好きになった人があまりにも美しすぎたのか?

スミンズ

自分の夢

 俺は人気の無いシンガーソングライターだ。アーティスト名は『心理試験』。もちろん本名ではない。本名は源蓮磨みなもと はすま。ネットに楽曲を配信しては広告費で稼いでいた。それだけでは足りないから、コンビニのバイトをして暮らしていた。バイト先の人は俺がシンガーソングライターをしているのは知らなそうだ。ましてや24にもなって何故バイトしてんだろうくらいに思われてるかもしれない。一応顔を出して活動しているが、一般人からしたらそれだけ知名度の無いということだ。だけど好きなことで生きていたから、苦痛はなかった。


 そんなある日、俺のTwitterのもとに一通のダイレクトメッセージが届いた。もちろん、『心理試験』として登録してるアカウントにだ。


 匿名、『あすかさん』から。自称にさん付けするやつは好きじゃねえなとか偉そうなことを思いながらメッセージを開くと、それはファンレターだった。最近は全く知らない謎の外国の方からのお誘いみたいなメッセージばっかだったのですこしにやける。


 『はじめまして。突然すみません。心理試験さんのファンです。一年ぐらい前、ネットサーフィンをしてたときに偶然配信曲の〔知らない〕を見つけてからずっとファンです。昨日今日も新曲はいつかいつかと待ちわびる日々です。あなたの曲は私の原動力です。これからも頑張って下さい!』


 素直に嬉しいファンレターは久しぶりだったので少し泣きそうになる。ファンだと言いつつあの曲は良いとかこの曲は悪いとか言われるのにも萎えてきていた所だった。批評は一向に構わんスタイルではあるが一方的に誉められたほうが嬉しいに決まっている。


 よし、頑張ろう。俺はファンレターに『温かいコメントありがとうございます!とても励みになります』と打ち込むとスマホのTwitterを閉じる。それからパソコンにつないである電子ピアノの前に座ると、少し考えた挙げ句弾き殴った。



 明くる日、SMSアプリに一通のメールが届いていた。


 『新人音楽配信アプリ◯◯運営です。心理試験さまにテレビオファーの案件がきています。音楽番組スカイミュージシャンパーティー、来月9月27日放送分です。生放送のため、当日参加していただけるかをご検討の上、有無に関わらず本運営本部に電話して戴けると幸いです。吉報に重ねてお祝い申し上げます』


 俺は目を疑う。冗談かなんかと思いながら、急いで配信者登録している配信アプリの運営ーへスマホでコンタクトを取る。


 『はいこちら◯◯運営です』


 「すみません。私、◯◯に心理試験っていうネームで登録してるものなんですけど」


 『あ、心理試験さまですか!お電話お待ちしてました。スカイミュージシャンパーティーの件ですね?』


 「はい、まあ」俺は少し興奮したように頷く。冗談では無かった。


 『本当にこの件はおめでとうございます。ところで、スカイミュージシャンパーティーはご存じでしたか?』


 「土曜の夜9時にやってるやつですよね?」


 『そうです、視聴率もよくいま放映中の音楽番組では3本の指には入るでしょう』


 「そんなに人気なんですね。でも、どうしてそんな番組に私なんかが呼ばれたんですか?」


 『……高輪明日香たかなわ あすかってご存じですか?』


 「高輪明日香、アイドルですよね」


 『そうです。5人組アイドルのラッキーカラーズのフロントですね。実は彼女がですね、この番組に出演するんです。そのなかに〔私の思い出の曲〕っていうコーナーがあるんですがその中で心理試験さんを紹介したいようなんです。このコーナー、本人が一曲歌うってことでオファーがきているんです』


 「思い出って言われましても、まだ活動3年ですけどね」


 『彼女自身まだ21ですからね。とにかく、彼女はあなたの大ファンだそうですよ』


 「そうなんですね」俺は平然と言う。


 『あれ、あまり喜んでいらっしゃらないですか?』


 俺は少し間を置いてから、喋った。


 「いや、なんていうか。テレビ番組には実力で出たいって思ってたんで。まだライブもやったこと無い私がただファンが偶然スターだったっていう理由でテレビに出たくないんです」


 『いや、運って言いますけど、それだけスターに影響を与えたっていうことですから。自信持ってくださいよ!彼女は心理試験さんの〔知らない〕が好きだそうですよ』


 「知らない……」ふと、先日のメッセージを思い出す。匿名、あすかさん。なるほど、そういうことか。


 「ともかく、今はテレビ出演が夢ではありません。

ライブですから」


 『……そこまで言われるなら仕方ありません。本アプリの知名度アップにもなると思っていたのですが』


 「本当にすみません」俺は深く謝った。


 『まあ、良いですよ、これからの活躍ご期待しております』すると電話は切れた。


 ……僕は一体、何をやっているんだか。ひとりで苦笑いした。

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