♡全部飲んでミルクガール♡

x頭金x

第1話

 初夏、夕方、ミルクアイスを咥えながら犬の“ぬえ吉“の散歩のために海岸沿いを歩いていると、前からクラスメイトの笹井真帆が同じようにアイスを咥えながら歩いてきた。


 僕と笹井真帆は3ヶ月前、高校に入学して出会った。名前が近く、入学当初は僕の後ろの席が笹井真帆だった。出身中学や、部活の話をしたのを覚えているが、すぐに席替えがあり、それ以来話した記憶はない。ただ僕は笹井真帆が5月の終わりに髪型を変えたのを知っているし、梅雨入りと同時にスカートが少し短くなったのも知っているし、履いている靴の臭いも知っている。そして今は、彼女の咥えているアイスの種類を知りたくてたまらない。


「あれ?坂井君じゃない。あ、そっか、家ここら辺だったよね」


「笹井は違うよね。友達でもいるの?」


「ううん、彼氏」


 僕は口からアイスを抜き出し、彼女の口に突っ込んだ。そして彼女の手に握られたアイスを奪い取り、“ぬえ吉“に嗅がせた。


「これは、ホムーランバーのチョコ味だね」と“ぬえ吉“が言った。僕はそのアイスをなめたかった。なめてなめてなめたかったが、やめた。15年間生きてきた中で、1番の葛藤と言っていい。堪えた僕を褒めて欲しい。僕はそのアイスを笹井に返し、ポケットに手を突っ込んで、中に入っていた小銭を数えた。


「100円で足りる!?」


 僕は笹井真帆に訊いた。


「う、うん」


 笹井真帆は僕のミルクアイスを咥えながら答えた。少し溶けて、白濁した液体が唇から溢れ落ちた。


「全部飲んでミルクガール!」


 僕は海岸線を走り去りながら言った。“ぬえ吉“が後を追いかけてくる。夕日が海に片足を突っ込んだ。涼しげだ。

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