第48話 仲間天国、俺地獄

 なんか、風が暖かく感じる。だけど、とても眠い。ジャングルで、ボスと戦ってから先の記憶がない。

 そうだ、俺は疲れ果てて寝たんだった。でも、なんでまた眠く……。まぶたが重い。おもりでも乗っているかのように……。


『アレン起きてよぉ~。なかなか起きないから、ボクが第十二層まで運んだんだよ?』


 雷夜の声。第十二層? ゆっくり目をひらき、周辺を確認すると、緑が目立つ世界。草原だろうか?

 そよそよ吹く風が木の葉を揺らし、ちぎれた草が飛んでくる。自然に満ちた場所。芝生は大好きだが余計に眠くなる。


「気持ちがいいですね。ここは……。クリム」

〖同感じゃな。アルス殿〗


 夫婦みたく仲のいい二人。いや、一人と一匹。野放しにしておくか、悩んでしまう。


「あんた、しれっとしないでちょうだい? アタシもさっきから言ってるのに……」

「き、聞いてなかった……。すんません……」

「今回限りだからね? 次は無いわよ。ほらボス部屋に……」


 絶対服従したくないのに、自然としたう感じになってるよ⁉

 まあ、持久力を高くさせるなら、ちょうどいいけど……。俺はチェリスを背負う。これ、いつまで続くんだよ?


「犬。行きなさい‼」

「い。いぬぅ⁉」


 俺、犬なの⁈ いつの間に犬になってたの⁉ ペット扱い? 3回まわってお手からワン、って、嘘から始まる恋愛小説のパロディじゃん。 


「それ面白いかも♡ よろしくね、犬」


 雷夜もやめろぉ‼ 三人からペット扱いって、どうなっているんだよ⁉


「たしかに、呼びやすいですね。犬さんよろしくお願いします」

「アルスまでぇ⁈」

〖我はパスしようかのう。犬殿〗


 完全に言ってるじゃん‼ 犬ってしっかり言ってるじゃん‼ 全員からペットにされたよ⁉


「まあ、いいじゃないですか。犬さん。あたし、気に入ってしまいました」


 たしかに、単純でわかりやすいけど……。ツッコミどころ満載じゃん。楽しいけどツッコミ入れるのめんどい……。

 気持ちを入れ替えて、ふかふかの地面を踏む。広い草原。優しい風。澄んだ空気。歩くのが楽しい。


「どんどん前に進も♡」


 明るい表情の雷夜が、笑みを爆発させてスキップする。自然と他のみんなもニコニコ顔になって、ボス部屋を目指し前進。

 メンバーの親密度が上がっていく。ギルドって楽しい。こんな楽しいギルドに参加できて幸せな気分だ。


「まっすぐ進みなさいよ。蛇行だこうはやめてちょうだい」

「気をつけます……」

「今日中に終わらせるのよ」


 ドSキャラは勘弁してぇ〜。ペットにされたくないぃ〜。


「「犬、ボス部屋まで……」」


 全員同時って地獄なんだけどぉ〜。

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