第19話 驚愕のその才
「さて、それじゃあ、まずは魔力の巡りから見ていくかの」
魔力の巡り?
なんだそれは?
ベイリーに連れてこられた所は、正に荒野だった。
草木一本も生えていないような岩と砂場で、荒涼とした大地が広がっている。
「まあ、魔力の巡りと言葉でいっても分からんか。手の平をこちらに向けてみろ」
俺は言われたとおりにする。
「よし、それではわしの方から魔力を流すぞ」
ベイリーは俺と手を合わせると、俺に魔力を注ぎ込み始めた。
なんて言ったらいいだろうか。
ベイリーの手を通して、確かに俺に魔力を注ぎ込まれているのを感じる。
普段は感じ取れない血流の流れを感じるというか。
今まで感じた事のない、不思議な感覚だった。
「よし、魔力を注ぎ込んだのを感じたな。それを自分の中に巡らせてみろ」
俺はその注ぎ込まれた魔力が、全身を巡っていくイメージをする。
手の先から胸、腹、頭、足、そして足の先まで。
するとその巡りは血液の巡りが感じられるように確かなものとして感じられ、また増幅しているかのようにも感じられた。
ミミとソーニャは俺の方を驚いた表情で見ている。
(たったこれだけで魔力の巡りをマスターするとは。こやつ驚いたわい)
ベイリーはそう思うが、それは口には出さずに言う。
「その調子じゃ。今、お前は魔力の巡りができている。お前が本来持つ魔力が発露されて、わしが注ぎ込んだ魔力よりも増幅しておるわ。あっちの二人には今、お前は魔力のオーラを、強烈に発しているように見えておる」
そうなのか。俺が本来持つ魔力が発露。
でもやろうと思えば、もっともっと巡りを強くする事もできる。
ちょっと巡りを強くしてみよう。
すると、ミミとソーニャから見えていたランスのオーラは、今では、巨大な一つの火柱のようにランスから立ち上っていた。
(予想をしていたとはいえ、ここまでとは……。わしはとんでもない化物を起こしてしまったのかの……)
「魔力の巡りはもう、そのへんで良い。あくまで魔法発動の前段階じゃからの」
俺はそう言われて、魔力の巡りを止める。
「つぎに、そうじゃの。火属性の基本。ファイアーボールから教えるか」
ベイリーは手提げから、何か書物を取り出した。
「これは魔術書じゃ。下級から上級まで一通りの魔法が、図解つきでのっとる。口頭での説明より、こちらの方が分かりやすい。分からんところがあったら補足してやるから、これ見てやってみい」
魔術書を俺は受け取る。
タイトルは【魔術大全 〜下級から上級まで全系統の魔術を網羅〜】となっていた。
火属性の……ファイアーボール……と該当のページを見つける。
ふむふむ。大体分かった。
この術式を頭にイメージしながら魔力を、手から放出すればいいんだな。
「よし! やってみる」
「は!? もうか?」
もうか? ってベイリーは自分で俺にやれと言った癖にそれはないだろう、とも思いながら。
誰もいない空間に向かって、俺は手をかざし、術式をイメージしながら、魔力を放出した。
するとボンッ、と火球が俺のかざした手の先から出現して飛んでいった。
おお! でた! 面白い!
「え!? ありえない!」
ソーニャが、俺が魔法を発動した様子を見てそういった。
「魔法を始めて習う人が、ほんのちょっと魔術書を読んだだけで。それに魔力の巡りを、マスターするのも早すぎるし! しかも無詠唱って!!」
なんだ、俺は覚えが早い方なのか?
まあそれなら、
「魔力の巡りを、マスターするのに大体1ヶ月。それから魔法の発動に、少なくとも3ヶ月くらいかかる。筋がよいやつでも併せて1ヶ月じゃ。それを無詠唱ですぐとはのう」
(天才というのは、おるもんじゃな)
「うーん……、魔法剣は、この魔術大全には載ってないみたいだけど、それも教えてよベイリー」
「お、おう……そうじゃの」
ベイリーは、ランスのそのあまりの才に感嘆し、冷や汗をかきながらこたえた。
「まず魔術大全に身体強化という項目があるな。まずはそれをマスターするのが先じゃ」
身体強化、身体強化……見つけた!
ふむふむ。
これは術式、単純だな。
ほぼ魔力の巡りで実現できそうだ。
全身に魔力を巡らせて……
それにこの術式のイメージでっと。
「ふむ、できてるようじゃな。それでちょっと、そこの岩に素手で突き技をしてみろ」
「えっ? 岩に素手で突きって、突き指しちゃうんじゃ」
「いいから、やってみろ」
………えーい、どうにでもなれ!
突き技を岩にすると、すっと岩に手は入り込んだ。
痛みを予想していた俺はびっくりした。
それはまるで柔らかい砂地に、手を差し入れたかのようだった。
「これが身体強化の威力じゃ。高ランクの魔物は無意識でこれをしとるし、人間でも無意識にやっておる者もいる。そこにいるミミのようにな」
ミミは、えっ私? というように自分を指さしている。
確かにこれなら、ミミのあの強さにも説明がつく。
「次は剣を抜いて、剣にまで魔力を巡らせるようにしてみろ」
俺は言われた通り、剣を抜き、剣先まで魔力を巡らせるようにしてみる。
「その状態で、身体強化を剣にまで派生させろ」
身体強化を剣にまで…………おお、なんだこれは!
剣が自分の手足の一部のようにも感じる。
「それでそこの岩を切ってみろ」
俺はそこの岩を剣を振りかぶり、一閃。
その岩はまるで斬れやすい紙のように、綺麗に斬れた。
「これが魔法剣の威力じゃ。お前がこれを知っていれば、ゴブリンキングなど一閃で終わっていただろう。他の魔法剣。火剣、氷剣、雷剣も同じ要領よ」
それじゃあさっきのファイアを発動して、身体強化もしながら――
うわぁ!
剣から炎がほとばしる。
その剣を振ると、同じように岩が切れるが、その切り口には焼けた跡があった。
楽しいこれ!
俺はその火剣を、縦横無尽に振り回す。
ランスが剣を振る度に剣の軌道に炎の円弧ができ、それはまるで一つの演舞のようにも見えうけられた。
「信じられない……」
そのランスの様子をみて、ソーニャがボソリとつぶやく。
魔法剣は一般的に剣の修練を3年、魔法の修練を3年以上つんだ、ベテランの魔法戦士がやっと扱えるものだとされている。
それをランスはたった1日で、しかもこんな僅かな時間で……。
(これが血か……それにプラスして、ランス天賦の才もありそうじゃが)
魔術に造詣が深い、ソーニャとベイリーの二人は、ランスの魔法剣舞を驚愕をもって眺めた。
荒野で鍛錬を始めて2週間後。
その後、ランスは魔術大全を見て、一つずつ魔法をマスターしていき。
ミミは天然の身体強化にプラスして闘気術を。
ソーニャは聖魔法と治癒魔法の上位魔法を、それぞれベイリーから教授された。
俺達はみんな、それぞれの成長を実感している。
有意義な鍛錬期間だった。
「ありがとうベイリー。俺たちもなんかお返ししたいんだけど」
「お返しは、然るべき時が来たらお願いするかもな。今はそうじゃの……」
そう言うとベイリーはいきなり消えた。
「きゃあッ! お尻触られた!」
「ひゃうッ! 胸揉まれた!」
ミミとソーニャがそれぞれ抗議の叫び声を上げる。
「とりあえずの報酬は今はこんな所でよいぞ」
「「このくそじじい」」(ミミ・ソーニャ)
今、ベイリーが発動した魔法は、身体強化に、動きが早くなるヘイスト、それに俺たちに対しては認識阻害。
なんて無駄な高度な魔法組み合わせの同時発動だ。
ミミとソーニャが、ベイリーに向かっていっているが、ベイリーは今度は浮遊術でそれを回避していた。
「じゃあ、帰るかな」
ベイリーはそのまま浮遊術で、カラカスの街へ向っていく。
俺達もそのままカラカスの街へ戻ることとなった。
そして戻れば、いよいよ
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