そして悲しみは夜を穿つ

夜野綾

第1話 【プロローグ】

 夜は続いていた。

 戦争が終わり、東京は死んだ。それから12年。爆撃によってえぐられた都心には、まだ人は戻れていない。

 戦争前、都心には多くの人がいた。でも今、生き残ったほとんどの人々は、人間らしい生活が残っている地方へ散っていった。汚染地域という名の空白の縁で未練がましく蠢いているのは、行く場所のない者たちだ。

 彼らはそれぞれが、悲しみの底をのぞきこんでいる。


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