第220話 緊張感と戦いの始まり

 勇者が出てくるなどの面倒な出来事があったものの、神聖国における開戦までの時間はすでに1日を切ろうとしていた。あの勇者は役に立たないだろう。多分、将来的に活躍してくれることを祈ろう。


「あと24時間切ったか……」


 スマホの時計を見ながらレンは呟く。月曜日が迫ってくる日曜日にも似たような発言をしていたものだが、24時間後の学校と、戦いでは規模が違いすぎる。


 住民の地下への避難は進んではいるが、ギリギリになりそうな状況だ。中には、このまま残ると言う頑固な人もいるが、そんな人は聖騎士に無理やり連れて行かれている。



『肩に力が入ってますね、マスター。仕方がないこととは思いますが……』


 徐々に緊張を感じつつあるのは自分でも分かってはいる。


「ああ……これまでの戦いの中でも最も嫌な気分だよ」


 自分が死ぬかもしれない神の予言……かなり気掛かりだ。


『死亡率は、33.3%と言ったところでしょうか……』


「ははっ……結構高い気がするなぁ……」


 ゲームなんかのレアキャラも1%の確率でもゲットできるものがある。30%以上ともなれば恐ろしい確率だ。


『あまりゲームなどで例えてはいけませんよ。生きる努力をしましょう』


「戦いが始まれば、気持ちも切り替わるさ……どうにか切り抜けたいな」


 神託をねじ曲げることも出来るかもしれない。諦めるのはまだ早いのだ。





「レンは、緊張してるみたいだな」


「ああ、命がかかっているからな……昔の俺を見てるような気分だ」


 フェインドラとアルファードが会話を行う。


「アルファードにもそんな時期がなぁ」


 フェインドラは、笑う。


「俺だって人間だからな、緊張することだってあるさ」


 と言いにやっと笑ってみせる。


「この戦い、絶対に乗り越える」


 とフェインドラが言い、アルファードも頷くのだった。




 翌日……ついに開戦の日がやってきた。聖騎士達にも緊張が走っているのが感じられた。


「いつ敵が現れてもおかしくない時間帯です。何か感じたらすぐにでも知らせるように」


 聖騎士長フェインドラが声をかける。



「奴らはどこからでも現れるからな……」


 武器を持ったアルファードが呟く。これまでの彼の経験がそれを物語っていた。


「それに魔門が現れるかもしれないし……」


 災厄と言うのであれば魔門の存在も気にしておくべきものだ。あれを消すのはかなり厳しいのだ。


「その場合は、レン頼みになっちまうな」


 と言いながらアルファードがレンの肩を叩く。現状、レンのデリートが最も魔門に対して有効なものになっている。


「任せてください。王都の時みたいにやり切って見せます!」


 握り拳を作ってレンは答える。



「乗り越えましょう!みんなで」


 後ろの方から声がして一同が振り返るとそこには、神女であるマルテリアがいた。アルキア王子も一緒だ。


「神女様、避難されなかったのですか?」


 フェインドラが驚きつつ聞く。


「ええ、私も共に立ち向かいます!きっとリディエル神は、助けてくださいます」


 手を組んで、穏やかに答える。


「私も彼女から離れはしません」


 アルキア王子も本気のようだ。



「さあ、我が国の命運はどうなるか」


 と言ったのは武装した聖王であった。国のトップである聖王すらもこの戦場に参戦したのである。


 立派な鎧に身を包んでおり、覇気すら感じられるものだ。




「リディエル神よ……どうか我らをお守りください!力をお与えください」


 神女の祈りに周囲にいるものは暖かいものを感じていた。レンも同様に力が漲る感覚があった。




 ドクンドクンと心臓が脈打つのがレンには感じられた。もういつ敵が攻撃してきてもおかしくないタイミングだ。


 気を抜かず周囲を良く見渡しておく。


『マスター、急に何かが神聖国に入りました……これは……』


「来たか……誰かが近づいてきてます!」


「わかった。それにしても凄まじい感知能力だな」


 フェインドラが感心しつつ頷く。



「神女様達は後ろにお下がりください、総員戦闘態勢に入れ!」


「はっ!」


 聖騎士長フェインドラの声かけですぐさま聖騎士が盾と剣を構えて戦えるようにする。



 正面からやってくるのは、魔族の集団に見えた。全員目が虚で何やら変な気配がした。


「操られているような感覚がするな!」


「ええ、王都の時に似ている……」


 アルファードの言葉にレンは短く返す。



 リディエル神聖国における戦いの幕が今、開けようとしていた。

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