4,
「香織さん、面会拒否です」
目の前の少女は申し訳なさそうに私を見る。気まづくなったのか、彼女は帽子を深く被り直し、俯いてしまった。
どうせ会えないと思っていたので、別に気にすることでもない。がしかし、目の前の自分より年下の、いたいけな子にこんな表情をさせてしまうのは、いかがなものだろうか。
「椿嬢。あの人の事だ。前も会わない、って言っていた覚えがある。だから大丈夫」
「はい、それは……聞いていたので分かりますよ。でも、お役に立てなくて、申し訳なくて」
「……そうか」
優しいなと思う反面迷惑だな、と思う自分がいるのが恐ろしい。目の前の捜査官――椿原捜査官と言う、配属されてからまだ日の浅い女子なのだが――は責任を負ってくれているが、私は正直会えなくてほっとしている。前の面会、かなり精神に来るものがあった。自分で自分の傷を抉りに行くこの行為を、人は愚かというのだ。まさに、それである。
「まぁ、これからも会えないだろうし、帰ることにする」
「そうですか。また何かあればご連絡下さいね。私、頑張りますから」
「あぁ、期待しているよ。だが、張り詰めすぎないでくれ、椿嬢」
「え、あ、ありがとうございます」
彼女はまた帽子の鍔を気にして、深く被った。何故ここで彼女が言葉を詰まらせたのか、に疑問を感じるが。
椿の目元は微々たるものではあったが、赤く染まっていた。擦り跡、に近いものである。泣いたのだろうか。
「椿嬢、一つお聞きしたい」
「は、はい。なんですか?」
「詮索するようで悪いが、何かよからぬ事でもあったか?」
「え、その、なんで……」
あからさまに動揺されると、こちらもこちらで逆に狼狽えてしまう。しかし、彼女は 「なんでもないんです」と付け足して、嘘を重ねてしまった。
どうにも納得できなくて、私は彼女を利用してしまうことになった。椿が好きな、罪深きあの嘘を。
「アタクシのせいかしらね。椿ちゃん。……ごめんなさいね、今度詩織に色々奢ってもらってちょうだい」
「……え。か、香織……さ……ん?」
戸惑いの色を隠しきれない彼女の目に映る私は、
――――果たして、“ 何者 ”なのだろうか。
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