第2話 犬になりたいんですね?

「犬になりたいのですね。任せてください」


 この日、死猫は新たな依頼者を見つけることに成功していた。

 というのは少し誤りかもしれない。


 子供は死猫にとって狙いやすいターゲットだ。


 死猫が身体に溜まったエネルギーを発散する際、死猫のターゲットになる人間が、心から喜んだり、激しく混乱したりする方がより多くのエネルギーを消費できるため、死猫はなるべくその人間の希望や絶望に沿った影響を与えることにしている。


 そこにいくと子供は、見知らぬ人である死猫にも本音を言うし、大人と比べると快感情も不快感情もより強く感じるので、ターゲットとして最適なのだ。


「チワワにしてね」


 5歳くらいの男の子は、チワワになりたいらしかった。


 この男の子は、母親と公園に来ていた。男の子が母親から離れた隙に、死猫は黒猫の姿で男の子に擦り寄り、物陰へ誘い込んで、人間に変身して見せた。それには不思議な超能力を信じさせる目的もあったが、死猫は人間の姿でないと喋れないのだ。

 ここで男の子が怖がり逃げてしまったら、死猫は男の子から自身の記憶を消し、諦めているところなのだが、その日は運が良かった。


「チワワね。分かった」


 男の子の姿が、茶色い毛並みの可愛らしいチワワに変わる。


 死猫はそのチワワを抱き上げ……


「あのー、このチワワの飼い主さんはいませんか?」


 と、公園にいる人たちに聞こえるよう呼びかけた。


「あ」


 チワワは死猫の腕から飛び降り、自分の母親の元へ駆け寄る。


 このチワワは、5歳児の知能を持った犬ということになる。男の子は、5歳から永遠に成長せず、チワワとしての意識を持ちながら生きることとなる。


 「あれ、ゆう君……あれ、何言ってんだろ。犬がゆう君に見えちゃった。どしたの、迷子?」


 そう言って、”ゆう君”の母親は、チワワを抱き上げた。


 「可愛いね。飼い主さん、見つからなかったらウチ来る?」


 チワワはしっぽを振って彼女の頬を舐めていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る