第13話 ともだちなんだ

 授業を終えたばかりの放課後の教室は、会話を楽しむグループや勢いよく部活に向かうもの、素早く帰宅する準備をするものなどいつもと同じようにざわついている。私も鞄に教科書や筆記用具を詰め込んでいると、ふいに視界に何かが入り込んだ。

「ねえ、えんちゃん。今日はいつもに増して口数少ないよ。」と、大きな目を見開いて梨花ちゃんが顔を覗き込んでいる。今日もくるんとカールした長いまつ毛にアイラインもしっかりと引いている。シャドーはグリーン系。梨花ちゃんは、またメイクの腕を上げたようだとつい見つめてしまった。

 「どうしたの、えんちゃん。もしかして私に見惚れてるの」

 「う、うん。確かに大きな美しい目元に魅入られてた」

 「やっぱりね」と言い、梨花ちゃんがわざとらしく頬に手を当てモデルのようなポーズを決めた。

 「おいおい、えんちゃんダメだよ。梨花はすぐに図に乗るから」

 「もう、弘樹は関係ないじゃん。愛ある私たちの間には入れてあげないんだから」と、梨花ちゃんが軽くグーパンチを放つ。

 「いってえ。暴力反対ー」

 「はいはい、うるさいよ。弘樹君、そんなに大げさに叫ばない」と、優等生の加奈ちゃんが振り返って言った。

 「そうそう、弘樹は大げさなんだよ。私の可愛いげんこつが少しほっぺに当たっただけなのにね」

 「梨花ちゃん、顔はだめだよ。ボデイにしなくちゃ」と、真面目顔で言う加奈ちゃんにみんなキョトンとした表情を浮かべ、少し間を置いた後に一番後ろの席の健斗君がいつもと同様冷静沈着な声で言った。

 「気を付けてね。えんちゃんも加奈ちゃんも、梨花ちゃんと弘樹の毒に染まりつつあるよ。」

 「え〜」と、二人の声が重なった。やはりお似合いの二人だ。


 

 何気ない会話をしていたら、いつの間に時間が過ぎたのか窓の外は薄暗くなっている。窓から伝わる冷気が、この教室に残された私たち五人だけを包み込んでいるように感じる。

 「ところで、えんちゃん。本当のところ、何か悩んでるよね」と、確信を得ているように加奈ちゃんが言うと梨花ちゃんもうんうんと頷いている。打ち明けてもいいのだろうか。せっかく友達になったのに変なことを言って嫌われるんじゃあないだろうか。どうしようか。一人でいたときにはこんなふうに思わなかったけど、今は違う。一人になりたくはない。

 「話してくれないのは、さみしいよ」と、梨花ちゃんが見つめた。その言葉が心に響く。改めてみんなの顔を見ると、私が話し出すのを待ってくれている。きっと、受け止めてくれるはず。

 「あ、あのね。変なことを言うけど聞いてくれる」緊張気味の少し震えた声の私を、みんなは真剣な眼差しで見守ってくれている。ともだちなんだ。


 



 

 

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