‼ おつかれ‼ これだけあれば十分だよぉ~」
この場に居合わせた雷夜以外のメンバーは、全員ヘトヘト。仮想バッグは麦の束でギュウギュウ詰め。
課金すれば拡張できるが、バイトもしていない高校生には、それだけのお金を持っているはずがない。
「雷夜。この麦で何瓶作れるんすか?」
「えーと、今回収穫したのが4万束だから……。多分、1500瓶くらいかな?」
意外とたくさん作れるのか。持って行ったらきっとフォルテが喜びそう。お土産に1瓶……。
『1瓶じゃ足りない……』
どこからか暗く少し低い声。主は見えない。そこに、真後ろから強い風が吹き付ける。
振り向くと、第二層で倒したはずの
「ふうにい久しぶり♡ 元気だった?」
『こっちのセリフ。そのまま返す』
「もう、ふうにいったらぁ~」
ふうにい? 雷夜のお兄さん⁈ 兄弟多くね? 羨ましい。早く産んでよ、母さ~ん‼
「ふうにい、その姿だとボクの農場が荒れるから、ね?」
『ん……』
緑狼が、人の姿に変化する。濁った緑の髪はたてがみのように長く、ふわりと揺れて、小学生くらいの身長だった。
よくよく考えれば、雷夜も小学生くらいの身長。だが、兄の方が少しだけ背が高い。
「挨拶。まず名前は風魔。第二層ボス担当。特技は武器鍛冶。攻撃属性は風。以上」
短いセリフで語られる単語。静かすぎるが、風魔の特徴でもあるのだろう。こちらも順番に自己紹介を済ませていく。
「アレン……、オマエの装備を確認したい……。素振りも手伝う。あと1時間で夜。エネミー狩りに適した時間」
単語だけの言葉。意味はわかるが、戸惑ってしまう。夜はエネミーで溢れるタイミング。
雷夜達と別れ、俺は風魔と狩場に向かう。風向きも変わり、涼しくなった新緑のフィールド。次々と出現する小型エネミーで、周囲が埋め尽くされる。
「
紅い? 〈クリムゾン・ブレード〉
のこと? 仮想バッグから取り出して確認すると、風魔はこくりと頷く。
「これで、戦えばいいんすか?」
「他に答えは無いはず。紅い刃を持つのは、そいつしか存在しない」
なるほど。一つしかないのなら、答えも限られる。敵を刃で斬る。風魔に言われた通りに……。
「風魔さん‼ これで認めてくれたら、ほんとに強化してくれるってこと?」
過去に倒したはずのボスエネミーに、半信半疑の質問をする。
「……もちろん強化をする。そいつは意思を持った武器。アドバイスとして言えること。剣に頼るも自分に頼るのも邪道でしかない。共鳴してこそ、刃は鋭い牙になる」
難しいのか簡単なのか、意味深な言葉。今はわからなくていい。時間をかけて覚えれば、いつか理由に辿りつくと思う。
俺は風魔に認めてもらえるまで、剣を振るい続けた……。
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