第5話 常連客とイチゲンさん
「イチゲンさんお断り」
業種によらず、そういう店もありますね。
歯医者がコンビニよりも実は数が多いというお話、良くも悪くもどこかしこで聞かれるが、そんなことのよいわるいなど論じても無駄。10年ほど前、歯医者はコンビニの倍近くあるといわれていたが、最近はかなりその差を縮めてきたよう。それでもまだ、コンビニのほうが数は、少ない。
こうも表現できるでしょう。
コンビニは、歯医者ほどの店舗数を成り立たせるだけの業界ではない。
そりゃそうさ。「イチゲンさんお断り」なんてコンビニ、聞いたこともない。歯医者なら、それは、ありうる。実質開店休業のようなおじいさんの大先生だけの歯医者だって1件カウント。それに加えて、さして大規模化は望めない。幸いにも、「競合他社」は、ない。歯が痛くなって拝み屋に行く人はいるかもしれんが(苦笑)、そんな超極端な例は別だぞ。そこに来て、コンビニときたら、スーパー、ドラッグストア、自動販売機、その他もろもろの競合相手に恵まれまくっているでしょ。あ、デパートは、さすがに外れるとは思うけど(苦笑)。そんな中で戦っていくわけだから、そりゃ、思っているほど数は出ないのも無理は、ない。最近は駅や公共施設の売店として入ることが多くなっているから、それで数を増やせているというのはあるけど、それでも、歯医者は超えられるには至っていませんね。
さてさて、この酒屋さん、パチンコ屋の間の路地にひっそりと、しかも、大通りに面していない場所だから、一種の隠れ家的な場所にあるに加えて、酒を売るのと飲ませるのと、これまで述べてきたように、えらいコンパクトなシステムになっておりますけど、酒屋さんって、どう、競争相手。
この周辺をひとつの区画ととらえてざっと見渡してみても、居酒屋は沢山あるし、駅の売店もスーパーもデパートもコンビニもあるし、競争相手といえるものは、昔以上に山ほど、あります。だから、どうしてもそこに行かねば、という必然性は、客の側からして薄くなるのは当然。
ただ、この店の「立飲み」というシステムは、近隣の他の店にはない特徴。あ、商店街の中に、もう1件あるにはあるけど、そちらは料理なんかも出すところ。
それと比べてみれば、ちょっと立ち寄って1杯というレベルなら、案外、敷居が高くないといえばない店でもある。それに加えて、昔からの店でもあるし、昔からのお客さんも、皆さん高齢化してきているとはいえ、おられないわけじゃない。あえて料理も出さず(手間半端ないでしょ)、酒だけ、せいぜい乾きものがあるくらい。
このシステムの店は、近くどころか、岡山市内にはほとんどないといってもいいくらいなのよ。
それに、酒を買って飲むにしても、列車に乗ってとか、ましてやその辺で路上飲みとか、そんなことするよりも、ちょっとした場所で立ち止まって飲んだ方が、なんか、飲んだ気もするでしょうに。そこで店主さんと少しでも話ができれば、あるいはできないにしても、そこに人がいるだけで、なんか、落ち着くものじゃないですか。
それはもう、いい悪いの問題でもシステム云々の問題でもなく、人間の本質的なところに関わるところからくるものが絡んでいると思われるが、どうでしょうか?
となればそこには、常連さんもできるのは必然。最初はイチゲンだったとしても、気に入れば来るようになって常連化するし、気に入らなければ来ないだけ。
昔からの人はどうしても高齢化してしまってなかなか酒を飲みにわざわざというわけにもいかなくなって来られなくなってしまうのは、まあ仕方ないね。それは当選を積み重ねたもののそれに比例して年齢を重ねた政治家の事務所のスタッフ構成と同じようなものですわな。
だけど、政治家の事務所のスタッフ構成とはいささか違った趣を見せるのが、この立飲みの店。あくまでそこに立寄ってちょっと飲んで帰るだけだから、意外と、敷居は低いのよね、実は。だから、意外と若い人が立寄っていたりもするのよね。
この店に関する限り、常連さんとて、別にイチゲンさんを排除するような空気は一切ないし。
だけどだけど、やっぱり、最初に入るのは、気が引けるものがあるといえば、あるでしょう。
先日も、少し立ち止まって少し考えてから入って来られた出張客がおられました。
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