スキル【万物創造】を授かったので、万能ギルドを(物理的に)創ることにした。

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スキル【万物創造】を授かったので、万物ギルドを(物理的に)創ることにした。

僕……クラフトには、幼い頃からの夢があった。

同じ村で育った幼馴染のケインズ、トミーの二人と共に、最強のギルドを創るという夢だ。


同じ環境で育った僕らは互いを義兄弟のように思っていたし、この先もずっと一緒にやっていけると信じていた。

……そう、この時までは。


この世界では、15歳の誕生日に神様から【スキル】という祝福が授けられる。

15歳になったケインズは【勇者】のスキルを、トミーは【リーダーシップ】のスキルを授かり、残るは一番誕生日の遅い僕の祝福を待つばかり。


トミーがギルドマスターを務め、ケインズと僕がギルドの看板としてクエストをこなす。

そんなことを、毎日のように語り合っていた。


しかし、現実は非情だった。

僕が授かったのは、【万物創造】という、前例のないスキルだったのだ。

父さんも、母さんも、親族も、ケインズとトミーも……勿論僕自身も、大きなショックを受けた。


これでは、3人の夢を叶えることができない。

僕は二人の前で恥じらいもなく泣いた。

二人は、そんな僕を笑ったりしなかった。


僕はこの時、僕の……僕たちの夢はここで潰えたのだと、勝手に決め付けていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



一年後、ケインズが村から巣立つ日がやってきた。

子供は18歳になるまでは親元にいるのが普通だが、ケインズは少しでも早く冒険者として経験を積みたいと言い、両親の反対を振り切って村を出て行く決心をした。


「クラフト、俺はしばらく大手ギルドで名前を売ってくる。そこで有名になって、ある程度人望が付いたら、トミーと共にギルドを立ち上げるつもりだ。……そんときは、お前にギルドの設計を任せるぜ。立派な建築家になって、待っててくれ」



「ケインズ……。まだ、あの夢を覚えていてくれたのか?」



「当たり前だろ。トミーも、ギルマスの仕事くらい簡単にこなして貰わないと困るからな?」



「俺がそのためにどれだけ勉強してると思ってんだよ。そんくらい、朝飯どころか一周回って晩飯前よ!」



「……あぁ。トミーが夜な夜な勉強しているのも、クラフトが未知のスキルを自分なりに研究しているのも、全部見てきたからな。俺はお前らを信じてるぜ」



ケインズはそう言うと、村に背を向けた。

その鍛えられた大きな背中は、一年前、まだ少年だった彼ではなく、屈強な戦士の姿だった。


「頑張れよ、ケインズ! 俺たちも後を追うからな!」


ケインズはヒラヒラと手を振り返したが、決してこちらを振り返ることはなかった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



ケインズが去り、村にはトミーと僕が残された。

トミーはますます勉学に励むようになり、僕もスキルの試行錯誤に勤しんだ。


トミーは、いつも難しそうな本と睨めっこをしていた。

僕もトミーの勉強に付き合っていたおかげで、ある程度読み書きができるようになった。

トミー曰く、栄えている町ほど教育の水準が高く、この村のような「読み書きできないのが当たり前」という常識は通用しないらしい。

ケインズも、村を出て行く前に最低限の読み書きをトミーから教わっていた。


……さて、僕のスキル【万物創造】について、わかったことを話そうと思う。

このスキルは、魔力を込めることで物質を創り出すことができるスキルのようだった。

試してみたところ、貴重な宝石も創れた。

ここだけ切り取れば、万能で、ある意味最強とも言えるもの凄いスキルだと思うかもしれない。


……当然ながら、欠点はある。

魔力の消費量が尋常ではないのだ。


砂粒にも満たない大きさの宝石を創るのに、今の僕の全魔力が持っていかれるほどだ。

そうとわかってから、僕はしばらく間、魔力の最大値を上げる訓練に勤しんだ。

その方法は単純で、寝る前に魔力が無くなるまで物質を創造し続けるのだ。

人の体は、魔力を限界まで使えば使うほど、次に魔力を蓄える最大値が鍛えられていく。


僕はこの訓練を、毎日欠かさずに行った。

訓練では、毎日ミスリルを創造した。

……というのも、物質によって消費する魔力は異なるのだが、ミスリルが一番効率良く魔力を消費できることに気づいたからだ。


そうして、更に二年の歳月が経過した。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


トミーが、村から巣立つことになった。

トミーは昨日18歳になったので、ここで出て行くのは妥当なタイミングだと言えるだろう。


僕もトミーと同じタイミングで村を出て行こうかと考えたが、あと少しだけスキルを研磨するため、18歳になるまではこの村に残ることにした。

僕の魔力量は、二年前とは比にならない。

魔力の問題はある程度解決した。

あとは、スキルの使い方を身につけるだけだ。


「……トミー、もう行くのか?」



「あぁ。俺もケインズと同じように、どこか適当なギルドに就職して経験を積もうと思う。クラフトはどうするんだ?」



「18歳になるまではこの村に残るよ。その後は、色々な町を巡って建物について学んでみようと思う」



「……そうか。じゃあ、あと少し、この村は任せたぞ」



「任された。……元気でな」



「クラフトもな。研究に没頭しすぎて、体調崩すんじゃねぇぞ?」



「徹夜で勉強してぶっ倒れた奴に言われたくないけどね」



「はは、気をつける。じゃあな!」



トミーは、最後までひょうひょうとした態度で村を後にした。

……これで、村には僕一人だ。


僕がここを出るまでは、あと半年ほど。

僕は残された半年でスキルを磨き上げ、そのあとは、建築について沢山学ぶんだ。


ケインズ、トミーとの約束は少し違う形になってしまったけれど、夢が潰えたわけじゃない。

僕はこの村……いや、この国一番の建築家になって、冒険者たちが快適に過ごせるギルドを造るんだ!


決意を固め、僕は来る日も来る日もスキルの研鑽に励んだ。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


王都の酒場にて、懐かしい……それでいて、互いに一日たりとも忘れたことのない顔ぶれが、3年越しに再会を果たしていた。


「トミー! クラフト! 久しぶりだなぁ!」


「ケインズ! 聞いたぞ、お前、Sランク冒険者に昇格したんだってな!」 


「あぁ。長い道のりだった。これで、ようやくお前たちとの約束が果たせる」



……あれから、3年か。

僕は21歳になり、宣言通り様々な国の建造物の仕組みや構造を学び歩いた。

そして、僕の中ではもう、ギルドの構造がはっきりと決まりつつあった。

必要な材料を創り出すために、この3年間、毎日欠かさずに魔力の鍛錬を続けた。


「……もうやるのか、ケインズ」


「あぁ。俺は明日、ギルドを脱退するつもりだ」


「……そうか。なら、明日までにギルドの建物は完成させる。内装は好きにアレンジして欲しい」


「クラフト!? いくらなんでも、一日じゃ無理だろう」


「……いや、トミー。ここはクラフトに任せてみよう。この3年で、何かスキルのことがわかったのかもしれない」



「あぁ! この日のためにずっと備えてきたんだ。任せてくれ!」



……そこから、僕はギルドの建造に取り掛かかった。

ギルドを建てる土地はケインズが冒険者業で稼いだお金で買ってあるし、冒険者や従業員の勧誘はトミーが東奔西走してくれている。

あとは、僕が頑張るだけ


「さて、やるか」


僕はミスリルを生成し、それを壁の形に整えていく。

壁にミスリルを使うことで、冒険者同士の揉め事が起きたときなどに、ちょっとやそっとで壊れない頑丈な作りになるのだ。


「……おいクラフト、それはまさかミスリルか?」


「そうだよ。正直、ここまで生成できるようになるまでにはかなり苦労した」


「……そ、そうか」


珍しく驚いたトミーの顔が見れたことを嬉しく思いながらも、僕を手を休めない。


外壁ができたら、今度は受付となる場所を整備していく。

見栄えを重視するため、ここでは木材を使用。

本当はミスリルを使いたかったのだが、外装はともかく、内装までミスリルにしてしまうと、中に入る冒険者が落ち着かないだろう。

どれだけ機能性に優れていても、居心地が悪ければ元も子もないのだ。


「……その木材は?」


「世界樹」


「ウソだろ!? Sランク冒険者の俺でも、滅多にお目にかからないレア素材だぞ!?」


「確かに僕も、自然のものは見たことないかも……」


「…………」


……Sランク冒険者であるケインズがこれほど驚くということは、天然の世界樹はさぞ希少で良質な素材なのだろう。

いずれは僕も、天然モノと同等の世界樹を創り出せるようになりたいものだ。


次は、部屋割りを決めていく。


土地の大きさ問題で横に広いギルドは創れそうにないので、階段を創り、三階程度の建物を建てることにした。


一階が受付、二階が待機室や素材格納庫、三階が酒場、というイメージだ。


諸国を渡り歩いた時に有名なお酒は記憶しておいたので、ボトルごと再現して数百本ほどストックを置いておいた。


「おいクラフト、これってもしやベルゼビュートじゃないか!? 超高級ブランドの酒だぞ!」


「こっちはアスモデウスだ! 悪魔の名が冠された酒は、それこそ王族や貴族しか飲めない代物のはずなんだが……」


そう言われると、少し不安になってしまう。

ちゃんと創れてはいるはず、なのだけど。


「うーん、僕も不安になってきたし、一応味見してみる?」


「「……い、いや、大丈夫だ」」


(……? あっ、そうか!)


確かに、昼間から酒を勧めるのは良くなかったかもしれない。

二人の表情から少し不穏なオーラを感じ取ったのは、多分それが理由だろう。

特にケインズは日中はいつでも動けるように備えておかなければならないし、今のは少し僕の行動が軽率だったかもしれない。

……反省しないと。


酒場、待機室、受付の建築が終わり、ようやく建物がギルドっぽい感じになってきた。


次は、看板を創る。

いくら内装が整っていようと、外から見て何の建物か分からないのなら意味がない。

そこで、色とりどりの色で着色された「冒険者ギルド」という文字の木彫りの看板に、剣と魔法の杖を刺しておいた。

これで、一目でどんな施設かわかるだろう。


「……なぁ、ケインズ。あの剣ってまさか」


「どうみても聖剣だな。あの杖も大賢者の杖のように見える」


「もはや何も驚きはねぇよ」


聖剣を見ても驚かないとは、流石だなぁ。

この武器を創るのはかなり苦労したんだけど、この程度では二人に肩を並べることはできない、ということか。

それでこそ、僕の兄弟だ!


「……よし、最後の仕上げだ!」


「俺の目ではもう完成したように見えるが、まだ何か創るのか?」


「建物としての形は出来てきたけど、これじゃあまだ普通のギルドと何ら変わりはない。まだまだこれからさ」


((ミスリルと世界樹を使ったギルドが普通なわけ無ぇだろ!))


二人はそう思ったが、それを口に出すような真似はせず、じっとその様子を見守った。


僕は風の魔石、火の魔石、水の魔石を創り出し、それを箱型の物体の内部に取り付け、天井に埋め込んだ。

これは、年中暑い国「ボルケイノ」と、年中寒い国「フリーズ」から着想を得たものだ。


魔力を込めることで、冷たい風、または暖かい吹き出す装置。

ボルケイノでは「えあこん」と呼ばれていたものだ。


次に、ギルドの屋上に魔法大砲を作った。


僕が目指すのは「万能なギルド」。

このギルドに籠城して戦える、くらいの仕上がりにしたいというのが本音だが、いくらなんでも流石にそれは厳しいところがある。

この魔法大砲もかなり妥協して創ったものだ。


……この世界にはかつて、大賢者と呼ばれた男が居た。

その男の魔法は百発百中で、どんなに離れた場所からでも命中させることができたという。

僕はこの文献から着想を得て、擬似的に彼の魔法を再現できる装置を創った。


使うと「追跡魔法」を習得できるスクロールを、魔力を込めると極大魔法「晴天の霹靂」が放たれる魔道具と合成したのだ。


……スクロールは、本来人間にしか効果を発揮しない。

しかし、僕が偶然見つけた失われた古代の機械《オーパーツ》「闇鍋」の力により、それを可能とした。

「闇鍋」を見つけたのは、確か、魔王城の造りを見学した帰り道だったっけ。


それを、5台。

これ以上は、僕の魔力がもたなかった。


本当は、地下に菜園を作ったり、冒険者が自由に使える武器庫なんかも創りたかったのだが、なんとも情けない話だ。


「これ以上は僕の魔力が限界だ。やっぱり、僕は二人の足を引っ張ってばかりだな」


そう言って、僕は弱弱しく笑ってみせる。

……二人の表情は、微動だにしていなかった。


(なぁ、トミー。これ、クラフト一人で魔王倒せんじゃねぇの?)


(余裕だろ。かつての大賢者が封印できたくらいだし、お釣りがくるくらいだと思うぜ)


(……だよなぁ。俺、冒険者引退しようかな)



そんなトミーとケインズの会話は、クラフトの耳には届いていなかった。


それを知らないクラフトは、また二人を怒らせてしまったのではないか、と、肝を冷やしていたのであった……

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