ヴィンテージ
うつりと
天野絢斗
僕はいま、孤独の闇と寒さに怯えて、独り戸惑いながら道を探している。
でも、ワインという、君の生き方と在り方を知ったとき、僕の前に細いけど、遠くまで伸びる道が見えたように思えたよ。
君という命が生まれるためにある葡萄の樹は、枯れ果てるほどに困窮した大地と、照りつける太陽と、吹き荒む風の中。
降り注ぐ雨や、空を覆い暑さを凌ぐ雲が少なくても花を咲かせ、結実させることは、誰かに教えられることなく、足元深くまで、強く根を張って生きているね。
君はその運命(さだめ)を受け入れて、静かに荒野に息づいていることを知ったとき、僕は疑いながらも、その逞しさに憧れたんだ。
時が経ち、実を付け摘まれた果実は姿を変えて、やがて君が生まれる。
でもすぐに、静寂に包まれた長いの時間(とき)の中を旅するように、静かに熟していく。
君は自分が輝く時期の訪れを知るように、諦めることなく、人知れず眠るようにその時を待ち、静かに自分を研ぎ澄ます。
10年でも、20年でも。
たとえそれが、100年になろうとも。
機が熟し、待ちわびた光を浴びた君は、どこまでも色濃く輝く。
まるで、暗闇(かげ)さえも愛でるような、そんな複雑な奥深さと、潔い輪郭を縁取りながら。
艶やかな雰囲気(オーラ)を醸し出し、その佇まいで僕だけでなく、人々を魅了する。
孤独や苦しみの中でしか、見えないものがあることを。
悴むような暗闇(かげ)の中でしか、得られないものがあることを。
痛みと迷いの中でしか、見つけられない自分がいることを。
立ち止まらなければ、触れられるものがあることを。
その先に栄光の輝きがあることを君は知っているから、静寂の時間(とき)が、どれほど長くても、どんなに長い夜が続いても、ずっと待ち続けられるんだね。
僕もそうでありたい…。
たとえ心に深く刻まれた痛みに怯え、進むことを躊躇ったとしても。
たとえ体が軋むほどの、大きな苦しみを背負い、戸惑い立ち尽くしたとしても。
その理由(わけ)を知るときが訪れることを、信じて僕は生きる。
君のように、ひたむきで強い人でありたいからだ。
これからも、僕の憧れでいてくれるかな?
そうだと嬉しいんだけど。
人の歴史と未来は、一瞬(いま)の積み重ねで創られるというよね。
それは今も昔も変わらないとも聴くよね。
その事実を忘れずに、まだ見ぬ景色を眺めるその日まで。
光を見つけて、輝き放つその日まで。
僕は生きるよ、命の限り。
ヴィンテージ うつりと @hottori
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