ピンク、ガーベラ

茜カナコ

第1話

「おばさん、ちょっとだけ一緒に寝てくれない?」


「どうしたの? ひろくん?」

 河合田蒼子(かわいだ そうこ)は、家庭教師をしている高校生のひろに言われて戸惑った。こんなことを言い出すのは初めてのことだった。


「……いいよ」

「うん」

 ひろは自分のベッドに入った。

 蒼子はその後、ひろの入っているベットで添い寝をした。


「あったかい」

 そう言ったひろの髪からは、ひなたぼっこをしていた猫のような香りがしている。

 蒼子はなにもいわず、ひろの頭を撫でた。

「ありがとう。もう良いよ」

 ひろはそう言ってベッドを出た。


 ひろは二年前に恋人の白井ゆきを事故で亡くしていた。その頃のひろには笑顔も無く、誰も居ない街角や雑踏の写真を無言で撮っていた。


 翌日、ひろは失踪した。

 

 蒼子は電話で知らせを聞き、大学が終わるとひろの部屋に向かった。

 部屋にはすでにひろの親友の伊沢翔(いざわ しょう)が居た。

「なんか、殺風景な部屋だよな」

「……そうね」


 ひろのへやには、青年漫画雑誌が二、三冊とカメラ、ピンクのガーベラが一輪飾ってあるだけだった。

「ピンクのガーベラの花言葉は、崇高な愛」

 蒼子は呟くと、ガーベラを手に取ってひろを想った。


「カメラの中、見てみようぜ」

 翔はそう言って、デジタル一眼の中身を見ていった。

 最初はゆきの写真が沢山会った。そして、だれにも焦点の合っていない写真が続く。


 最後の方に、蒼子の写真が出てきた。

「蒼子さん、愛されてたんじゃ無い?」

「……どうだろう」


 蒼子はカメラの中の自分と見つめ合ったまま、それ以上は何も言わなかった。

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ピンク、ガーベラ 茜カナコ @akanekanako

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