第233話 少しの時間と死

「ぐぅっ……」


 口から短い言葉を吐き出しながらレンは、膝をつく。レンの正面にいるのは、ディザスターだ。


 時間を稼ぐために戦ったもののレン1人でどうにかできる時間も大したものではなかった。


「オワリ、オワリ……クシザシ!クシザシ!」


 レンを狙うかのように触手が蠢いている。


「ちくしょう……」


 死を覚悟しつつ声を出すが、直後に魔法が放たれる。


「フラッシュ!」


「ガァァ!」


 ディザスターが怯んだ隙に、レンは後ろに後退する。


「アルキア王子!」


 魔法を放った人物にレンは声をかける。王子である彼がレンを救ってくれたのだ。彼も魔法を使えることを知らなかったが今は驚いている余裕すら無い。


「あと少しです!レン殿」


 と言ってくる。



 周囲には、聖騎士たちもこちらに追いついてきたようで、アルファードとフェインドラも来た。


「よう、レン。本当にお前は大した奴だな!」


「あなたがいなければ、とてもじゃないがこの国を守れなかったですね」


 と声をかけてくる。未だに2人の足取りは快調ではないので黒い煙の影響が残っているのは確実だ。



「あと少しです!」



 そう、あと少し。みながその思いでこの場に立ち続けているのだ。


 だが、そのあと少しが永遠のようにも感じられた。



「ジャマ、ジャマァァア」


 直後、凄まじい速度で放たれた触手が自らを叩き飛ばすのを感じレンはほんの少し後ろに飛ぶ。


「ぐぅっ……倒れるわけに……は……」


 だが、身体が動いてくれない。頭を激しく揺らしたレンは、後ろに倒れていくのだった。




「レェーーン!」


 倒れたレンを見て、アルファードが剣を触手に叩きつけるも、あまり効いてはいない。


「不味い、レン殿が殺されてしまう」


 フェインドラの言葉の通り、多くの触手がレンを狙うかのように動いていた。アルファードとフェインドラ、2人が走り出す。


「迎撃が間に合わねぇ」


 アルファードが吐き捨てながらも足は止めない。


「レン殿……迎撃は間に合わない。ならば!」


 フェインドラが大きく跳躍する。




「俺は……!」


 意識が戻ったレンは、すぐさまこれまでのことを思い出し、再び立ち上がろうとした。


 だが、目に映ったのは……



「フェインドラさん……」


 レンの前に立ち、レンを庇い、その身を貫かれたフェインドラの姿だった……



「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 レンの叫びが響いた。

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