第27話 神聖騎士団

「ふぁーー」


 大きなあくびがでる。

 眠気まなこで宿の食堂にて朝食をミミとソーニャと一緒にとっている。

 今日は朝一で神聖博物館に向かう予定だった。

 さいの期限まで後、残り二日。

 昨日のシュラウドたちに絡まれた遅れを取り戻さないといけない。


 すると遠くから爆発音が聞こえてきた。

 爆発音が聞こえてきた方角は西。

 神聖博物館などがある方向だ。

 すぐに外に出て確認すると噴煙も上がっている。

 そしてその噴煙の位置は神聖博物館の辺り。

 何かあったのか!?


「ミミ、ソーニャ、すぐ向かおう!」


 俺たちは素性がばれないように仮面を被ると、すぐに走って神聖博物館へと向かった。



「はあはあ……、一体なんだこれは?」


 神聖博物館につくとそこには巨大な魔物と宙に浮かぶ魔術師。

 そしてそれに対峙するのは三公オスカー = ヴィルヘルムの子飼い、ブルーノの姿。

 俺たちと同じように仮面をつけていて、顔はよく分からないがその装備から間違いないだろう。

 一体何があったんだ!?


「グルォオ゛オ゛オ゛ーーッ!」


 魔物は俺たちの姿を確認すると、その口から咆哮と共に黒炎を吐き出してきた。

 俺たちはそれを瞬時にそれぞれかわす。

 そしてまずミミが、巨大な魔物に踊りかかっていった。

 ミミはジャンプし、魔物の胸部へその拳を繰り出していく。

 それを魔物は腕を交差して防ぐ。

 凄まじい衝撃音と地響きが辺りの轟く。


 ミミのその体は闘気術によって、薄っすらと目視できる白の闘気のオーラによって覆われている。

 だがその攻撃をあの魔物は防ぎ、ダメージもないように見受けられる。

 随分と強敵のようだ。


 魔術師の方はブルーノとやりあっている。

 先程からお互い高度な魔術の応酬をしている。

 魔術師はこちらを振り向いたと思ったら――


『サンダガ!』


 俺たちに向かって雷撃魔法を繰り出す。


『プロテクトシュルター』


 俺は瞬時に防壁魔法を構成して、その雷撃魔法を防いだ。

 どうやらあの魔術師も敵という事でよさそうだな。


「ランス様、あの魔術師なんですが、なんらかの呪いにかかっているようです」

「えっそうなのか? じゃあ、その呪いを解呪することはできる?」

「うーん、成功するか分かりませんがやってみますね」


 そういうとソーニャは解呪魔法の詠唱を始めた。

 聖魔法なのだろう。術式を構築していくに従ってソーニャから光の粒が漏れ出している。


『シャイニングヒール』


 眩い光が魔術師を包み込む。

 魔術師は苦痛の叫びを上げ、解除魔法は効いているようであった。

 その時、宙に浮かんでいた魔術師が下に何かを落とした。

 なんだろう。黒い何かの塊のような。

 ブルーノが急いだ様子でそれを拾っている。

 そしてそれを拾ったブルーノは一目散にこの場から逃げ出した。


 今まで戦っていて、有利な状況に傾いているのになぜ突然逃げる?

 さっきブルーノが拾っていたあの黒い塊。

 書籍程の大きさだった。もしかしてあれが大奥義書か?

 その結論に至った俺はすぐにブルーノを追おうとするが――

 いきなり俺の右足に巻き付いてくる何か。

 その何かの先を確認すると、それはさいの参加者のミネルバの鞭によるものだった。

 ミネルバは仮装大会に出るかのように申し訳程度の変装をしていた。


「坊や、どこに向かおうとしてるの? お姉さんがきたから遊んであげる」


 ミネルバは素肌がむき出しになった腹部と、スリットからはみ出ているその美脚を見せびらかしながら俺に言った。

 さいのときと同じ格好だ。この服装がミネルバの正装のようなものなのだろうか。


 ミミとソーニャはそれぞれ戦闘で手がふさがっている。

 ブルーノを追いたいが俺が相手をするしかないな。


「あいにく、今、立て込んでいるんだけど今度にしてくれないかな」

「あら? お姉さまのお誘いを断る気? 悪い子ねぇ。じゃあ遊ぶではなくて調教する、にしましょうか」


 そう言うとミネルバは俺の足に絡みついた鞭を一旦、自身の方へ引き寄せ。

 縦横無尽に鞭を自身の周りで巡らせる。

 その鞭が動く様はまるで生き物のようにも見える。

 おそらく自分の手足のように自由自在に鞭を操る事ができるのだろう。


「坊や、あらゆる武器で最も攻撃スピードが早い武器ってなんだと思う」

「……なんだろう……弓とか?」

「ふふふ、そう思うわよね普通は。違うのよ。鞭なのよ最速の武器は」


 ミネルバは巡らせる鞭のスピードを上げる。

 鞭が空を切る音はヒュンヒュンという音から、ビュンビュンという音に変わっていく。


『百火撩乱!』


 発動したその鞭スキルによって連続的に鞭が音速を超えた音が、バンッバンッバンッバンッ!

 と瞬間的に発生し、俺にその鞭の攻撃が一気に迫ってくる。


瞬神しゅんしん


 俺は瞬神によってその攻撃を難なくかわした。

 早いと言っても瞬神の敵ではない。


「え? 坊やが何人も……。傷ついていない……か、かわした……の?」


 信じられないといった様子でミネルバが言う。

 彼女の目には俺は疾すぎて残像のように写っていたようだ。


「今まで誰にもかわされたことがないのに! こんな坊やに! アーボンこっちにおいで!」


 ミネルバがそういうとさいの時に見た、アーボンと呼ばれたゴリラみたいな男が現れた。


「俺来た、何する?」

「あの坊やを痛めつけておやり。坊や、スピードは少しはあるみたいだけどね。その体格ではアーボンのパワーには到底敵わないよ」


 アーボンはそれを聞くと俺と対峙する。

 確かに力では勝てないかもしれないけど、それだけで勝てない理由にはならない。


 その長い両手を横に広げてアーボンは俺に迫ってきた。

 捕まえれば勝てると思ってるのだろう。

 俺はあえてその懐に飛び込む。そして――


瞬神しゅんしん


 俺はアーボンのそのボディに拳撃を何発も打ち込む。

 スピードはイコール威力だ。


 ズズズズズズズドドドーーーンッ!!


 アーボンは俺のその拳撃によってあっさりその場に崩れ落ちた。

 え? 弱くないか……。


「えっ!? やられたの? アーボン? 一体何をしたのよ坊や!」


 さて、残るはミネルバだが、彼女は曲がりなりにもレディーだ。

 攻撃を加える訳にはいかない。さて、どうしたものか。

 そういえば前にソーニャが……。


瞬神しゅんしん


 俺は剣によってミネルバの衣服を斬って剥ぎ取る。

 上半身、下半身ともに後少しで見えそうな状態にまでしてやった。


「きゃあッ! 何よこれ!? いつの間に……坊やの仕業?」


 ミネルバは驚き慌てふためいている。

 よし! このまま戦闘不能か、と思ったら。


「なんだ、お姉さんの見たいの? なら最初からそう言ってくれればよかったのに……ほら! こっちもほら! ああーいいわぁーん、その熱い視線!」


 ミネルバの辞書に羞恥心という言葉はないようだ。

 かえって興奮させたみたいだから逆効果かもしれない。

 そうこうしていると遂に。



「何をしているお前ら! ここは神聖教徒王国だぞ!」


 銀色に輝く魔への耐性がある銀製の鎧をそれぞれ装備し。

 片手には長い円柱形式で先が尖った独特の槍を携えている。

 世界に数ある騎士団の中でも最強クラスと謳われる騎士団。

 神聖騎士団だ。


 10名くらいいる。

 このまま戦闘が長引けばもっと増えるだろう。


 その騎士団の中でも、一際目立つ黄金に輝く鎧を装備した騎士が前に出てきた。

 その騎士に対してミミと戦っている巨体の魔物が踵を返して向かっていく。

 見ただけで強敵だと認識したのだろうか。


「グルォオ゛オ゛オ゛ーーッ!」


 咆哮を上げながら向かってきたその魔物に対して、騎士は槍を構えてその槍を前方に突き出したと思ったら――


 ボンッという音と共に魔物の体に大きな風穴が空く。

 余りにも早すぎ、そして、高威力なその攻撃に魔物もすぐに自分の体に風穴空いた事に気づかなかった。

 そしてその連続突きを騎士は繰り出す。


 ボッボッボッボッボッボンッ


 槍の攻撃により頭部が消え去った魔物はその場に崩れ落ちた。

 つ、強い……!



『サンダーボルト!』


 宙に浮かぶ魔術師によって今度は雷撃の雨が騎士たちに吹き荒れる。

 しかし、その雷撃の攻撃は黄金の鎧を来た、騎士が掲げた槍に吸い込まれるように吸収された。

 神聖騎士団の団長とかだろうか。

 魔法も効かないなんて圧倒的な強さだ。


 ここで騎士団の彼らに捕まり拘束されると、さいの致命的な遅延になる可能性がある。

 ここは逃げなければ。


瞬神しゅんしん


 俺はミミとソーニャを両脇に抱えて、急いでその場から逃げ出した。


「あれ!? 坊やたちは……?」

「ん!? どこにいった奴らは?」




「はあはあ……」


 居住区のはずれまで逃げてきた。

 残されたミネルバたちと魔術師がどうなったかは分からないが。

 おそらくあの強さだ。騎士団に拘束されただろう。或いは……。


 ブルーノはすぐにエデンバラ王国に戻ると思われる為、すぐに俺たちも向かわなくてはいけない。


 その時、傍らにいるミミとソーニャから――


「ちょっとご主人様どこ触ってるんですかぁ」

「ほんとですー」


 えっ? なんだろうと手に意識を向けてみると。

 なんとその手はミミとソーニャのその胸をわしづかみにしていた。


「ご、ごめん。急いでたから余裕なくて気づかなくて」


 おれはすぐにその手を離す。

 が手には柔らかなその感触がまだ残っていた。

 また自然と顔がニヤけてしまう。


 ミミとソーニャを確認すると怒っている様子はなさそうだ。

 というより頬を上気させ、何やら様子がおかしい。


「ご主人様、胸を揉むなんて責任とってください!」

「そうです、私たち妊娠しちゃいますー」


 なんで胸を揉んだだけで妊娠するんだ。

 二人とも俺に抱きつき、体をすり寄せてくる。

 なんだ……もしかして、二人発情した? 

 いや、二人のその擦り寄せられる体の柔らかな感触はうれしいが。

 こんな事してる場合じゃないんだけど……。


 空を見上げると、ワイバーンに乗った一人の男が大空を滑空している。

 おそらくあれはブルーノだろう。

 あいつにはきっと俺たちのこの様子がその目に写っているはずだ。

 一体どんな風に写っているんだろう?


 大空をたなびく雲を超えていくそのワイバーンが、俺の目には特別眩しく見えた。

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