第6話 聖女との出会い
教会の中央の祭壇奥には、女神アテネの像がまつられていた。
その祭壇前で一人の修道服を着た女性が、瞑目しながら祈りを捧げている。
「すいません……」
俺は遠慮がちに声をかける。
「あ、はい……なんの御用でしょう?」
女性は顔を上げ、ずれた眼鏡を手で少し直しながらいった。
「俺たちマクルーハン卿からの依頼で、アンデットの討伐の手伝いにきたのですが」
「ああ! 伺っております。私、聖女のソーニャといいます。それではこちらへ」
そういってソーニャが振り返ると、その美しくウェーブのかかった長い赤髪もひるがえった。
眼鏡をかけており、それもよく似合っている。
また胸の膨らみがかなり大きい。
どうしても目線が言ってしまう為、ちょっと困る。
年はかなり若くみえる。ていうか俺と同じくらいじゃないかな。
「あっああ!」
道中ソーニャは、なんの出っ張りもない所でこけていた。
その時、ちょうど風が吹いていた事も相まって、純白のパンティーが顕になった。
ソーニャはサッとスカートを元に戻し、俺に抗議の視線を送る。
いや、そんな目をされても見えたのは不可抗力だからね。
応接室は教会だからか質素なソファーと机、それに壁に女神の絵画がかざられている。
それ以外に特に装飾品などはない。
先ほどまで貴族の応接室に通されていた為、そのギャップが新鮮だった。
「お待たせしました」
しばらくすると、聖女は年配の白髪でおそらく司祭であろう恰幅の良い男性を連れてきた。
「はじめまして、私、司祭しております、シモンズといいます」
俺たち二人も名乗りをあげ、自己紹介をすませる。
「それでは早速ですが、アンデットの討伐の護衛をお願いしようと思います。それで念のため、事前にお二人の適正を伺っておいてもいいですか?」
「ミミは格闘士!」
「俺は適なしです」
「「適なし!?」」
またクリスティンの時と同じような反応が司祭と聖女、二人から返ってくる。
「まあ、安心してください。適なしと言っても俺には強力なスキルがありますので」
二人は顔を見合わせ、俺の説明に不承不承という感じで同意する。
「それでは早速アンデットの討伐に、うちの聖女と向かっていただきます。ソーニャ、危ないと思ったらすぐに逃げて帰ってくるんだぞ!」
司祭の俺への信用はないみたいだな。
やれやれ、まあ仕方ないか。
アンデットは、教会から少し離れた墓地の周りに最近出現するとのことだった。
墓地には陰の気が集まるから、それに惹かれて集まってきているのだろうとのことだ。
聖女ソーニャは俺とミミの後ろで、聖魔法を展開するための杖を握りしめて小さくなってついて来ている。
「うゔーーーー」
という声が聞こえたなと思ったら、10体くらいのアンデットが、その独特の動作で体を引きずるようにこちらに向かって歩いてきている。
「ぎゃーーーー! 気持ちわるいー! ホーリー!!」
聖女は半ばパニックになって、いきなり聖魔法をぶっ放す。
「ゔう、ぐわぁーーーーーーー!」
アンデット達に聖魔法は、確実に効いているようで苦しんでいる。
しかし、俺はそのアンデット達の様子がおかしいことに気づく。
いや、待てよこれは――
「ソーニャ、ストップ!」
「え? え?」
聖女ソーニャは訳も分からずに攻撃を止める。
「どうして止めたの!?」
「ゔうーーーーー」
アンデット達は息を吹き返し、また俺たちに迫ってこようとしていた。
「答えなさいよ! きゃーーー! またこっちに来る!」
(
俺は皇帝時間のスキルによって、アンデット達の時間を逆行させる。
彼らはどんどん時間が逆行されていき、ボロボロだったその服装と体は人間だった時に少しずつ戻っていった。
そして遂には。
「あれ? どこだここは? 俺何してんだ?」
「ここはどこ? どうしたの私?」
アンデット化されていた人々は正常な人間に戻っていた。
「え? え? 何これ? なんでアンデットから人に?」
ソーニャは何が起こったか理解できていない。
「ああ、これはちょっとアンデット達の、時間経過を逆行させて人間だった時に戻したんだよ」
「時間経過を逆行? そんな事ができる訳が……それに一度死んだ者が生き返った?」
「ああ、彼らは死んでなかった。さすがに死んだ人間の魂まで逆行させる事はできないから。アンデット化魔法をかけられてたんだよ。危なかった、あのままホーリーをかけ続けていたら、アンデットのまま討伐されていただろう」
「……………」
ソーニャは呆然としている。
少し俺が言った事を、飲み込むのに時間がかかっているようだった。
「時間を逆行で元に戻すってありえない! 神の如き所業じゃない!」
「随分と大袈裟だな。そんなの時魔法に適正がある者だったら、簡単なんじゃないか?」
「時魔法でできるのは若干の重力操作と、対象の時が少し進むのを早くしたり、遅くしたりできるだけ。時間逆行なんて聞いたことがない」
そうなのか?
でもまあソーニャも、時魔法については専門家ではないから知らないだけでは?
実際、適なしにこんなスキルがあるのだから。
それに、
対象が生体になると魔力消費が著しく増加するのだ。
また戻す時間が長くなればなるほど魔力消費も公倍数的に増加する。
よって限定的な最後の手段くらいにしか生体には使用する事はできない。
ソーニャは教会に帰って、司祭に起こった事を説明するが司祭もひどく驚いているようで、口を大きく開けて報告を聞いている。
「………ゴホン! ソーニャが言う事は分かりました。にわかに信じ難いですが、まぎれもない事実ということで。マクルーハン卿には依頼成功とお伝えしておきます!」
「やったな! ミミ!」
「うん、ご主人様!」
「それじゃあ、今回はありがとうございました」
そう言って俺たちは教会を立ち去ろうとすると、
「あ、あの……もし、あれだったら今後、依頼があれば私もお手伝いさせてもらって……今回は役に立てなかったけど……」
聖女に呼び止められる。
「え?……ああ、はい。聖女様に手伝ってもらえるんなら喜んで。けど、どうして?」
「それは……あなたの事が……、その……声がかかるの待ってます!」
そう言うと聖女は、ピューとどこかに消えた。
なんなんだろうか。
「むぅー」 とその後、なぜかミミは口を尖らせて俺の腕にしがみついて来る。
その控えめな膨らみを、わざと押し当てるかのように俺の腕を強く引いた。
俺の顔は例によって自然とほころんでしまう。
今回の報酬は金貨10枚だったはずだ。
これで、当面は生活に困る事はない。
俺たちは、まずは任務完了をクリスティンに報告しに向かった。
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