第6話 Go my way

2008年5月。


「輪島! いい加減早く進路を決めてくれ! もう3年なんだぞお前は!」


そんなこと言ったって……。

やりたいこともないし、やりたいことを簡単にできるほどの学力もない、顔もそこそこだし。

私は高校3年の春、進路が決まらずに明け暮れていた。

しかし両親は私を絶対に責めなかった。

家に帰って、両親と真剣に進路の話をする。


「ごめんね美香、今まであなたに魅力を感じさせることをやってこなかった私たちが悪いのよ。」


とお母さんは言う。


「何かやってて楽しいことはないのかい?美香」


とお父さんが優しく尋ねる。

私は首を振る。

別に死にたいわけじゃない、人生生き詰まってる訳じゃない、ただ一生をかけてやりたいことが見つからない。

するとお母さんが、


「よしっ!そろそら晩御飯にしよっか!」


と声をかける。

私はいつも通りお母さんの隣に行って、具材を切り始める。

私は気づかなかった。

料理を楽しいと思っていたことに……。

あまりにもいつも通りの光景だったから。

あまりにも身近にあった存在だったから。

私は学校に行って授業を受けていた。

すると事務の先生が私のクラスまで来て、私を呼ぶ。


「輪島美香さん! ちょっと来てください」


私はなんだろうと思って廊下に出る。

先生が重たそうに口を開く。


「お母さんが交通事故にあって、意識不明の重体です……。」


「え?」


言葉が出てこなかった。

こんなにも自分の心臓の音が聞こえたのははじめての経験だった。


「病院に送ります。支度をしてください。」


私は急いで支度をする。

そして病室についた。

そこにはお父さんもいた。

静かに目を閉じているお母さんにお父さんは必死に名前を呼びかけている。


「香織! 香織!」


結局お母さんは目を覚さないまま、1日が過ぎた。

次の日、お母さんが目を覚ましたと言う情報が入り、私は急いで病院へ向かった。


「お母さん! お母さん!」


ガシャン! と勢いよく病室の扉を開けた。

するとそこにはニコッと笑うお母さんの姿があった。


「お母さん!」


お母さんが口を開く。


「ごめんね美香。心配かけて。」


涙が溢れた。

お母さんと二度と料理を作れないと思った。

お母さんともう生きられないかと思った。

しかし実際にお母さんと料理は二度と作れなかった。

病院の先生に言われた言葉はこんな言葉だった。


「お母さんの体はもう一生、車いすを必要とする体」


だそうだ。

私はお母さんの退院まで必死に料理を勉強した。

1人で作っている時も隣にお母さんがいることを想像した。

そして1ヶ月後、お母さんは無事退院した。

退院祝いでお母さんに何が欲しいか聞くとお母さんはこう答えた。


「1ヶ月もの間、1人で料理を作ってくれてたんでしょ?私、美香の料理、食べたいな……。」


と答えた。

私はキッチンの前に立って料理を作りはじめた。

私は偶然冷蔵庫にひき肉が入ってたのを見てハンバーグを作ろうと思った。

ハンバーグはお母さんの大好物だ。

私は今までの練習含めて一番出来の良い料理ができた。

そしてお母さんがハンバーグを口に入れる。


「さすが美香ね! 最高に美味しいよ。本当に美味しい……。」


と言ってお母さんは涙を流した。


「本当に迷惑をかけてごめんね、これからもごめんね。美香……本当に立派に育ったね、ありがとう……。」


私が立派に育ったのは誰がなんと言おうとこんなに優しい両親のおかげなんだ。

私が感謝される立場じゃない。

私が感謝する立場なんだ。

ありがとう。

私は1ヶ月間お母さんがいない間料理をして薄々気がついていたが、今日お母さんに褒められて確信した。

私は料理が大好きだ。

そして後日私は両親に相談した。

料理の道に進みたいと。

そして1年後私は専門学校に入学し、今では板前を務めている。

私は自分でこの道を歩むことを決めた。

自分で決めたんだ。

だから私は二度と諦めない。

二度と挫けない。

自分で決めたんだ道を行くんだ。

自分で決めた道を行けばいい。


Go my way

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