前日譚 小春日和前 四、乾坤一擲ⅱ
前日譚
◉登場人物、時刻
???? 主人公。今回も出番なし。
〈戸田方〉
戸田高雲斎 中堅國人衆。棟梁家の血に
連なる。
大久保六郎兵衛尉 高雲斎家臣。
〈南武方〉
櫻井余呉右衛門 南武家の重臣。先陣を務め
る。
田中次郎兵衛 南武家の先陣馬廻に参加す
る軍役衆(雑兵)。
◉軍役衆に関する詳細は一章の「【改訂・注釈】足軽・農兵・被官衆・地侍について」をご覧下さい。
この四人は主人公ではありません。
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前日譚
流れる景色と力強い
やはり先手を取れた優位は大きい。何よりも我が手勢の勢いがそれを証明している。
最高速に乗って敵方先陣とぶつかる。
“どごぉ”、
物凄い音がする。若侍が
さて、私に
近場にいた
こちらも鑓を捨て、太刀打ちする。
良き敵、
何合か太刀を交わしたあと、同時に、一度離れ、再度
……二度目の衝突は失望を覚えるものであった。敵は衝突の瞬間力を抜くと、こちらに
クソがぁ!
おのれっ、おのれっ、おのれッ、おのれッ!!
せっかくの良き戦を、それ程までの腕を持ちながら、今更ながら
怒りに任せて、手近な敵の脇から上へと斬り上げる。敵はどぉっ、と馬から落ち、直後に我が近習に刺し殺された。
「我こそは戸田にその人ありと知られた大久保
若侍の二、三が
おのれ、南武の強兵とはその程度か!
逃げる、逃げる。
背を向けて逃げる様な肝のない奴はあっという間に討たれる。そんな奴は“逃げの素人”ら。戦う振りして逃げる、逃げて追い付かれる前に、また振り向いて戦う振りして逃げる。
…………うそ、だ。本当は
そんな事思いもつかない内に、他の連中が逃げ出して、あっという間に悲惨な死に方してるもんだから、こわくなって逃げ出せなくなっちまっただけだ…………
チラリと横を見る。お殿様はそこに居られる。
お殿様なんだから、こういう状況も慣れていなさるだろう。なら、お殿様の近くにいる事が一番生き延びやすいはずら。
……………………本当にそうか?いざって時に捨てゴマにされるんでねぇか?
えぇぃ!考えてもしょうがねぇ。どうせ
また襲いかかってきた敵の騎馬武者の勢いを、
小さな違和感は生き残りたい欲求とこちらを殺したい敵とのせめぎ合いの対応に忙しく、直ぐに忘れてしまった。
よっしゃ!ドンピシャァ!!
先陣からの報せが来て、奇襲が成功したらしい。
よっし!これを機に、
この先の土地は少し広くなっている様だ。我が先陣の他に本隊が追撃をかけても大丈夫だろう。
「全軍、敵の追撃に移る。手柄を立てよ」
物音一つ立てることなかった我が軍勢から、声なき声が
勝てる、この戦は勝てる。
「全軍、
並んで進撃する兵たちの
我が前に立ち
“
(滝の水は飛ぶように真っ直ぐ落ちること三千尺)
それは確かに勝者の軍勢と呼ぶに
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【お願い】
この作品に出てくる『夜這い』の文言は、いわゆる無理矢理の方ではなく、婚姻交渉の一形態としてのそれを表しております。あらかじめご了承下さい。
◉用語解説
*1【地獄の
いわゆる“地獄の鬼”。この場合、その軍勢。
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