逆転生JKの憂鬱
平行宇宙
第1話 入学式
「・・・であるからして、この良き日に・・・」
壇上で見慣れたおっさん=校長が、いつにもましてご機嫌にしゃべってる。
俺の両横には同じ顔をした女の子。
不思議?
いや、単なる双子。
ここは、私立京央学園高等学校入学式会場。今日から俺もJKってやつだ。
JKって女子高生?なんで俺?俺ッ娘か?ってか?
そういうわけではないんだが・・・
俺の名前は吉澤詩音。さっきも言ったが今日から高校生になる。
この京央学園ってのは、そこそこ歴史ある小中高大一貫教育の学校で、俺は小学校からこの学校に通ってる。両隣の双子ナコとミコも小学以来の、まぁ幼なじみというか親友、って彼女たちは言ってる。
うちの学校は私立ってこともあって、自由な校風が売り。自主独立をモットーに、この入学式の席だって、好きなところに着席可だ。
俺としてはどこでも良かったんだけど、登校早々二人に捕まって、両脇固められてここに着席させられた。詩音はすぐにどこかへ行っちゃうから捕まえとかなきゃダメなの、とか、まぁ、とんだおせっかいの二人だ。
だが、これもまぁ仕方ないのかもしれない。
あの日、二人は俺と一緒にいたのだから。
そう、あの日。
俺は10歳のとある日に、とんでもないことを思い出した。
そう、俺が、心の中では『俺』と語ってしまうきっかけになった事件。
ある日のこと。
俺は自分の前世を思い出したんだ。
******************************
荒涼とした砂漠のような不毛の大地。
そこに建つこの城がボロボロの様相を呈するのは、俺たちが暴れたせいだ。
俺たち。
そう。
人類の希望。
最強の盾使いベリオ。35歳。頼れる俺たちパーティのリーダー。俺たちを招集したテレシアン国の英雄的な騎士の1人。
暗術使いナオル。28歳男。頼れる斥候にして、罠や毒の専門家。隠密とスピードの頼れる兄貴。
バフ術師リーゴ。21歳女。俺たち仲間にバフをかけ、敵にはデバフ。場を支配する天才。お嫁さんになるのが夢な、おしゃべり好きの姉さん。
黒魔術の天才マリーブ17歳女。パーティの最年少で引っ込み思案。攻撃系魔術は全属性をしかも特大魔術まで使っちまう。成人前から有名だった。
白魔術師サーミヤ王女、19歳。天女だ女神だと崇めたてられるテレシアン国の王女。純情そうな見かけと裏腹に、旅の間俺の貞操を守るのが大変だったじゃじゃ馬。
そして俺、シオン。男、19歳。偶然にも今と同じ名前。一応剣士。マリーブがいなきゃ魔術師を名乗れるぐらいには魔法も使う。奇術師なんて言われたこともあったが、まぁ、このパーティの攻撃の要。
そんなパーティでここ、魔王の城にやってきたのは、俺たちの世界アレクシオンの神である、女神アレクシーのお告げがあったから。
お告げはテレシアンの誇る姫巫女が受けたという。
サーミヤ王女の姉、だそうだが、巫女になったときに、俗世との関係を絶つとかで名前は、ない。単に姫巫女。神殿から一生出ることはない、と聞いた。
お告げは、魔王討伐の要請だった。
ご丁寧に、討伐メンバーのご指名付だった。
そのメンバーが先に挙げた6名。テレシアンの騎士ベリオと王女サーミヤを除いて、他はそこそこ有名な冒険者だった。4人の冒険者は、俺も含めて、別々の国から招集された。お互いに会ったことはなかったけど、そこそこ有名人で名前だけはお互い知っていた。特に当時俺は歴代最年少のS級冒険者として名を馳せていたこともあって、俺とパーティを組むなら、と、みんな集まってくれたんだ。といっても、この要請を断るなら冒険者証を返還せよ、なんて脅されたこともあって、やむなく了承したんだけどな。
まぁ、みんな気の良いヤツらで、討伐の旅はそこそこ楽しかった。
どこへ行っても、ありがたがられ、魔族たちとの戦いもヒリヒリとした生きてる、って感じが、楽しかったってのもある。それに人助けして、感謝されるのだって、こそばゆくも嬉しかったんだ。
俺たちは、日に日に激しく、辛くなる戦いの日々に疲弊しながらも、誇りと、人々の感謝を受けて戦った。
戦いに戦って、ついにここ魔王の住む本拠地までやってきた。
出発してからすでに4年の歳月が流れていた。
目の前には最強魔王。
桁違いの魔力に、なんとか怯える足を押さえつける。
ここにくるまでに、ナオルは死んだ。
誰よりも素早いナオルは、魔王配下の将軍の攻撃から、自分の身を使って俺たちを守ったんだ。
俺の前に立つのは大盾を掲げたベリオ。
すでに立ってるのもやっと。
後方ではリーゴとマリーブが魔力切れを起こし倒れている。それをサーミヤの結界でかろうじて守っているが、彼女だって魔力はもうないだろう。
次の攻撃で決める。
俺だって、満身創痍。なんで立ってるのか、もう意地だけだ。
その時、魔王がビームのような光線を発射した。
全身で盾を繰り出し、光線をずらすベリオ。一歩踏み出し、そのまま崩れ落ちる。
俺はその影から飛び出した。
魔法を放ったあとの一瞬が勝負だ。
ありったけの魔力で炎に雷を纏わせ叩きつける。と、同時に抱えた剣を俺の体ごと奴にたたき込んだ。
自分の魔力で作った火や雷は自分を傷つけないはずなのに、なんでかなぁ、しびれるし熱いや、そんなことを遠くに思った気がした。
気がつくと、俺は、豪華な部屋で、ふわふわのベッドに寝かされていた。
魔王城の決戦から5日も過ぎていたらしい。
ナオル以外は、後詰めをしていたテレシアン軍により回収されなんとか一命をとりとめたそうだ。
あのとき、サーミヤはなんとか意識を保っていたし、魔力切れの二人は、一晩寝ることで回復、ベリオも3日で目覚めたらしい。
5日後。
凱旋パレード。
生き延びた俺たちは、首都を練り歩き、賞賛され、いつまでも続くかのような祭の最中にいた。
俺は、ナオルの短剣を胸に、無事任務を達成できたという誇らしさと、目標がなくなったむなしさ、そして、ナオルや散っていった知り合いのことを思いつつ、手を振っていたんだ。
と、良かったのはそこまでだ。
パレードが終わり、三日三晩続いた宴も終わったその夜、俺に貸された客間にサーミヤ女王が現れた。
ほぼシースルーの寝着で、男の部屋にやってきて、自分の婿になれ、そう言って迫ってきたんだ。
道中も、俺に何度も襲いかかろうとしたけど、あのときは冗談だと思ってたし、仲間がいつもエロヒメ~とか言いながらも引きはがしてくれた。
普段はいいやつなんだ。いや、いいやつだと思っていた。
すごい回復術の使い手で、死んでさえなけりゃ大概は元通り。
おふざけでひっついてくるのは辟易したが、ひいきめなしにすっごい美人で、スタイルだって良い。俺も元気な男だ、悪い気はしない。だけど、そのとき俺は、その、経験もなくて、しかも好きな女がいたんだ。2つ年上。いつも軽口、悪口を言い合う気安い姉さん。もう2年以上も俺の目にはリーゴしか映っていなかった。
だから道中も、そしてその宴の夜も、俺は決してサーミヤを受け入れることはなかった。そもそも身分が違うだろ?S級冒険者なんて、結局は平民の荒くれ者なんだから。
「私じゃダメなの?リーゴはナオルのこと・・・」
「知ってるさ。」
「死んだら自分のものにできる、とか思ってるの?」
「ハハハ。そんな奴だったらなぁ。まぁ、そんな奴なら俺も好きになってないさ。」
「だったら。」
「なぁ姫様。そもそも俺たちは身分が違うだろ?」
「あなたは勇者、英雄よ。身分だって問題ないわ。私と結ばれたら、アレクシオン最大の国の王になれるのよ。」
「・・・興味、ないな。俺には冒険者が似合ってる。」
「・・・・どうしても?」
「ああ。どうしても、だ。」
そう俺が言うと、彼女は下を向いて唇を噛んだ。
彼女の口からツーッと赤い血がしたたり落ちて、俺は驚いて彼女の肩を揺すった。
「であえ、であえ!反逆じゃ!!」
突然狂ったように叫び出す彼女。
間髪を入れず流れ込む幾多の騎士。
その中にはベリオもいて・・・
訳も分からず、俺は地下牢にいた。
壁から吊された鎖に両手を拘束され、完全に座ることも出来ない、そんな状態で何日経ったのだろうか。
一度見知った顔の兵士が牢番に来たとき、教えてくれた。
俺は、俺たちは、強すぎる、と。
だから、この国に結びつきを強くするために、女や男、地位や名誉をちらつかせたのだそうだ。
本当は俺も叙爵されてこの国の貴族となり飼われる予定だったという。
だが、王女のたっての希望で自分の婿に、と望んだそうだ。
俺が受けたら、それで良かった。
だが断ったら、貴族として顔を合わせるのもいやだ、そう告げた王女は、父である王に今回の褒美として、俺が婿になるか殺すことを望んだらしい。
娘を愛する父はそれを認めた。
そもそも貴族になることを拒んだ者は、後顧の憂いを絶つために冤罪ででも殺害予定だったのだそうだ。
こうして俺は、処刑されることになった。
なんと、その罪は、王女を襲い、その貞操を奪って王位を簒奪しようとした、という謀反の罪らしい。
マリーブ、リーゴの二人も貴族になることを拒否した。
俺の話を聞きかじり、怒りを表したのだという。
二人も俺と共謀して国家反覆を計画したとして、投獄された。
そして数日後。
俺たち3人は仲良く、断頭台の露と消えた。
******************************
とまぁ、こんなことを一瞬に10歳の俺、吉澤詩音は思い出しちまったんだ。
子供の妄想?
19年のそこそこ濃い人生まるまるを?
普通ならそう思うだろうな。
実は俺も思った。
10歳の思考じゃなく、19歳の思考で、な。
ただな、俺が思い出したのは、それだけじゃない。
死んだ後のこと、そこで会った奴、そんなことも思い出し、それと、どうしようもなく、前世が真実だ、ということの確認を、俺自身でしちまったんだ。
この世界の人間が持っていない、そんな方法で、確認を。
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