第9話 天才の一番弟子

私は小松からバドンを受け取る。

今日の私は気合いの入り方が違う。

今日は本番じゃないけど、リベンジマッチだ。


「第2班、準備をしてください」


と能登さんが声をかける。

私はキッチンの前に立つ。


「よし……やるよ! みんな!」


私が声をかけると"金沢リゾート"の人達はニコッと笑う。

私はマグロも捌けないクソ板前かもしれない。

でも……天才の一番弟子だ!


「マグロの刺身60食分、制限時間60分、調理開始!」


と能登さんが声をかける。

私たちは一斉に動き出す。

まな板の上にマグロを乗せる。

今から私がやることは小松がやったことと何も変わらない。

言ってしまえば小松と私の料理の実力もあまり変わらない。

ただ1つ、違うことがあるとするのならたった1つ……。

私は"女"で小松は"男"だ。

女で魚を捌くのはとても難しいと言われている。

刃を入れることすらできない人もいるらしい。

それは力がないからだ。

みんなが心配してこっちを見ているだろう。

でも……私はやるんだ! 

私は一瞬でマグロの頭をズバッと切り落とす。

みんなが驚いた顔をしていた。


「ありゃ相当頑張りましたね」


と小松が言う。


「今まで数々の女性板前を見てきた。もちろん輪島より料理が上手い人だっていた。だが、マグロの頭をあんな簡単に切り落とせた人は見たことがない!」


と能登さんが言った。

まだまだ序盤だよっ!

私は5枚下ろしの工程に入った。

無事、失敗せずに終わったが30分もかかってしまった。

まずい……間に合わないっ!

やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!

やばい!

いや……焦っちゃダメだ。

またあの時の二の舞を演じる訳にはいかない。


「ふぅ……」


とゆっくり深呼吸をした。

私はもう一度包丁を持ち、マグロの赤身を切り始める。

私は10分でその工程を終わらせた。


「すごいですね、あの速さは」


と小松が能登さんに声をかけた。

能登さんはうなづいた。

私の作業は終わり、その後"金沢リゾート"の人達も調理を終わらせた。

私たちは10分時間を余らせて調理を終えた。


「輪島! よくやったな!」


と能登さんに褒められた。


「だって、私は能登さんの一番弟子ですよ?」


と答える。


「俺の一番弟子は誇らしいのか?」


と能登さんが尋ねてきたので私は、


「当たり前です!」


と答えた。

すると能登さんの目つきが急に真剣になって、


「そんじゃ、見ておけ!」


と笑った。

能登さん率いる第3班の番だ。

1時間あったが、能登さんはマグロを5分で捌き赤身を切るのも5分、"金沢リゾート"の人達のサポートもして30分で90食分を作ってみせた。

私と小松は驚き過ぎて声が出なかった。


「よし! それじゃあ今日は解散です!」


私たちは全員調理を成功させた。

そして私たち3人だけになった。

小松はさっさと帰り、私と能登さん2人になった。

すると能登さんは棚からノートを取り出して何かを書き始めた。


「能登さーん? 何書いてるんですか?」


と私が聞くと、


「ああ、ただの日記だよ」


と答えた。


「へー、そんなの書いてるんですね」


という会話が続いた。

すると能登さんが私に、


「お前明日空いてるか?」


と尋ねた。


「明日さー、予約が入ってないから暇なんだよ。ちょっと出かけないか?」


と能登さんは続けて私に尋ねた。

私は喜んで、


「はい、行きます行きます!」


と答えた。


「小松も誘おうかなと思ったが、アイツ明日予約がないことにいち早く気づいて、ゲームやるとか言ってんだよ、おかしい奴だよな」


やっぱ頭おかしい後輩だなと思った。

そして私と能登さんの2人っきりのデートの予定が入った。

2014年8月11日。

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何度だってあの花火を コーマ11 @koha0709

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