第213話 信託と白き英雄
王子と聖王との話は終わったようで再び聖王の謁見の部屋に戻った。
「はぁ……1人は寂しかったな」
誰にも聞かれないようにレンは呟く。完全に自分はボッチ状態になっていたと思う。神女様が話しかけてきただけでそれ以外は誰も言葉をかけてくれなかった。
『私がいるではないですか……なんですか?エリアスでないと不満ですか?』
レンの言葉を1人だけ聞いている人がいたのだ。当然レンのスキルナビゲーターさんだ。
(ヒェッ……そんなことないですよぉ)
と焦りながらもレンは答える。怒らせてはいけない人は何人かいるがナビゲーターさんもその1人だろう。
「この度の王国との協定の話は、我々としても良きものである。これから数日程時間をかけて内容を詰めていきたいと思う」
と聖王がはっきりとした声で言う。王子はどこか安心した様な表情だ。
初めから聖王は、受け入れるつもりだっただろうが王子は緊張したのだろう。
「これで、これから起きる戦いに臨むことが出来ますね。お父様」
神女様が告げる。
「神女様……やはり何か見えたのですか?」
とアルキア王子が聞く。なんでも神女様には、神託が下されることもあるらしい。
「アルキア様、私達は夫婦になるのですからマルテリアと呼んでくださって構いませんのに……」
としゅんとした様子で神女が言う。神女様と言えども可愛らしい所があるものだと思う。
「呼び方はともかく、話を聞かせてやってくれ」
と聖王が口を挟む。
「わかりました。それでは、私がリディエル神から頂いた神託をお話しします……少し先の未来のことです。数日後かもしれないし数年後かもしれない」
レンは、自分がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。それだけ周囲がシーンと神女の言葉に耳を傾けているのだ。
「私が、知らされた未来。それは、帝国と我らリディエル神聖国において災厄が起きるかもしれないと言うことです。いつ起こるかまではわかりませんが……」
瞳を閉じて手を組み、神女様が告げる。
「災厄……まさか、ディザスター……じゃないよな……」
レンは汗が背中を伝うのを感じた。
「ん?何か言ったかね?」
と聖王がレンの方を見て言ってくる。言葉が聞こえてしまったようだ。
「失礼しました!」
「構わんよ。どんな意見でも欲しい所だ。何か知ってるのかね?」
自分にも意見を求めてくれるとは器が広い方だと思いながらレンは口を開く。
「実は……この前王都にスティグマが出した魔門というものがありまして……」
とレンは、語った。魔門から出てくる魔物の様なもの……さらには門の向こう側に広がる世界と黒い化け物達。母が言っていたディザスターという名前。
「そうですね。レンの言う通りです。あれは、この世界にあってはいけないものだ」
とアルファードが続ける。
「アルファードでも厄介なのか?」
「ああ、俺でも勝てないと思うぜ?」
聖騎士長の問いかけにアルファードが答える。確かにあれは、魔門から出さないように戦うべきもので直接戦えば勝ち目はないだろう。
「そうなれば私でも厳しいですね……」
と聖騎士長が言う。彼からはアルファードに匹敵するような力を感じるため、アルファードが駄目なら自分も駄目だと判断したのだろうとレンは思った。
「絶望的な予感がしますね……それに帝国もと仰いましたね」
苦い顔をしてアルキア王子が言う。
「はい、帝国にも同じことが起きることでしょう。すでに手紙を送りましたが信じてくれるかどうか……」
今の皇帝は、あまり良い人物ではないような話を聞いたため、レンは大丈夫だろうか?と思うのだった。
「下手をすれば国が消えることもありうるか……」
「ええ、最悪ありえるでしょう」
髭を少し弄りながら呟く聖王に神女が同意する。
「それでは、世界は……」
暗い声でアルキア王子が言う。周囲にいる聖騎士達にも暗い雰囲気が見られた。これだけの話を聞けるのはエリートの聖騎士だろうが、やはり国が滅ぶレベルの話では気持ちが持たないこともあるだろう。
「いいえ、希望はあります!」
だが、神女がはっきりと言葉を発する。みなが一斉に注目した。
「まだ神託は続いておるのじゃ」
と聖王が言ったためみなが耳を傾けた。
「はい、崩壊が迫りし時聖なる地に神は君臨し白き英雄が現れることだろう……と」
なかなか漠然とした言葉が出てきたものだなぁとレンは思った。
「リディエル神聖国で間違いないですね。それに、白き英雄とは……」
「私に分かるのは今言った言葉のみです。確信も得られてないので予測は危険と判断して控えております」
神女には思い当たることがあるのかもしれない。だが、確かにただの予測は危険だ。結果的に全てを台無しにする可能性もある。
「いや……まさかな〜」
と言いながらアルファードがレンの方を見てくる。
「いやいやいや」
レンは首を振る。自分がアルファードや聖騎士長を差し置いてどうにか出来るとは思わなかった。
「まあ、レンなら黒い英雄って感じだからな。実際、破黒の英雄って言われてるし」
と返される。喜んで良いのだろうか?
アルファードが破黒の英雄といった時、聖騎士の中では何人か反応があった。やはり知っている者もいるのかな?とレンは思うのだった。
長旅からのいきなりの会談であり疲れただろうと言うことで解散となった。レン達、アルキア王子の護衛は宿に向かうことになる。王子がいることもあり高級だ。
「それにしても嫌だな……またスティグマが関わってくるとか」
レンはため息をつく。
『まだ近日中にと言うわけでもないかもしれません』
とナビゲーターさんは言うがこういうことこそ、近いうちに起きそうだと思ってならないのだ。
『英雄が誰かはさておき、デリートが必要ではあるね』
とレイが珍しく声をかけてくる。
「ああ、魔門を消すにはそれしか方法がないだろうな……」
『そうだね、お母さんなら何か考えを持ってるかもだけどいない人を言っていても始まらない』
自分の力でどうにかしなければならないのだ。
「どうしたんだ、レイ?レイがお母さんなんて言うなんて?」
レイの発言に引っかかったレンは、聞いてみる。
『ん?いや、失言だ。忘れてくれないかな?僕でもうっかりはある』
うっかりお母さんと言う奴か……と思いながらこれ以上は言わない方が良いのか?と思う。
『考え込んでても仕方がありませんよ、マスター。少しでも良い動きが出来る様に常に万全にしておきましょう!』
「ふふ、そうだね、ナビゲーターさん!」
と言いながらレンは立ち上がるのだった。
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