第218話 対策と蘇生スキル

「そうですか……3人の内の誰かが」


 神女が言うのなら確実なのだろう。彼女は、嘘をつくような歳でもなく、これまでも多くの神託に救われてきたことがあった。


「はい……間違いありません」


 今にも泣きそうな様子で神女が答える。彼女としても人の死を知ってしまうのは辛いのだ。


「ならば、それを踏まえて動けば誰も死なずに終われるかもしれません。我々で運命をねじ曲げるのです!」


 フェインドラは、力強く神女に答える。


「そうですね。なにも起きないうちに悲しんでなどいられないですね」


「ええ、なにがあろうと守って見せましょう」







「それで俺、レン、お前の誰かが死ぬと」


「神託によるとそうらしい」


「それは……」



 レンとアルファードは、フェインドラに話があると声をかけられてやって来ていた。そして聞かされたのは、この3人の中の1人は、戦いの中で死ぬとのことだ。


「そう簡単にやられてたまるかよ!」


 アルファードは、神託など知るかと言わんばかりの反応だ。


「確かにお前がそうそう死ぬ運命とは思えないな」


 フェインドラは、笑って答える。



(死ぬかもしれないのに、凄い元気だな……いやいやいや、怖いでしょ!)


『これは、かなり慎重に行動しないと不味いかもしれないですね。当然ながらマスターが死ねば私も一緒に消えます』


 レンのスキルであるナビゲーターは、もちろん扱い主が死ねば消えるのは必然的だ。作った身体にナビゲーターさんを入れて出しておけば死ぬことはないだろうが……


「どうしましょうか……」


「そうだな、レンはようやく恋人が出来たんだ。ここで死ぬわけにはいかないよな」


「ほぉ、レン殿も隅に置けないな。どんな子なんだ?」


 と会話が逸れていった。


「ちょっ、作戦考えましょうよ!」


 レンは話を戻そうとする。


「モチベーションは、大事だぞ!可愛い恋人のためなら頑張れるんじゃないか?」


 良い笑顔でサムズアップしてくるアルファードをレンは、む……と見つめる。


「からかい過ぎるのもかわいそうだぞ。さて、真剣にいくぞ」


 とフェインドラが手を叩いて言う。期限は、2日しかないのだ。やれることが限られている。


 聖騎士長らの実力者が死ぬ可能性があると士気に関わるため、出来るだけこの話は漏らさないようにすることにした。




 話が終わり、レンは自由となる。神聖国の聖騎士達は、忙しそうに動き回っているのがよくわかる。住民の安全を第一にしなければならない。


(困ったなぁ……下手したら人生終わりだ。後悔しか残らないぞ)


『ええ、正直シャレになりませんよ。マスターに何か有ればエリアスがどうなるかもわかりませんし……』


 よくよく考えるとかなり深刻な状況だ。




「死ぬんなら生き返れば良いんだよな!」


 思いついたぞとばかりにレンは言ってみる。


『どうやって生き返るのですか?』


 ナビゲーターさんが疑問の声を上げる。当たり前の反応だ。


「そうだな、インストール!」


 レンは、目の前にユニークスキルを起動してアプリのストア画面のような表示を出し、検索のための場所をタップする。



「死者を蘇らせるスキルを表示してくれ!」


〈スキル〉蘇生(インストール不可)

     死霊術(MP1000)


 と表示された。


「いや……ゾンビは不味いだろ……」


 死霊術がとても気になってしまうが、これでは駄目だと思う。


『蘇生も使えないようですね』


 インストール不可と赤い文字で書かれていた。無理だとわかっていても蘇生のスキルを連続でタップしてみるが結果が変わることはない。


「検索して出るってことは使えるかと思ったけど……」


『まず、死者を蘇らせるということ自体が良いこととは言えませんからね……』


 確かにナビゲーターさんの言う通りだと思いレンは首を振る。案外、デメリットなんかも存在しそうだ。


「空振りに終わったけど他の対策を考えようか」


 時間がもったいないため他のことを考え始めるのだった。




 外では、多くの荷物が地下へと運ばれていた。なんでも神聖国は、地下に避難用の空間を作っておりそれを少しでも広げつつ食料等の物ものを運び込んでいるのだ。


「俺も手伝います!」


 と言いながらレンもそこに向かっていくのだった。








 場所は変わって帝国……


「天気が良くないですね……これは本当に来るかもしれませんよ。災厄とやらが」


 豪華絢爛な城の窓から外を眺める人物が呟く。天候は、雨が降り出しそうな状況だが何か感じ取るものがあった。


「バレルラ様……」


 彼に声をかける女性がいた。金髪の、ルティアに似た人物だ。目は、ルティアよりもキリッとしている。


「ミディア……君は、王国に逃げてくれないか?神聖国から来た手紙の通り災厄が起きるかもしれない」


 女性は、ミディア。王国第2王女であり、ルティアの姉だ。


「いいえ、バレルラ様と共に……逃げるとは、2人で行きましょう」


「逃げたい所だけど、皇太子としてそうもいかないね……」


 彼は、バレルラ。ミディアの婚約者であり、帝国の第1皇太子だ。


 彼の目的のためにも国を捨てて逃げると言うことは出来ないのだ。


「何も起きなければ……」


 届かぬ祈りを捧げるのであった。





 帝国に、1人入る者がいた。スティグマを討つため、その者はやってきた。


「災厄が始まろうとしているのね……神聖国の方も大丈夫か不安だけど……」


 呟きながら雨が降り始めた帝国の石畳の道を進む。



「この戦い嫌な予感しかしないわ。不味いことになりそうね」


 光明の魔女、レミ・サトウが雨の強まる空を見上げながら言うのだった。

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