一章 棟梁襲名 十三、対高雲斎戦Ⅷ

◉登場人物、時刻

????    主人公。次期棟梁。

於曽右兵衛尉  棟梁方討ち手の大将。


戸田高雲斎   棟梁家の血に連なる有力國人衆。

        棟梁家の家督争いに乗じて叛旗を

        翻す。


未初の刻    午後一時から午後二時。


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一章 棟梁襲名 十三、対高雲斎戦Ⅷ

丁卯ていう四年如月十四日 未初ひつじしょの刻 戸田高雲斎


 旗本の給人衆きゅうにんしゅう※どもがを隊伍たいごを組んでいさでる。馬廻うままわり※も我がまわりにて隊伍を組む。

 旗本馬廻は見所ある若党どもを集めている。装備も美しく、華やかだ。士気は高く、我らこそは戦に終止符を打たん、と息巻いきまいている。

 ……いや、俺も興奮を抑えられずにいる。戦に勝つ一瞬、何度経験しても良いものだ。

 いざ、勝利をつかまん!

 愛馬がかれてくる。あぶみに片足を掛け、馬上にのぼらんとす。


 ……その瞬間とき、恐ろしい“空気のかたまり”に横から襲われた。顔を上げ、その方角を見る。

 ……あり得ないモノがそこに居た。



丁卯四年如月十四日 未初の刻 ????


「弥助、かいけ!者共、出るぞ!」

 かぶとを締め、馬に上がる。

 駆け出し、森を回り込めば敵本陣はぐそこだ。


「旗をげよ!我が馬標うまじるしいだせ!者共、けよ!!」

 響き渡るかい。敵将が顔を上げる。

「……ゲゲェ」

 たぁけ!その首、もろうたぞ!!

 我ら十三騎、ただ一丸となって高雲斎に一槍馳走ちそうせん!!!


 敵方馬廻とぶつかる。相手方はもろく崩れる。進み出し少し離れた位置に居る旗本どもも棒立ちで混乱から回復していない。

 ……好機!


「首をるな!打ち捨てよ。手柄はオレが見ているぞ!敵を討つ事にこだわるな!ただ、ただ駆けよ!」

 敵本陣を突き抜け、更に返しの一撃。

 目指すは高雲斎が首!



丁卯四年如月十四日 未初の刻 於曽おそ右兵衛尉ひょうえのじょう


 ほらがいが響き渡る。敵方本陣の旗、馬標うまじるし※が乱れる。敵本陣に突っ込む一団、あの御馬標おんうまじるしは……


 ---血が沸騰ふっとうする。

「あの総白そうはくながばた棟梁とうりょう御馬標おんうまじるし。者共、逃げるな!返せ!棟梁は此処ここに居られるぞ!命を惜しむな!名を惜しめ!棟梁は見ておられるぞ!」

 ---軍制を破り付いて来てしまった若への怒りなのか、それとも、よわい九つのわらべを戦さ場に引きり出してしまった自分の不甲斐無ふがいなさなのか、わからぬままに。


 宗家のつわものどもが咆哮える。

 不甲斐ない戦をしていたとは思えぬ、人が変わった様に遮二無二しゃにむに突っ込んで行く。


 ……………………気付けば儂も咆哮えていた。



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◉用語解説

【給人衆】 

 家臣。同時に一つの小武士団の当主でもあった。

【馬廻】  

 戦の時、大将の周りで警護についた兵。

【馬標】  

 戦の際、大将の所在を示した旗。

 敵方にとっては大将首の在り所で目指す目標。

 味方にとっては大将の無事を知らせるもの。

 於曽右兵衛尉が「棟梁の馬標」と言っていますが「総白の流れ旗三本」は、嫡子(次期棟梁)の馬標で、棟梁の馬標は「総白の流れ旗五本」になります。

 更に棟梁家の血筋の氏長者の「都の大樹家」は「総白の流れ旗八本」となります。

 モデルは「源氏八流」。

 実際に徳川家康は源氏の血筋である事を表す為に(実際は仮冒ですが)、演出として「総白の旗」を用いています。


今回もお読みいただきありがとう御座います。

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