キャラメルマキアート

 仕事帰りにコンビニに寄って、気付けばすうが欲しがっていたキャラメルマキアートを買ってしまっていた。


「またうっかり…」


 カウンターで自分で淹れる形式の紙カップを眺めながら、とりあえず冷めないうちに家路を急ぐ。


 珈琲を見ていたら、ふと父の事を思い出した。彼は両極端な人であった。

 例えば珈琲一つにしても器や淹れ方、水や豆や焙煎にも拘り、母が止めなければ産地まで行きかねないかと思えば『蛇口から出れば良いのに』とお湯を沸かすのさえ面倒臭がって微温くて薄いインスタントコーヒーを啜るのも厭わない。

 揃えた道具に几帳面にラベルを付けて分類する癖に、飲み残しのカップをその辺に幾つも放置して忘れていたりする。


 私もその気質を受け継いだようで、拘る時は拘るが、面倒になると光合成で生きていけないかと方法を本気で模索したりする。

 一度調べていたら、ヴェジタリアンやヴィーガンの他に、宇宙エネルギーのみを取り込んで生きるブレサリアンという人々がいるらしいと分かったが、その域に達するのは生きているうちは難しいと悟り、面倒な時はコンビニに頼る事にしている。


「コンビニ素晴らしい…」


 自分用に買ったブラックコーヒーを啜りながら、玄関を開けると、待ち構えていたかのようにすうの声がした。


―キャラメル…


―マキアート…


 卓袱台の隅に置いておくと、甘い物好きの怪異は早速飲んでいるようだ。


―キャラメル…


―おいしい…


 私は空になった紙カップを捨てながら、今度父の道具を出してきて美味しい珈琲を淹れてみようと思った。

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