天帝の旅軍 ~孤高の戦姫と異世界の策士~
風
プロローグ
桜花
狭小な圏谷に逃げ込むしかなかった。
五千に満たない旅軍は三万の敵に追い詰められている。
剣や、弓で戦が行われる世界。付き従う兵士達は疲弊し、槍は折れ、兜は割れ、まともな兵士は半数にも満たず、玉砕の時を迎えるしかなかった。
******
「
「父上……」と言いかけた桜花は
「
野営している旅軍の中央の天幕で、荘厳な甲冑に身を固めた黄帝は、娘の桜花に鮮やかな装飾の短剣を渡した。
「桜花、そなただけがたのみだ。大魔法使いレムリアより授かった魔石の力により、並行世界に行き、ある人物を連れてきてもらいたい」
黄帝は、十四才の愛娘でもある桜花に最後の望みを託した形ではあるが、(形見にせよ)のようにも聞こえる。
「私も戦います! 」
桜花が涙目で懇願するが
「馬鹿を申すな。お前が最後の望みなのだ、それを承知せい! これは命令だ!」
突き放すような強い口調だが、自分を逃がすための算段だということくらい桜花も解る。しかし、強く断言された桜花は口ごたえできず、観念したように
「………ある人物とは」
「幻の軍師、
桜花は、ハッと顔をあげ
「隆聖は、伝説の第四軍の軍師……
「そう言われているが、遺体は見つからず。異世界に転移した可能性が高い」
「でも、どうやって見つけるのです」
「魔石は異世界に誘うだけでなく隆聖のもとへ導いてくれるだろう。時空世界を越える結界の門は小さく、さらに王族のみがもつ魔装のあるおまえにしか結界は超えられない」
魔装と言っても魔法の類ではなく、魔力に耐性がある体質、と言ったほうがよいのかもしれない。
しかし、隆聖とは突拍子もない話だ。かつて麗蘭国を救った伝説の軍師だが、もはや、生きているわけはない。やはり、自分を逃がす方便にしか聞こえないが、命令とあらば逆らえない。
さらに、黄帝は金音がなる重い袋を桜花に渡す。
「これは……」
「黄金は向こうの世界でも価値あるものだ。万一戻って来られずとも、これだけあれば、そなたが一生過ごすことはできよう」
「いりませぬ! 私は必ず、隆聖様を連れて戻ります! 」
涙ながらに、宣言する桜花。
その後、笑顔の黄帝に見送られ、桜花は魔石による魔法陣の中に消えていった。
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