第7話 Fireworks

「よし!やるぞ!」

と能登さんが声をかける。


「はい!」


私と小松が返事をする。

今日のメニューはすき焼き。

私は野菜を切る。

ねぎを斜めに大きく切り、能登さんに手渡す。


「ありがとう」


と声をかけられ、私はうなずく。

そして28食分のすき焼きが完成した。

私は米を茶碗に盛っておぼんに乗せた。


「よっしゃ! 完成っ! お前ら2人とも成長したなぁー! スムーズに行ったぞ」


と能登さんが言う。

小松も私も、


「ありがとうございます」


と返事をする。

小松も影で努力しているのだろう。

するとまた能登さんが、


「輪島! どうせ見に行きたいんだろ?行くか?」


私はすぐになんのことか察して、


「はい!」

と答える。

小松はなんのことか全く理解してない様子で頭の上のハテナが丸見えだ。


「どこ行くんすか?」


という小松の質問に能登さんはめんどくさそうに、


「ったく! 行くぞ!」


と無理矢理小松を連れて行く。

私たちは旅館の玄関を出て、街を歩く。

加賀の街は綺麗で、いつ歩いても感動する。

すると急に小松も察した感じで、


「あ……。」


と言って笑う。


「なんだなんだ?やっと分かったか?」


と能登さんが言う。


「いやぁ、さすがにまだ1回しか行ったことないですからねぇ〜、危なかったっすよ」


私たちが今向かっているのは柴山潟。

日本海近くにある広がった河口で、眺めも良い。

そのためこの柴山潟の周りには明誠荘合わせてざっと15個のホテルが立っている。

明誠荘も柴山潟沿いに立っているが、明誠荘の玄関からは少し歩かなければいけない。

私たちは柴山潟の水に触れられるくらいの所に来た。

そこには誰もいないが、たまに人が散歩で通ったりする。

すると能登さんが立ち止まって、


「輪島が来て2年、小松が来て1年。いろんなことがあったな、俺がしばらくの間活動できなかったこともあったな。」


それを聞いて小松が、


「ありましたねぇ」


と言う。

能登さんは8ヶ月前、大腸がんが見つかっている。

見つかるのが早かったことと能登さんの体が強かったこと、そして大腸がん自体治りやすいがんだったことなどがあり、無事に治っている。


「あと、小松が女将さんに怒られたこともあったな。」


と能登さんが言ったので、私はすぐに突っ込んだ。


「ありましたねぇ!」


小松がなぜ女将さんに怒られたのか……、私は詳しいことは知らないが小松が客にキレたみたいなことだった気がする。

すると小松がやり返すかのように、


「輪島先輩は料理が上手くできなくて泣いてたこともあったっすよ!」


コイツは痛い所を突いてくる。

私は恥ずかしくて顔を両手で隠す。

すると能登さんは、


「つい最近のことだなぁ」


と言った。

続けて、


「料理はやってて楽しいか? お前ら!」


と聞いてきたので、私と小松はやっぱり口を揃えて、


「はい!」


と言う。

その後能登さんは、


「それは良かった……。」


と言って柴山潟の真ん中を見て、私たちに背を向けた。

その瞬間、柴山潟の真ん中で水が吹き上がる。

柴山潟大噴水と呼ばれる噴水だ。

そしてそれを合図に、火の玉が空へ上がっていき、パッと開く。

一瞬の時間を空けてバンッと音が鳴った。

能登大輔という男の背中と共に光る花火はとても綺麗で感動した。

能登大輔。

私は何回だってあなたを見た。

そしてこれからも何回だってあなたを見る。

でも見るだけじゃない、一緒なんだ。

私は静かに能登さんの後ろから能登の横へ移動した。

能登さんの横で見る花火はもっと綺麗に感じた。

能登さんはただ静かに花火を見つめる。

私は下を見て考えていた顔をもう一度あげる。

能登さんと、小松と、料理がしたい。

たったそれだけの思いを胸に……。

それほど大きな思いを胸に……。

2つの花火がパッと咲いた。

2014年8月8日。

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