日本の魔術師、異世界に飛んで学園生活を送る
ほしお
1.転移
視覚、聴覚、嗅覚、触覚。僕を構成する感覚がぐにゃぐにゃとかき乱れ、分散した視界は極彩色に明滅する。
(う、気持ち悪い…)
生まれて初めて経験する転移魔法の洗礼を受けながら、転移が終わるまでなんともいえない浮遊感に耐えていた。
バラバラなまま分散していた意識が、やがて一箇所に集中し、僕の体を構成する。
次の瞬間、浮遊感が消え、地面にドサリと叩きつけられる。
「うっ…ごほっ、ごほっ……」
どうやら僕はとある建物に転移したみたいだ。ぼやけた目が、床の木目を映し出す。それと同時に、僕の目の前に誰かが立っていることも分かった。
「―――無様ですね。主様。地面に這いつくばる趣味でもお持ちなのでしょうか」
頭上から静かで可愛らしい声が投げかけられる。しかしその声色にはたっぷりと僕を見下す毒が含まれていた。顔が見えなくても、そこに誰がいるかは分かった。
「主なら、もっと敬ってよ、
僕がふらつく体を支えながら顔を上げると、頭にホワイトブリムを載せたメイド服の若い女性がいた。この"世界"に先に転移していた、従者の紗夜さんだ。
「残念ながら、ミノムシを敬う趣味は持ち合わせておりませんので。それよりも、明日から魔術学院の入学試験です。すでにこの世界での住民権や住所などのデータは偽造済みですので、早速準備に取り掛かりましょう」
従者のくせに未だ起き上がれない僕に手を差しだすこともせず、紗夜さんは矢継ぎ早に話し始める。紗夜さんの容赦の無さはいつものことなので僕も助けてもらおうなどとは考えていない。
「この世界には身分制度があるんだよね。僕はどのくらいの身分なの?」
事前情報では、王族を頂点とする身分制の社会が存在する国に転移すると聞いている。多くの貴族が集う魔法学校に貴族の一員として潜入し、異世界の魔術体系について研究するのが僕のミッションだ。
上級貴族だとかなり目立つし、国籍の偽造も発覚する恐れがある。そうなれば非常にまずい展開になる。この世界の司法制度は未調査だが、他国の
「その、身分なのですが…」
先程まで冷静に喋っていた紗夜さんが珍しく言い淀む。なにか嫌な予感がする。
「すみません、
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