第36話 一方その頃、暁の旅団は (8)

「お頭、馬車が一台やって来ました。それに護衛の馬が三頭」


 ランドルフたちの一団は渓谷となった崖の上に潜んでいる。

 その崖の下には交易のためにたっぷりと物資を詰め込んでいるであろう馬車が通っていた。


 俺は右手を掲げ、馬車が挟撃できると所まで至った所でその右手を振り下ろし――


「いけー! 襲いかかれー!」


 二手に別れた盗賊団、新生、暁の旅団は前と後ろからその馬車を挟撃する。


「盗賊だ! みんな応戦しろーッ!」


 人数は護衛三人と馬車の操縦士の四人のようだ。

 手下たちが次々と襲いかかる。


 護衛はその剣捌きからして大した事なさそうだ。

 精々、Dランク程度の冒険者だろう。


 手下が一人、二人と倒していき。

 最後の一人もその胸に剣が突き刺さって息絶えた。


「た、頼む。命は助けてくれ! 商店に戻れば、ここにあるのなんて比ではない物資とお金がある。その……」

「殺れ」


 俺はそう短く指示を送ると、商人は断末魔の叫び声を上げながらこの世を去る事になった。



「まあまあの収穫ね。あれだけあればしばらくは食べていける」


 野営の焚き火を隔てて向かい合うエリーがそう収奪物を評価した。

 物資は穀物に保存食、酒に少しばかりの金銭と転売の必要のない理想的な内容だった。


 暁の旅団は現在10名程の小規模盗賊団となっている。

 俺を頭に旗揚げメンバーとしてエリーも。


 暗黒世界となり、エデンバラ王国は滅亡。

 軍人だったものや一部食えなくなった者などは一部盗賊化している。

 カラカス都市などはその統治が機能しているが、支配層が完全に崩壊し、半ば盗賊のような力あるものが統治をおこなっているような場所もあった。


「まだまだ足りない」


 俺はそう言って酒を瓶から煽る。

 ケチな盗賊団で終わるつもりはない。

 混乱期の暗黒世界の現在。力あるものが強い世界。

 うまくやれば小国くらいは興せるかもしれない。


「お頭、物資の中にこんなもんが……」


 手下の一人が紙切れを一枚持ってきた。

 そこには。


 =================================

【光の教団があなたを救済】


 どんな人でも食料と寝床は保証します。

 光の教団、救済聖地のアーセルヘイムへお越しください。


 光神エストールの加護があらんことを

 =================================


 と明記されていた。


 胡散臭いなあと思ってみる。

 無償で人を救うなんて者にはろくな者がいないだろう。

 だがそこに記されている光神エストールの名に目が留まる。

 エストール…………これは確かオスカーが言っていた邪神の名前だ。

 同名の神? たまたまで……そんな事あるのか?


「この光の教団って有名なのか?」

「確か、最近有名になってきた新興の教団かと。有名になったのは暗黒世界になってからですかね」

「そうか、報告ご苦労」


 もしも、この光の教団が真に信仰しているのは邪神エストールだったら。

 この胡散臭い募集が、盲目の羊たちをおびき寄せる意図を持っていたとしたら。

 隠喩的に同胞たち、闇の眷属たちをおびき寄せる意図を持っていたとしたら。


 俺は闇属性の適正があったおかげで今もこうして生きている。

 暗黒世界になり力も上がった事は実感しているが、闇魔法に闇スキルなど情報が全くない。

 情報共有できる仲間を見つけたい。

 それに新興教団にうまく食い込めれば大きな権勢、力を得られる可能性がある。


「エリー、お前はオスカーから邪神の名を聞いていたか?」

「いえ、聞いてないけど」

「俺が聞いてる邪神の名はこの胡散臭い募集に書かれている光神と同じ名前だ」

「……それって」


 エリーは再度、募集のその紙を確認している。


「同じ神の名前がたまたまなんてありえるの?」

「分からんが、もしかしたら邪神の名を知っている者たちへの、隠喩的な知らせかもしれん」

「じゃあ……行ってみる?」

「ああ、そうだな」


 俺はそう答えるとまた酒を瓶から煽った。

 そこに行き同じ闇の眷属を見つける事ができれば、情報やもしかしたら力も得られるかもしれない。


 ランスたち一団。

 最終的にオスカーすらも打ち倒したその実力。

 それは間違いないもので今の自分では到底敵わないだろう。

 奴らをいつか打ち倒し、思い知らせる事が今の俺の一つの目標でもあった。


 最後に会った時のランスが俺に向けたあの見下した目。

 ミミとソーニャ、そして、貴族のクリスティンからの俺への罵詈雑言の数々。


「……いつか見てろよランス……」


 その目には静かに燃える焚き火の炎が写っている。

 俺はそう呟き、また酒瓶を煽ってその熱い液体を喉へ流し込んだ。




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