前世の罪

はな

第1話

私は不運の人生を、歩む運命なのだろうか?


それとも、


前世に冒した悪行の罪を、今 罰せられているのだろうか?


…………


私は次男として生まれた。

小さい頃、母から「本当は長女が居たんだよ」「でも事故で亡くなっちゃたの、それでもう一人子供を作ろうって話し合って、お前が生まれたんだよ」

何気なく教えてくれた話なんだけれど、私には、さほどショックを受けはしなかったが、喉の奥に小骨が引っ掛かった様な自分の存在が、オブラートに包まれた様に違和感を感じた。

生きていれば私は要らない存在?

だったんだ ……


そんな私の人生はどうなるんだろう。


私が小さい頃の話。


近所に住んでいた、同い年だったと記憶しているが、「ヒロちゃん」て言う子がいて、「真 あそぼー」って、毎日の様に家に誘いに来ては一緒に遊んでいた。

もちろん、他の子らとも遊んでいたが、ヒロちゃんとは毎日の様に会って遊んでいた。


その頃は、最年長のガキ大将がいて、何をして遊ぶかを決めて、それに下級生らが言うことを聞いていた。

私とヒロちゃんは、一番下っぱだった。だから、いつも雑用をさせられていた。

でも、そんなに嫌な事ではなかった。役割がある事は楽しかったし、ヒロちゃんと一緒に出来るからなのか判らないけど、兎に角楽しかった。

そういえば、ヒロちゃんの本当の名前はよく判っていないし、顔も、どんな声かも、今は全く判らなくなっていた。でもいつもヒロちゃんと呼んでいたから、今でも大好きなヒロちゃんなのだ。


記憶が定かでないが、確か4歳の頃の、夏が終わりそうな時期の出来事だと思う。

お昼を過ぎた頃、いつもの様に「真、あそぼー」ってヒロちゃんがやって来た。

私は、理由は良く覚えていないが、「ダメー遊ばない!」って初めて一緒に遊ぶことを断った。

「えー海行こうよ。」ヒロちゃんが哀願してた。「ダメー。今日は遊ばない」と、私は大好きなヒロちゃんを突き放したのだ。

私は比較的記憶力が良くて、断片的に覚えている事が多く、このシーンも記憶に残っている。記憶に残こる事は、悲しいことが多いので、嫌な事だった。


そして、夕方になった頃、大人の人達が集まって、何やら騒がしくしていた。

薄暗くなった時、もっと騒がしくなり、救急車もやって来た。

ヒロちゃんを呼ぶ声が沢山聞こえてきた。

私は、怖くなり母にしがみついていた。

「ヒロちゃんどうしたの?」母に聞いても何も言わなかった。

後で知った事だが、ヒロちゃんが、1人で岸壁に行って、海に落ちて溺れ死んだ。と言うことだった。

網も近くに浮かんでいたそうだ。

いつもなら、私と二人で行って、網で蟹や浮遊物など摂るのは、私の役割だった。

私が一緒に行かなかったから、ヒロちゃんが1人で何かを取ろうとしたんだろう。

そして海に落ちて溺れて亡くなったんだ。


私のせいだ。


ヒロちゃんが居なくなった事が、悲しく沢山泣いた。

翌日も、会えないから又泣いた。

翌日も…。

大好きなヒロちゃんのお願いを断ったから死んじゃった。

私のせいで死んじゃった。

お願いされた事は断ったら駄目なんだ!好きな子の願い事は断ったら駄目!断ったから死んじゃったんだ!


心の奥に刻まれた。今でも思い浮かぶトラウマの1つだ。



大好きな人が突然居なくなっちゃった。



事故から2ヶ月もしない内には、悲しみは大分薄れていた。小さい子は多分そんなもんだろうと勝手に言い訳している。

ある日、いつもの様にガキ大将の所に5,6人位が集まっていた。

ガキ大将が 、「誰か!お菓子買ってこい」って命令した。

くじ付きの駄菓子だ。

「真!お前が買いに行け!」ちょっと年上の子が命令した。自分が行きたくないから私に命令したのだ。

「わかった行く。」


素直な良い子なのだ真は!


「くじ、外れても怒らない?」恐る恐る聞いた。大将は「あぁ良いよ。」と言ってくれて、私は安心して買いに行った。

時々、外れると怒る事があるのを、見た事があるから怖かったのだ。

お店は200m位の距離で急げば直ぐなんだけど、私はブラブラしながら、鼻歌を歌いながら歩いていた。

ヒロちゃんが居たらなー、って思ったりして……そしてお店に着いた。

目的の駄菓子を買ってくじを引いた。

「ヤッパリ外れちゃった!」お店のおばちゃんに、袋に入れて貰って帰ろうとしたが、自分もそのお菓子が欲しくなりどうしようか迷ったあげく、買うことに決めた。

確か20円だったと思う、おばちゃんに払ってくじを引いた、「三等の当たり」だ!

やったー! ぴょんぴょん小躍りで喜んだ。

おばちゃんに袋に入れて貰って、大将のお菓子と間違えない様に、「右手は自分のお菓子!右手は自分のお菓子!左手は大将のお菓子!」と喋りながら、三等が当たった嬉しさでスキップしながら帰った。


到着して大将に左手の袋を渡し、恐る恐る「くじ、外れたよ!」て言ったら「おー」と言って外れたことを気にもしなかった。

ホッとして私は座ろうとすると、隣の子が「その袋何だ?」と聞いた。

「あっ!これは僕の!」「僕も買ったの」って言った。そしたら隣の子が、「何買ったんだ見せろ」って袋を奪って中を見た。

「あっ三等だ!三等当たってる」って叫んだ。

ガキ大将が、「真!本当は三等当たって、欲しくなって、自分も買って誤魔化したな!」「こら!それよこせ!」そう言って三等の景品を奪った。

私は、「違う違う、僕が買って三等当たったんだ!」涙目で訴えたんだけど、誰も信用してくれなかった。

大人になって今考えれば当然疑うよな!と思ったが当時4歳の私は、そんな誤魔化す事なんて考えたことも無く、誰にも信じてもらえない事が、非常にショックだった!

後々、正直者は損をする、バカを見る!と心底考える様になった。

よく神様が見ているから悪いことしちゃ駄目だよって言われるが、だけど神様は何にもしてはくれない。結局はいい思いした者勝ちなんだ!

小さいながら私はそう結論付けていた。

自分の為、損をしないため、嘘を言っても構わない、正直者にならなくて良い。って考えた。

しかし

母には、誠実な人になりなさい。真面目な人になりなさい。って良く言われていた。

自分に有利になるなら嘘も悪くない、イヤイヤ、正直者にならなくては駄目だ、……結論が無いまま悩み続けていた。

でも、私は少し心が歪んでしまっていた。

いざとなったら嘘を言う様になった。

余程悔しかったのだろう脳に深く刻まれているのだろう…今でも駄菓子の出来事を、信じて貰えなかった事を、思い出している。



5歳になった頃、遊び相手が居なくなった。

小学生の子達は勿論学校へ行ってる。

他の同い年位の子は、幼稚園に行き始めたのだ。私は「絶対やだ!」って駄々をこねて幼稚園には行かなかった。

なので、平日はひとりぼっちになっていた。

「ヒロちゃんが居ればなー!」時々ヒロちゃんを思い出していた。

その内近所に、仕事もしてないプラプラしている大人の人が居て、お兄ちゃんと呼んでいたその人の所に遊びに行くようになった。

漫画本が沢山あって、お菓子も食べさせて貰えたからだ。

万年布団があって薄暗くちょっと変な匂いがしてたけど気にはしなかった。

私は日課のように、家に勝手に上がり2階の部屋に入った。

また本を読んでる。

私は隣に寝転んで近くにあった本を読んだ。

大人が読む本だ。

漢字がある為、あんまり読まないで、絵だけを見ていた。女の裸がよく出ていて、男の人と何かしている漫画だ。

「何してるの?」と聞いたら、「大人になったらする事だよ、」「そうすると子供ができるんだ!」って笑いながら答えた。ふーん、意味が解らないまま、本を読み続けた。

その内、何やら股間がモゾモゾしてきて、痒いような何か変な気分になった。

お兄ちゃんに言うとチンチンを触ってきて、「気持ちいいだろう、」「大人になったらもっと気持ちいいぞ」と言って笑った。

意味がわからないが「ふーん」と返事をした。

毎回お兄ちゃんは触ってきた。


一番思い出したくない出来事…


自己嫌悪 。罪を背負った感覚を覚えた。


小学生6年生の頃だと思うが、自殺しようと考えた事があった。

当時なら珍しいと思う。実際鉄塔に登った事がある。

その時は、下を見て落ちた後の事を想像したら、怖くて怖くて落ちたくない、死にたくない!と考えて、急に怖くなり足がすくみ、体が固まってしまった。

降りようとするが、中々足が動かない、4時間くらいかかったと思うが地上に降りてホッとした事は、今でも記憶に残っている。

以来高い所に昇ると数秒後に飛び降りた後の想像をしてしまい、怖くて怖くて体が変になった。

それ以来私は1階の屋根にも昇れない高所恐怖症になった。


ついでに言えば、私は閉塞恐怖症でもある。壁とベッドに挟まれ、身動きがとれない状態のまま、放置された事があった。

その時に、私は気が狂いそうになり、以来狭い所が恐怖で堪らなくなっていた。

エレベーターは、極力乗らない様にしてたし、車でトンネルに入る時は、スピードを出して早く抜けだそうとした。

自分が運転する車に乗っていても、毎回、暫くすると息苦しくなり窓を開けていた。

歳をとって車での閉塞感の恐怖は薄れてきたが、時々息苦しくなり窓を開けることが未だにある。

今は死んで棺桶に入るのがとても怖い。

あの狭い棺桶に入って蓋されるなんて!考えるだけで、ゾッとする。

だから私は、死んでも遺体は見つからない様にしたいと、いつも考えている。

友人に「死んでるんだから恐怖何て関係ないだろ!」って笑われるんだけど、生きている今考えてるから怖いんだ。

他人には判らない恐怖なのだ。


私はダメな人間だと自覚した。


そして月日が流れ、


    私は中学生になった。


多分、皆は夢と希望を持って入学するんだろう、私は罪悪感と嫌悪感で、憂鬱な思いだった。

思春期になり、いろんな事に興味を持ち、知識が増えてきた。それが自分を貶めていた。そう、忌々しい出来事が思い出され頭から離れず、自分は生きていてもしょうがない、死にたいと又考えていた。

何の理由も無く、21歳になったら死のう!と考えた。

早くに亡くなったジェームスディーンに憧れていた。其までいろんな事、楽しいこと経験しよう等と考えていた。

ノートに死ぬまでにやる事を箇条書きに書いていた。富士山に登る、沖縄に行く、等々ー…そしてどうゆう方法で死ぬか考えた。

何日も何日も考えたが結論が出ないのだ。

飛び降りは…高所恐怖症な僕には無理だ。

思うたびに気が狂いそうになった。

そんな日々を過ごしていた 私はひょっとして、そうやって考えて苦悩する事を、楽しんでいたのかな?


私は以外と女子達に人気があった。

入学した時は二年生の女子達が、休み時間になると、クラスに来て私に会いに来ていた。かわいい男子がいると、話題になっていたそうだ。体操部の女子達が教室に来て、「写真頂戴」って言われた事があった。

良いけど、あるかな?と思った。

皆で家まで付いてきた。探してきたが「小学生の時に撮ったのしか無いよ」と数枚渡した。「これかわいい、あっこれは?」なんて言い結局全部貰って行った。

二年生、三年生になるとクラスメートや、下級生に恋文を貰うことが何度かあったが、その気になれず、みんな無視していた。

でも映画や祭りなどは、行きたいから一緒に行って欲しいと言われた時は付き合っていた。

でもその後の進展は当然無いのでした!思春期だから、女子に興味はいっぱいあったが、過去の嫌な出来事がよぎり、付き合ったら彼女に変なことするんじゃないかと、いつも頭にあって、付き合うのが怖かった。

今思えばもったいない事したな。

ちょっぴりの後悔だった。

人生最大のモテ期だった。


そして     高校生になった。


1年生の頃は、部活で忙しかった。

そう1年生は奴隷並に雑用をやらされてクタクタなのだ。

何の楽しい出来事も無く、つまらない1年を過ごした。

今思うと部活に入ったのは失敗だった。

2年生になり少し余裕が出てきて、遊ぶようになった。クラスメートと煙草プカプカ、マージャンしたり、学校サボってボーリングしたり、朝から夕方まで映画館で映画を見てたりしてた。

同じ映画を何度見た事か。

そんなちょいワルだった頃の6月半ばに、彼女と知り合った。


友達の彼女が、ある宗教にハマってて、修行する道場に通ってた。

俺達は「おい!それ胡散臭くないか?」「何かの勧誘で金取られるんじゃね」等と友達と話してた。

「宗教に余り興味がないみたいだから大丈夫じゃね?」余り心配してなかった。人の彼女だしどうでもいいや!その後は心配することを止めた。


ある日、いつもの様に友達の家に集まってた時、友達の彼女が訪ねてきた。

部屋に入って来た、後ろにもう二人いた。「こんにちは。」「こんにちは。」二人ともニコニコ明るく印象の良い女子達だ。

俺らも軽く会釈した。聞くと、道場の先輩で同じ女子高の三年生だそうだ。

俺達と「友達になりたくて来ました!」と言われて、断る訳もなく「喜んで!」笑顔で答え各自、自己紹介して、その日は話が弾んだ。

翌日も皆で待ち合わせのパーラーに行って話し合った。

小柄な女子の方は、自分の感性に合うのか、話していると、凄く心地良くて段々と好意を持つようになった。

数日後に私は勇気を振り絞って、彼女に今度二人きりで会ってくれないか?こっそり聞いた。

彼女はニコリとして、「いいわよ」学校が終わったら、毎週金曜日は一緒に帰ることにした。

俺が彼女の乗るバス停で降りて、一緒に又バスに乗った。

そうすると、ほぼ座れないが、それが嬉しかった。揺れるバスに彼女は、俺の腕にしがみつくからだ。

彼女は、身長が低く152~3㎝位で俺は178㎝だ。チッチとサリーが好きだったから、理想のサイズだった。

家に帰るまでの一時間位、駅前の商店街を手を繋いでぶらぶら歩くことや、喫茶店で話し込んだり、図書館で勉強した事もあったっけ。

彼女は、英語が得意で、一生懸命勉強していた。

「頑張るなー」って言ったら、「うん!外国の人にも宗教の事を知ってもらうために英語で説明しなきゃね!」って答えていたっけ。俺は正面に座って、真剣に勉強してる彼女の顔を見る事が好きだった。

可愛くて可愛くて堪らなかった。もう彼女が居ない人生は考えられない存在になっていた。

俺たちは、彼女の女子高でもちょっと有名になっていた。

「素敵なカップルで羨ましい!と学校で言われているのよ」と彼女は、嬉しそうに俺に話してくれた。

楽しい、嬉しい日々が続いた…


北国にやっと短い夏がやって来た。


あちこちの夜宮にも彼女と一緒に行った。

俺はいつものジーンズで彼女は浴衣で良く似合っていた。

手を繋いで何かを食べながら歩く!憧れていたシーンが今現実に起こっている!

何度も俺は感動していた。神社では、お爺ちゃんになっても仲良く居られます様に、と神様にお祈りした。

神様を信じない癖に…… 都合のいい事だと!


そして、ねぶた祭りが始まった。

クラブで踊るより何倍も楽しい祭りに参加して3日目の最終日、疲れも見せず最高潮に達していた俺は、彼女を引っ張り、駆け足で道を外れた角に連れてきた。

そして、

両手で肩を抱きしめ初めてのキスをした。

浴衣につけている鈴がチリンーと鳴った。

唇を合わせ数秒で離れ、顔を見つめた。

「好きだよ」と言ったら、彼女は満面の笑みでうなずいた。

言葉て言い表せないこの幸福感、空中に浮かんでいるような気分。


強く抱き締めた。


又 唇を合わせた。 チリンー!


…チリン、 チリン チリン……


帰り道、俺は急に「わーー!」と叫びながら走り出した。

嬉しさいっぱいで、エネルギーが有り余ってしょうがなかった。

彼女は、「ビックリしたわ!どうしたの」って笑っていた。

へへっ。

俺も笑いながら手を強く握りしめた。


ーーー至福の夏休みだったーーーー


秋になって、彼女から、「はいプレゼント」と手編みのマフラーと手袋を渡された。

俺の好きなグリーン色だ! 手作りのプレゼントは初めてだった。

とても嬉しかった。

早速、マフラーを巻いて秋の公園の木漏れ日の中を二人でゆっくり、ゆっくりと歩いた。いつも夢に出てくるシーンだ。


そのマフラーは、今でも大切に保管している、と言うか見ないようにタンスの奥に仕舞っている。


ある日、俺が元気無さそうにしてたらしく、気になって「どうしたの?」と心配そうに聞いてきた。

「実は親父が胃潰瘍で入院してるんだけど、癌なんだ!もう手遅れだって言われたんだ」と答えた。

彼女は暫く考えて、「私に、病気を治す力は無いけれど、御父さんの為にお祈りをしてあげたい!」「少しでも力になりたいの」と真剣にお願いされた。

あぁ宗教のお祈りか…俺は信じていないが、彼女の気持ちが嬉しかった。

「勿論良いよ!今から行く?」「うん!」


病院に行って、両親に彼女を紹介した。

そして彼女は椅子に座り、手を胸近くに持っていき、目を瞑り祈った。

5分くらいかな?俺は変に思われない様に、両親と雑談をしていた。

帰り際彼女は、私に力無くてごめんね。

もっと修行して力つけなきゃ!云々。って真剣に話すものだから、俺は「大丈夫医者も治せないんだもの気にすんなよ!」と慰めた。

思いやる心持ちが嬉しかった。

その後お見舞いに三度来てくれた。勿論お祈りも忘れず……。


新年を迎えることが出来ずに父は亡くなった。

彼女は涙して「ごめんね!」と言った。

全く悪くないのに、何でそこまで思い詰めるんだか判らなかった。

葬式にも来てくれた。

墓石の前で俺は彼女の手を強く握りしめた。俺は死ぬ前に将来のお嫁さんです。って思いで彼女を紹介したことが、父は喜んでくれたかな?って考えていた。

多分理解してくれたと思う。


冬休みに、俺の部屋で二人並んでコタツに入って「荒井由美」のアルバムを聞いていた。

暫くして俺が「卒業したら働くの?進学するの? 」 と彼女に聞いた。

「うん…、」

「ちょっとネ…考えてるんだ、暫くバイトでもしようかと思っているんだ」と答えた。

俺にはどっちでも良いことなので、軽い返事でそう、ふーん。

どうせ俺が、卒業して就職したら直ぐ結婚するつもりだし、1年間は好きなことすればいい!って考えていた。


冬休みも終わり、寒さもあって、出歩く事が少なくなっていた。

彼女と中々会う機会が少なくなっていたが、これっぽっちも不安は無かった。


卒業式終わった後、どうするか皆で話し合った。ヤッパリみんな考える事が同じで、パーティーをすることになった。

プレゼントを各自買ってきて、くじ引きで選ぶって事をすることにした。

料理も予約したし、準備万端!

わくわくウキウキ………。


卒業式 前日の夕方


彼女の親友が、家を訪ねて来た。

明日のパーティーの確認かな?と思いながら笑顔で「なーに?どうかした?」と聞いたが、彼女は真剣な顔で、しかも悲しげな表情で、「手紙預かってきたから渡すね」と封筒を差し出した。


❓?「何かあった?」底知れぬ不安がよぎり、恐る恐る受け取った。

「実はね、今見送りに行ってたの!」

「えっ!」

「ど、どうゆうこと!」

「○○ちゃん今電車に乗って、東京に行っちゃったの!」「私は上手く説明出来ないけど、手紙に理由書いてるから渡してって頼まれたから、読めば判るみたいだから、読んでね。」

「彼女も辛くて悲しくて、ずっと泣いていたよ」「何も助けてあげられずごめんね。」って言って帰って行った。


俺は手紙を握りしめ階段をかけあがり部屋に入った。

何で?

東京に行ったってどうゆう事?

何で? 何で! 部屋に入り封筒を開いた。

とたんに悲しいことが書いてある!と怖くなり手が震えた。

俺は手紙を床に置き、震える両手をその横に付いて手紙を読んだ。

要約すると、俺達との出会いは、宗教を知って貰いたい為だった事、

でも会って話している内に真をだんだん好きになっていた事、

宗教に対する自分の決意と目標等の事、

東京へはずっと前から決まっていた事、

真と会えば決心が鈍り全てを捨ててしまう気がするから会わずに東京に行く事、

等々書いてあった。


最後に、私が大好きになった貴方には、必ず素敵な彼女が現れるから、其まで待っててね。貴方の幸せを別の空の下で祈ってます。

ご免なさい、私も辛い、ごめんね。……


俺は両手で両目を覆い嗚咽した!


何でだよ!何でだよ!


何十回となく叫んでた。

宗教の修行してたって、俺と付き合うことはできるでしょ。何で別れなきゃならないんだよ。………修行終わったら、又付き合えばいいじゃねーかよ。

不満を一杯叫んでいた。


後々、彼女の友人が言うには、修行中は気が散るから、娯楽・恋愛は禁止だそうで、又いつ修行が終わるのか判らないとの事で、私も「修行終わったら連絡して付き合ったら?」と説得したんだけど、「ずっと待たせるより、新しい彼女作った方が、良い!」って言うの。

「バカな!」彼女を説得したくて連絡先を教えてくれと頼んだが、友人にも連絡先を知らせてないみたいで、なす術がなかった。


その日から、只哀しみに暮れた日々を過ごしていた。

通学バスに乗ると、彼女を思い出すので辛くて、辛くて、自転車で通学する事にした。


高校三年生の夏休み。


俺は一週間東京に行った。

彼女を捜す為だ。

無理なことは充分解っているけど、何かをやらないと居られないから、とりあえず、暮らしているだろう東京で捜す事にした。

山手線に何周も乗って、偶然出会う事を願ったりもした。

土地勘が全くなく、当時はスマホが無いので、調べることもままならず、只立ちすくむばかりだった。

渋谷にある宗教の集会所を探した。

「◯◯さんはこちらに居ますか?」と聞いたら、「家族ですか?」「家族以外には教えられません!」素っ気ない返事でした。

何も言えず、入り口の前で夕方まで、出入りする人を確認していた。

やはり、見つからなかった。

帰路の途中に、渋谷交差点で信号待ちしていた時、人があっという間に集まってきて、俺は、もしこの中に彼女が居たとしても、見つけられるのか?そう思いつつ、青信号になり渡った。

余りに多い人を目の当たりにして、「無理だ……!」涙が溢れてきた。

歩道を渡り切ったとき、絶望感に襲われた。もう捜せない、駄目だ、もう無理なんだ!諦めるしかないんだ。

全身の力が抜け暫く動けないでいた。


無力感でいっぱいの俺は、東京から帰って来て 藁人形の様な、無気力な生活を過ごしていた。

学校が始まっても、彼女の事を思い出さない様に、只ひたすら部活を夢中になって練習していた。

数週間経ってふと彼女の事を考えていたら、彼女の名前を思い出せなくなっていたのに気づいた。


あれ?「え~と名前は何だっけ!」「ェ!…思い出せない」必死に思い出そうとしたが、ヤッパリ思い出せなかった。

でも

過去の出来事は、ちゃんと覚えている。

出合った時の会話も覚えているし、翌日に   パーラー 「しろたえ」に行って俺がプリンアラモード注文して、彼女はパフェを注文した事も、

図書館で勉強したことや、jazz喫茶 diskに行ったこと、ここは地下にあって薄暗く、壁側は長椅子になっていて隣に座って、肩を寄せあって会話したことも忘れず記憶にある。

でも彼女の名前が浮かばない。

色んな名字を思い浮かべてみて必死に考えてみたが、やはり判らなかった。


結局、今でも彼女の名前は思い出せないままだが、その事は返って良かったなのかも知れない。

彼女の事を、思い出す日が、少なくなってきた様に思えた。

その分辛く悲しい思いをしなくてすんだのだから。


これで 二度目だ!


大切な人が、突然居なくなっちゃったのは。


一体私は、前世にどんな罪を冒したのだろうか?


私の人生は、前世の「 罪 」に対する

「 罰 」を受ける為生きる事なんだろうか?


もはや私は、まともに人を好きになれなくなった。



辛い ……







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前世の罪 はな @kuma7328392

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