短編小説集「シカケ」
@novel_booth
夢の中へ
「また不審死のニュースだ全く物騒な世の中になったものだ、何かもっと面白い話題ひとつやふたつないものだろうか」
男はリモコンを手に取りテレビの電源を消し真っ暗なテレビの画面に映った自分の顔を見てため息をつく、最近彼自身色々とうまくいっていないようだった。仕事もクビになり特にやることもなく外へ出てハローワークに行く気力もなかった。男は徐にスマホを取り出し暇つぶし程度にネットショッピングのサイトを開いた、しばらくそのサイトを眺めているととある商品が目に止まったそこには『あなたの見たい夢を売ります』の文字、レビューや星何個的なものは一切書かれてはいなかった。
男は怪しんだ、
「なんだこれ、スピリチュアル的な、心理学の応用的な何かか、それにしてもきな臭いな」
男も最初は疑っていたが好奇心に負けた、
「まあ金額もそこまでは高くはないし、詐欺のたぐいではないだろうこれも経験だ、そこまで期待はしていないが購入するとしよう」
そして男は見たい夢の内容や住所諸々を入力した。
その日の夕方、夕飯の準備をしていると家のチャイムが鳴る。
「こんばんわ、チーター宅配便でーす」
「もう届いたのか早いな・・・お急ぎ便にした覚えはないけどな、だがそれにしても早すぎる」
男は少し当惑しながらドアを開けた。
「はーい」
するとそこには人影もなく見回しても宅配業者も見当たらない、ただそこにポツンと段ボールがひとつ置いてあっただけだった。時間帯も合間ってなんだか少し気味悪く感じすぐに段ボールを手に取り家に入った。中を開けると飴玉がひとつと説明書、見たい夢の書かれた紙が一枚ずつ入っていた。
【ご使用方法】
1.飴玉が全て溶けるまで舐めてください。
2.この説明書を燃やしながら寝る10分前から見たい夢の書かれた紙を読み続けてください。
3.読み終えたら枕のそばに置いてください。
この通り行えばお客様の望む夢を見ることができます。
※飴玉には幻覚作用するもの、麻薬成分などは一切含まれて使用されていませんのでご安心ください。
「こんな簡単な手順でできるのか、いざやるとなるとやっぱり緊張するな・・・」
男は昼間の勢いとは違って少し臆病になっていた、さっきの宅配のこともあり正体不明の異変を感じていた。本当に大丈夫なのだろうか、そもそもそんな容易なことで見たい夢をコントルールできるのだろうか。
刻々と時間が過ぎていく、男はしばらく二の足を踏めないでいた。でもいつ寝ようが関係ないどうせ明日も暇なんだじっくり考える時間何いくらでもある。
この空虚な日常に転がり込んだ小さな冒険が人生を左右するということはこの男も薄々勘づいていた。冒険には未来が待っている、だがそれに危険が伴うこともまた案じていた。
どれくらい時間が経っただろう男はついに決心した。
ただ甘いだけの味のしない飴を舐め、説明書を燃やしながら、夢の内容を読み続けた。そしてしっかり儀式も終え、すんなりと眠りについた。
そして男は理想の夢を見ることに成功した。文字通り夢のような生活を送っていた、もちろん例に漏れず彼に夢を見ているという感覚はない、夢とはそういうものだ。ちなみに彼が見たがっていた夢はまた別れた妻と可愛い娘と暮らしたいというものだった。
夢の中では仕事も順調、家族との関係も良好だった。空っぽな日々を過ごしていたときとは別人のようにその顔には笑顔が絶えず幸せに満ちていた。
そしていつものように家族三人楽しく食事をしていると家のチャイムが鳴る
「こんばんわ、チーター宅配便でーす」
いつか聞いた声がした。
「いやー警部また不審死体ですよ、司法解剖の結果死因は餓死、ずっと寝たきりの状態で心配した大家さんに発見されたそうです、一応遺書的なものあって自殺だと推測しても、なんか死に方が特殊ですよね」
「ちなみに遺書には何て書いてあったの」
「また奥さん、娘さんと暮らしたいって、しかも2ヶ月前に仕事をクビになってたみたいで一人で思い詰めちゃったんすかねえ」
短編小説集「シカケ」 @novel_booth
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