第11話 わからない
空が雲で覆われもう間もなく雪が舞いだしそうな朝に、私は覚悟を決めた。
外出の増えた母の行き先が気になり後をつけたのだ。知らない男の人と親しくしていたらどうしようかなどと思っていたけど、母が向かった先は全く違った。電車とバスを乗り継いで二時間ほどかけ着いた先は母の故郷、入院中の祖母のもとだった。無事に尾行を終えた今は、母にバレずにほっとした気持ちと反面母に対しての罪悪感が芽生えている。
母方の祖母はもともと心臓が悪いらしく通院を続けていたのは知っていたが、最近になって入院したようだ。あまり仲が良くないためか、母からあまり祖母の話を聞くことはなかった。だからと言って疎遠というほどでもなく、お盆の時期や法事の際などは家族で帰省していた。だが、正直なところ私も祖母のことをあまり好きではない。いつもしかめっ面で幼い頃は怖かった。当時は祖母の顔が角の生えた般若の面のように見えていた気がする。それに、祖母の発する言葉にいつも棘というか澱みたいなものを感じていた。
それにしても、今日の祖母と母の会話はどういうことなのだろうか。意味が解らない。尾行に気づかれないように廊下で聞き耳を立てていたから、聞き間違えたのだろうか。
母に聞きたいが聞けない。
私の意識が戻らないとはどういうことなの。
私の病院ってどういうことなの。
聞いてしまったら何かが崩れてしまう予感がする。
本当はこのことについても聞きたい。
「縁ちゃんができなければお母さんは道を誤らなかったのに」と、小学生のころに聞いた祖母の言葉。
私はお母さんにとってどのような存在だったの。
長い間、胸の奥深くに沈む思い。
「お母さん、私はここにいていいのかな」
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